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出会い結ばれ始まる

だけど、自分はこの世界を知りたい。


...いや、そんなのは嘘だ。

ふふっ、小さく笑う。


今、会おうとしてる、

本当の理由は単に

会いたくて会いたくて

仕方がないからだ。


今、会わないと

彼女が消えてしまいそうで不安だからだ。


この世界がどうであろうと、

自分は彼女に会いたい。

それ自体が目的だ。


この世界について知りたいだとか、

そんなのはついでだ。

そうに決まってる。


彼女が恋しい、

会いたくて会いたくて仕方がない、

愛おしくて...仕方がないんだ。


でも、そんな自分の想いを

認識するのは怖い、認めるのは怖い。


だって...だって、

彼女を好きであればある程、

不安で不安で仕方ない。


会えるのか、一緒にいられるのか、

彼女は自分を受け入れてくれるのか、

自分を...好きになってくれるのか。


あぁ、自分は彼女に好かれたいんだな。

今、気付いた。


不安だ。

不安でどうしようもなくて、

まともじゃなくなっちゃいそうだ。


この世界がどんなであろうと、

どうでもいい。


どうせ、この世界は夢じゃないか。


ただただ、そう、ただただ、

彼女の事しか考えられない。


彼女が世界だ。

彼女以外、何もない。


ただ、彼女がいるんだ。

愛おしい彼女がいるんだ。


彼女への愛おしい想いがあふれて、

洪水みたいに心が覆われる。


そんな中、ふと、理性を取り戻した。


あれ、今、どこにいるんだっけ。

今まで自分はどこを

どう歩いてたんだろう。

サッパリだ。


周りをキョロキョロと見渡して、

現在の位置を確認する。


すると、なんだか、

彼女が近くにいる気がして、

執拗に周りを確認してしまう。


馬鹿みたいだ。


ほんと、彼女に心を

囚われてしまっている。

自分をとらえるのなら、

自分を好きになって欲しい。


彼女の言った住所は、

[縦13横22]だっけか。

住所から家を探すのは初めてで、

この住所が見つかるか少し不安だ。


アリシアこの国、社会マス目の様な配置で、

1辺110mの正方形の庭がある。

そして、庭と庭の間には川が流れ、

川をまたぐ為に橋が掛けられてるんだけど、

住所とは縦何番目、横何番目の、

庭であるかを示したものだ。


そして、家は庭の中、

庭の角にあるから、

住所は家の場所を示しているとも言える。



~どう行けばいいか、

わかればわかるほど、

足が速く動いていた、走っていた。


早く、会いたい。

ただただ、そう思った。

だから、走る。


彼女の言う場所までは2kmくらい。

道に迷わず走れば11分で着く。


自分でも驚くくらい、

速く走っているんだろう。

だけど、そんな事には

大して意識が向かないくらい、

心は彼女だけになっている。


彼女が今、傍にいないからか、

彼女が、ただただ特別で

不思議な存在に思えてくる。


会ったら、全てが変わる気がする、

世界が変わる気がする。

この世界が夢になって、

彼女の傍に自分がいる世界が、

現実になる気がする。


早く会いたくて仕方なくて、

遅く走れない。

息が苦しいだとか

足が痛いだとかの理由じゃ

止まれないくらい、

早く会いたくて仕方ない。


会いたい、声を聴きたい。

彼女はどんな風に喋って、

どんな仕草をして、

いつもどんな風に過ごしているのか、

知りたい、感じたい。


彼女の事だけを考えて走っていると、

夢の中を駆けているみたいだ。

非日常感が世界の色を変える。

自分はこの世界と異なっている。


いぶかしげな眼で見つめてきた事、

恥ずかしそうに顔を赤くして、

目を逸らした事、

笑顔で「またね、バイバイ」と言った事、

全てがただただ愛おしい。


愛おしい部分が彼女にあったから、

彼女が愛おしいんじゃなくて、

彼女自体が、彼女の全てが愛おしいのだ。



~気づいたら、地面に倒れてた。

喉が痛いし、肺は苦しいし、

心臓は痛くて苦しい。

太ももは鈍い痛みを発してる。


でも、すぐに起き上がってしまう。

早く会いたい。


夢の中にいる様な意識が、

今、現実に対して焦点が合う。


コンコンッ、ドア来訪告知ノックする。

あっという間の2秒で

ドアが少し開く。


彼女が、ドアから顔を半分だけ

出してこちらを確認する。


会えた。

本当に今、ここに彼女がいる。

もう何もいらない。


彼女は小動物みたいな

愛くるしい目で、黒色の瞳で、

こちらをじっと見つめている。


そんな風に見つめられると、

おかしくなりそうだ。

体が固まる。

彼女を抱きしめたい衝動に駆られる。


...可愛い。やっぱり。

今度は口に出さないけど強くそう思う。


彼女は公域Sで見た、

3角形の突起が付いた、

ミネリア式帽子フードを被って、

自分の事をじっと見つめている。


数秒間,見つめ合って、

それだけで幸せだった。


彼女「あ、入って」

彼女が扉を大きく開く。


トウァ「......」

うまく声が出ない。


返事をしなきゃダメだとわかっても、

緊張して声が出ない。

彼女にどう接すればいいのかわからない。


不愛想に無言で家の中に入る。

家の中は自分の家と同じ作りだった。


当たり前か、アリシアこの社会に住む

大人おぅとは全て、同じ形、

同じ設備の家に住んでる。


だからか、まるで、

ここが自分の家の様な気がしてきて、

むしろ、彼女がいないあの家は、

自分の家じゃない気がしてくる。

そうであって欲しい。


この家に入る前の事、

彼女の傍にいなかった時間は、

全部、ただの夢だ。


ふと、さっき、返事をしなかったから、

変に思われてないか不安に感じる。


彼女は今、何を思っているんだろう。

挙動不審にちらちら彼女を見る。


彼女は自分を観察する様に、

優しそうな目でじっと見ているけど、

目を合わすのに、どこか抵抗がある。


そして、こんな時間に、

こんな場所にいる事も、

彼女という存在も夢みたいだ。


もう、彼女に酔ってクラクラして、

何が現実なのかもわからない。


彼女は、幻想に思えてしまう程、

可愛くて綺麗だ。


彼女が特別に感じられ過ぎて、

彼女が世界の中心に思える。

彼女がいて、その背景に

世界がついでにあるのだ。


自分にとってはそうなのだ。


彼女「緊張してる?」


キョロキョロしてて、

挙動不審だったのか、

彼女は聞いてくる。


そういえば、まだ名前も知らないな。


さすがに、これにも返事をしないと

本当に変に思われるから、

ひねり出す様に返事をする、

口を、喉を、肺をどう動かして

声を出すのか、

全て意識して声を出す。


トウァ「う...ん」

あまりにか細い声で情けなくなった。


彼女「フフッ、そっか。

そりゃあ、突然、

こんな時間に呼ばれたら

緊張しちゃうよね」

彼女は自分の緊張を

ほぐす様に優しく話しかける。


訝しげな眼で見つめてきた時の印象、

顔を赤らめた時の印象、

そして、今、

優しく話しかけてきた時の印象。

全部が新鮮で、魅力的で、

心が溶かされる。

彼女が心に染みわたる。


トウァ「うん...」

今度はさっきよりも、

すんなりと声が出た。


彼女「あ、名前、

まだ言ってなかったね。

私の名前は......アリシア、

ミネルシルト・アリシア。

...不思議に思ってるでしょ?」

彼女は躊躇ためらい交じりに、

自分の名前を言う。


そう。だって、アリシアは

アリシアこの社会という意味の言葉で、

いや、それだけじゃない。


アリシア「でも、今日は他にもいっぱい、

不思議な事があるんだ」

アリシアは少し得意げに微笑む。


トウァ「...自分の名前は、

ルネルシルト・トウァ。

...なんだか、似てるね」

彼女が自分と似た名字をしている。

なにか、運命を感じる。


アリシア「え...何で......そっか」

アリシアは軽く驚いた後に、

何か納得した様な微笑みを見せる。


何に納得したかは、

自分にもわかる気がした。


自分とアリシアはきっと、

昔から深い所で

繋がっていたのだ。


ふと、アリシアが何かに怯える様に、

慎重にゆっくりと喋る。


アリシア「今日、呼んだのはね、

理由があるの。えっと、ねぇ、

トウァは世界機構の授業で習った事とか、

幼い頃に教えてもらった事とか

...常識に......何か疑問とかない?」


今日ここに来るように、

アリシアに言われてから

なんとなくわかっていた。


この話をする事を、

今日が決定的な日だと。


そして、安心する。

独りじゃなかった。


トウァ「疑問...ていうか、

全部...疑ってる。

この世界を、

この世界を疑う自分の事も」

意図していないのに、

なぜか悲痛な声になる。


自分はずっと、

誰かに話したかったのかもしれない。


アリシアは自分が、

そう言う事を期待してた様に、

安心した微笑みを浮かべる。


その優しげな表情に、

心が溶かされていく。


アリシア「トウァ、今日はね、

この世界の事、トウァが多分、

悩んでいる事の答えを話したくて、

ここに呼んだんだ......

何となくだけど、

トウァなら大丈夫だと思って...さ。


でも、その前に見せたい物があるの。

.........驚かないでね......お願いだから」

アリシアはまた、

急に不安そうな表情になって

少し俯きながら上目遣いで言う。


息が震えてて、

緊張しているみたいだ。

心配になる。


トウァ「うん。驚かないよ」


サッ。

自分の目を見て、何か確認した後、

アリシアが意を決した様な表情を見せ、

突然、そのミネリア式帽子フードを取った。


黒い何かが、

引かれたミネリア式帽子フードで倒れて、

ミネリア式帽子フードが取れた反動で、

ピョコンと動く。


アリシアは少しうつむいている。

だから、余計にその黒い物がよく見える。


小刻みに、何回もピクピク動くそれは、

黒い獣耳ケモミミだった。


その獣耳ケモミミは、

サラサラしてて、

柔らかそうな黒い毛が

短くびっしり生えてて、

耳の内側には長めの細い毛が生えている。


そんな獣耳ケモミミが、

ピクピク小刻みに動いてるのを見て、

思わず手が伸びて、

途中でハッとして、手を引っ込める。


そんな自分の様子を、

アリシアはじっと見つめる。


触ろうとした事を見られたのが、

恥ずかしい。

悪い事をしようとしてたのを、

見られた気分だ。


アリシアは、

自分を不安そうに見つめている。

俯いたまま上目遣いで

じっと見つめてくる。


顔を真っ赤にしてて、

恥ずかしそうな、

不安そうな表情をしてる。


安心させてあげたい。

何を言えば安心してくれるか、

わからないけれど、とりあえず、

今、思ってる事を言う。


トウァ「可愛いよ、アリシアの獣耳ケモミミ

なんだか、言うのが恥ずかしくて、

目を横にらしちゃう。


アリシア「...本当?」

アリシアが自分の目を見て言う。


トウァ「うん、凄く可愛いよ」


アリシア「......ありがと」

アリシアは安心したような、

少し嬉しそうな表情をする。


アリシア「私には何でか

わかんないけど、生まれた時から、

この獣耳ケモミミが付いてたんだ。

この事は高人こぅとと私しか知らない」


トウァ「そうなんだ...」

アリシアは何か

この世界の事について、

知っているみたいだけど、

その獣耳ケモミミの事は知らないんだ。

不思議だな。


アリシア「...トウァ、教えるね。

この世界の事、この世界の...真実を。

トウァなら、私の獣耳を見ても、

驚かないでいてくれたトウァなら、

きっと信じてくれると思うから」

アリシア目が光る。


アリシア「まず、トウァに

見せたい物があるの」


トウァ「尻尾?」

少しふざけてみる。


アリシア「フフッ、違うよ。

私はね、ある物で

この世界の真実を知ったんだよ。

だから、それを見せるね」

アリシアはそう笑って、

寝床ベッドの裏をガサゴソとする。


そして、アリシアは、

青い何かを寝床ベッドの上に置いた。


アリシア「これだよ」

アリシアの手には、

肘から手首までくらいの長さの、

青色の硝子板プレパラートみたいな、

半透明で薄い数十枚の板があった。

[563842616/1677776019.jpg]

そして、その板には

溝で文字が書かれてる。

[563842616/1702227746.jpg]


アリシア「話すね。

この世界の真実をトウァに」

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