「ふぁ...眠い」と、大きなあくびをかます。
「おぼっちゃま。失礼ですが12時間寝て眠いというのは...」
「だって眠いもんは眠いんだもん」と、拗ねた子供のようにそんなことを言う。
「...ルイン様が亡くなって1年...、現在の当主はラン様でございます。もう少し、当主としての御自覚を...」
「あのねぇ...いい家に生まれただけのおぼっちゃんに当主としての自覚なんて芽生えるわけないだろ。凄かったのは俺の父で、俺じゃないんだよ」と、あくびをしながらそんなことを言う。
「...はぁ」
「それより、ちゃんと奴隷市場には通っているのか?」
「もちろんでございます。しかし、すでにメイドはおりますし...雇う必要などないのでは?」
俺は奴隷制度が嫌いなのである。
けど、同時に人身売買はどうやってもなくならないことは分かってる。
だから、とりあえずこうしてうちで雇うことにしているのだ。
「メイドが足りているなら、奥さん候補でも何でもいいから雇えっての。どうせお金は腐るほどあるんだし」
「...腐るほどはないです」
既に10人ほどメイドとしてやシェフとして雇っているわけだが、それも限界。
皆、手が空いてしまっているのだ。
暇というのもまた苦痛の一つなのである。
「そもそも奴隷を妃にできるわけないでしょう」
「はいはい。とりあえず、今日もノルマは3人。ちゃんと買ってきてよー。それと白髪と赤髪と青髪の子がいたらお金やノルマに関わらず全員買うこと。これ、必須ね」
「...はぁ」
まぁ、これはいわば保険だ。
この世界で俺は大人しくしているのだから、彼女たちが悲惨な運命にあうことはないだろうとは思っているが...。
念には念というやつだ。
羊の執事のセバちゃんにそう命令して、またしても俺は眠りにつくのだった。
◇
コンコン
「...んぁ?だれぇ...」
「セバちゃんでございます。開けてもよろしいですか?」
「...いいよー」
「ありがとうございます」
そうして、セバちゃん以外に3人の女の子が入ってくる。
「...仰せの通り、奴隷市場で買って参りました。まだ、売られて間も無くで傷は少ないかと」
そこに居たのは畏怖と怒りと無関心で見つめる3人の女の子...。
俺は彼女たちを知っている。
この胸クソNTR鬱ゲーのヒロインの3人である。
全員が全員どのルートでも最悪のNTRルート、主人公の前で奴隷商人達に遊ばれたり、ゴブリン達に嬲り犯されたり、この裏ボスである俺が3人ともを死ぬまで弄んで蘇生させまた弄ぶという地獄のような連鎖ルートだったり、一つの救いようもない世界生まれたヒロインたちなのだ。
正直、何度もやめようと思ったが、これがせめてもの供養だと思い何とか全クリしたわけだが...何もしてない俺のところに奴隷としてくるなんてルートはなかったはず。
つまり、すでにこの世界はあのゲームにはないトゥルーエンドに向かっているのでは?いや、そうじゃなかったとしても俺が全力でトゥルーエンドにしてやる。
「君たち、自己紹介を」と、セバちゃんが言う。
「...アイン・ルルーです...」と、小さな声で呟くのは青髪の美少女アインちゃんだ。
とにかく大人しくて純粋で可愛い女の子だ。
「...リベル・マハート」と、目を逸らしながら嫌そうに呟くのは赤髪の美少女リベルちゃんだ。
元貴族のお嬢様なのでプライドが高く、いわゆるツンデレロリッ子である。こう見えて意外とちょろいのだ。
「ナーべ・カルシュ」と、クールにつぶやくのはこの作品の主人公の幼馴染である白髪の美少女ナーベちゃん。
クールだが好きになると暴走してしまうタイプの普段はダウナー系の女の子だ。
しかし、改めて見ると本当にみんな可愛いな。
が、全員が全員俺に疑いと恐怖を抱いてるわけなので、まずは誤解を解くためにこう言い放った。
「みんな、俺の奥さんになってよ」
「「「は?」」」