◇後日 アインちゃんの部屋
それぞれに部屋を与えて、アインちゃんには本がたくさんある部屋を与えた。
そして現在、みんなで彼女の部屋に集まっていた。
「いやいや、そのぉ...あれは言葉の綾というか...あややというか...」
「...奴隷として連れてこられた私たちに選択肢なんてないですから...」と、絶望の表情を見せるアインちゃん。
そんな彼女の表情にあの最悪な結末が頭を過ぎる。
「大丈夫。俺は君たちに何も要求しないし、何もしない。この城で自由に気ままに生きるといい。ここに居ればゴブリンが襲ってくることも、奴隷商人に嫌なことをされることもない。つまりは自由ということだ!」
「自由って...。どうせここからは出られないんでしょう?牢獄と変わりないじゃない」リベルちゃんが続く。
「まぁ、そういう捉え方もできるが...。安心で安全で快適な牢獄と捉えてくれれば、いいと思う!」
「...あなたは一体何がしたいの?」と、ナーベちゃんが不審そうにそう呟く。
「何がしたい...というならたった1つ。君たちに幸せになってほしい。ただ...それだけなんだ」
「...幸せにって...なれるわけないじゃないですか...こんなところで...」
それなりの地獄は既に見てしまっていたのだろう。
てっきり俺はこの悪役である俺が近づきさえしなければ、彼女たちは幸せな人生を歩めると思っていたのだが、そんなことはなかったらしい。
ほっといても地獄を見ることになるなら、何としてでも救ってあげなければならない。
彼女たちには笑っていてほしいから。
それからも頑張って話を振るが一切心を許してくれる雰囲気はない。
「えっと、その...」
「もう部屋に戻っていい?自由にしていいっていうなら」
「私もそうさせてもらうわ」と、リベルとナーベが部屋に帰ってしまう。
2人きりになると余計に怖がるアインちゃん。
「...ごめんね」
これから長い時間をかけてゆっくりと誤解を解いていく。それしかないな。
それから1週間ほどは一切彼女たちとは関わらなかった。
城の中では自由に行動させ、いつでもどこでも行けるようにしていた。
当然、城の出入り口はしっかり固めているので、城を抜け出すようなことだけは出来なかったが。
そうして、1週間経過したある夜のこと。
まずはアインちゃんの元に行くことにした。
コンコン
「...はい」
「入っていいかな?」
「...どうぞ」
扉を開けると、無数の本が置かれていた。
「す、すみません...今...ぜ、全部片付けます...」
「そのままでいいよ?」
「し、しかし...」
「気にしなくていいよ。本が好きなんだね」
「...はい」
勿論、彼女が本好きなのは知っていた。
だからこそ、この部屋を割り当てたのだ。
怯えた表情でこちらを見つめる。
まぁ、そう簡単に心を許すわけもない。
「俺のお気に入りはこれかなー」
「あっ、そ、それ...昨日読みました...」
「面白かったでしょ?」
「...はい」
「俺は基本城に引きこもっているだけだから、暇な時はこうして本を読んでいるんだよね」
「...そう...なんですね」
「何か読みたい本のリクエストがあったら言ってね?何系が読みたーいとか、この作者の本が読みたーいとか。俺に言いづらければセバちゃんにでも言ってくれればいいから」
「...はい」
「それじゃあ、また今度ね」
「...そ、それだけですか?」
「え?それだけって?」
「...てっきり...夜の相手をしろと言われるのかと...思ってました」
「言わないよ。嫌がってる子にそんなことをする趣味はないし。言ったろ?君たちには何も要求しないって。たまにこうして俺と話をしてくれればそれだけでいいよ。特にアインちゃんとは本の趣味も合いそうだし」
「で、でも...私たちを奥さんにって...。それって、子を孕めということではないんですか...?」
「違う違う。ただ、そばに居てくれれば、幸せに生きてくれればそれでいいから。良かったらおすすめの本とかあったら教えてくれたら嬉しいな。それじゃあね」と、言い残して部屋を出ようとすると、「待ってください...」と言われる。
「ん?何?」
「...わからないんです。メイドさんやシェフさんとか...元奴隷の方々は皆...楽しそうで...自由で...。誰1人文句も言ってないですし、ラン様の悪口を言ってる人なんて1人もいなくて...。そんな人初めてで...」
「...そっか。まぁ、そういう変わったやつもいるってことだね」
「...不安なんです。何か命令...して欲しいんです」
「...命令って言ってもなー...」
実際、何かさせたいとかないしな...。
「それじゃあ、週に一回こうして俺と2人で話をしよう!雑談とか本の話とか!本をおすすめし合うとか楽しそうだし!ほら、話し相手セバちゃんしかいないからさ」
「...それだけですか?」
「うん!それがしたいな」
「...わかりました」
そうして部屋を後にするのだった。
◇
翌日のことだった。
いつも通りベッドでゴロゴロとしていると、部屋をノックされる。
「ん?セバちゃんかー?」
「あっ...い、いえ...アインです...」
アインちゃんが俺の部屋に?
何かあったかと思って急いで部屋を飛び出す。
「アインちゃん!?どうしたの!?」
すると、一冊の本を持ったアインが立っていた。
「...この本はお読みになられましたか?」と、本を手渡される。
「え?...読んでない...ね」
「...大変面白かったので...その...おすすめあったら知りたいと言っていたので...迷惑でしたか?」
「いやいや!そんなことないよ!わざわざ教えに来てくれたの?」
「...はい」
「そっか...。ううん、ありがとう。読ませてもらうよ」と、ポンと頭に手を置くと、「...はい!」と、照れながら嬉しそうにそういった。