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異なりと異なり

~リベラクル「全員確認。

授業は11分後に開始される」


...ポンッ、肩を軽く叩かれた。


ロリセクロ「ぃやー嬉しいね。

今日,世界機構があったんだ。

1ヶ月に1回あるかないかの

世界機構が今日だよ」

ロリセクロは嬉しそうだ。

何でわざわざ、自分の前で

嬉しそうにするんだろう?


ロリセクロは、見飽きて最近は

くどく感じてきた笑顔をしてる。


トウァ「あぁ、良かったな」

どうでもいい。


するとロリセクロは

少しいぶかしげで

不思議そうな表情をした。


ロリセクロ「君は嬉しくないのかい?」


少し息が止まる。

1秒という変に長いを空けて返事をする。


トウァ「ん?嬉しいよ。そりゃあ」

その言葉が笑顔と共に出てくる。

こんな時だけ笑顔なのだ。

自然と不自然にそうしてしまうのだ。


自分は人から変に思われるのが

嫌なんだろうか。

自分とは何の関係もない、ただの人間に。


自分は他の人とは違う。

別にその事に良い意味も悪い意味も感じない。

ただの事実だ。


自分は他の人と違うから、

1人っきりになりたい。

何処か、ここじゃない何処かに行きたい。

そんな事を夢見てしまう。

ここじゃない何処かなんて

何処にもないのに。


ロリセクロ「そういえば、

君の表情は高人こぅとみたいだね。

かっこいいと思うよ」


トウァ「あぁ、ありがとう」

何も嬉しくないけど

こう言うのが普通だろう。


確かに、高人こぅとは自分と似た表情、

無表情をしている。

でも、同じなのは上辺だけだ。

自分は高人こぅとの様でも大人おぅとの様でもない。

なにでもない空っぽだ。


休憩時間が終わったのか

ふと、教師が言う。


リベラクル「これから身体測定を行う。

男は多目的室Aに、

女は多目的室Bに行くように」

それを聞いて生徒が

ぞろぞろと教室から出る。


自分も立ち上がって

彼らにいていく。


多目的室に向かう際は

2つ3つの教室を通るけど、

授業中に教室を通る時は

教室の後ろか左右の端を前後に通る。

石板の前を通ると授業の邪魔になるからだ。


と言っても多目的室に向かう人達は

誰かしらと賑やかに喋ってるから

うるさくて邪魔な気がするけど。


自分にそんな話し相手はいない。

たまに話しかけてくる人はいるが

てきとうに受け流していたら

いずれ、話しかけて来なくなる。

それでいいのだ。

きっと、ロリセクロもそうなるだろう。



多目的室Aに着いた。

多目的室は主に身体測定や病菌検査の時と

代謝効物や物道則の実験の時に使われる。


広さ形は教室と同じだけど

入口が3面に2つずつで6つある。

隣は職員室だけど

職員室とは繋がってない。

[563842616/1691525515.jpg]

まずは体重を測るか。

体重計に並んでる列に並ぶ。

列と言っても、自分は早く来たから

2人,待つだけで自分の番が来た。


体重計は円盤気味の球体に

板を乗っけた形をしている。


板は滑りやすいから靴を脱いで乗る。

すると、その球体の色が

自分の体重の圧力で

より鮮やかな色に変化する。

そして、どれくらい鮮やかになったかで

高人こぅとが体重を測定するのだ。


体重計の右に立っている

高人こぅとの職員が体重を紙に書く。

39.7kgか、普通だな。


次は身長だ。

7人くらい並んでる列に並ぶ。

身長は高い人で170.5cm、

普通の人は159.5cm、

低い人は148.5cmくらいだ。


高人こぅと大人おぅとよりも身長が高く、

大人おぅとの男性で身長が高い人は

高人こぅとの女性と同じくらいの身長だ。

学校の教師は男性なので

女性の高人こぅとを見かける機会は少ないが。


...自分の番が来た。

壁に背中を着ける。

すると、高人こぅとが自分の頭に薄い板を当てる。


この板が壁に書いてある目盛りの

何処に触れているかで身長が測定されるのだ。


高人こぅとが紙に162cmと書く。

去年からほぼ伸びてないな。

成長は終わったんだろう。

特に思う事はない。

ただ、平均,普通だ。


それから淡々と体脂肪率検査、

視力検査を行う。

体脂肪率は4%,視力は1.3だった。

全て去年と特に変わりはない。



~2時限目

全員の身体検査が終わり、

病菌検査が始まった。


これは1人1人の検査の時間が長いので、

待ち時間が長い。


ロリセクロ「病気があるといいね」

ぼんやりしていたら話しかけられた。


何故かその言葉に違和感を覚える。

何故だろう。やっぱり、

自分は何処かずれている。


そのずれがぼやけてて、

はっきり、こうずれてると

知れないのがもどかしい。


少し遅れて返事をする。

トウァ「あぁ、そうだな」


自分はいつも口数が少ない。

他の人とは違って、

喋りたい事がないのだ。


人と理解わかり合える事などない。

自分は他の人と違うのだから、

欠けているのだから。


ロリセクロ「胃が発達した胃癌、

性機能が発達したHIV。

病気は色々あるけど

何か引っかかるといいなぁ。

君もそう思うでしょ?」


トウァ「あぁ...そうだな」

何も疑う要素はない。

でも、直感が激しい違和感を発している。

今の言葉は嘘だったのだろうか?


ロリセクロ「どうしたんだい?

面白い表情をしてるよ。

君は本当に高人こぅとに似ているね」


面白い表情...

この表情は、この感情は何なのだろうか。

人の表情は真顔か笑顔しかないはずだ。

人の感情は普通か幸福かしかないはずだ。


そう、今まで学校で...。



~33分程,経ち、

今は自分の前に並んでた

ロリセクロが検査を受けている。


そろそろ、ロリセクロの検査が

終わるかと思った時,聞こえた。


「やったー、病気だ!

HIVだ!高人こぅとになれる!」

嬉しそうなロリセクロの声だ。


その声を聞くと何故か

心臓が嫌に強く打って、

息がしずらくて、

喜ばしい事の筈なのに、

ただただ強烈なまでに

明確な違和感を覚える。


まるで目の前の光景に

根本的な偽りがある様だ。


そう、夢であるかの様に。


その思いから逃げたくて、

胸の苦しみを消したくて、

この世界を現実だと思いたくて

皆に交じって叫んだ。


「おめでとう!」


それは酷く白々しい声だった。

その声は自分の声に聞こえなかった。



~4時限目

ロリセクロは検査を受けた後、

学院長と共に学校から出た。

ロリセクロは高人こぅとになるだろうから、

高人こぅとの住む世界に行ったのだろう。



病気や怪我などで

高人こぅとにすぐさまなれると

わかった者は死生院ししょういんに行き、

そこで高人こぅとになる為の

施術を受け高人こぅとになる。


そして、高人こぅとになった者は高人こぅとの世界へと

死生院ししょういんにある転送装置で行くのだ。


...その心の声も自分に

嘘をついているような気がした。


自分は誰も疑っていない事を疑っている。

この世界を疑っている。

この世界が夢なんじゃないかと疑っている。


そして、自分が狂っているんじゃないかと

自分を疑っている。


...教師が入ってきた。

世界機構教師「遅れた。

えっと、進級生がいるんだったな。

私はナマハメラメ・ナカダシ。

今日は今まで習ったことを復習する」

ナカダシはゆっくりと低い声で言う。


何故、高人こぅとは自分達と違って、

何というか静かで暗い感じなのだろうか。


普通の人は笑顔じゃない

表情でいる事はあまりない。

常に軽く微笑んでいる。


普通の人は...

あぁ、自分達じゃなかった。

そんな自嘲的な言葉が心の中に響く。


~ナカダシ「えー、我々は上民ジャンミンであり、

とても恵まれている。

この世界の中心にいる我々とは違い、

端にいる中民チャンミン,小民シャンミン

我々,上民ジャンミンの様に

大人おぅとより先に成長できない。


何故かと言うと、大人おぅとから高人こぅとへの

成長は急激であり、その急激な成長に

中民チャンミン小民シャンミン

体が耐えられず死亡するからだ。

それが故に中民チャンミン,小民シャンミンは寿命を持つ」


~「配られる食事はみなが満腹になる量だ。

それ以上,食べたら吐いてしまうので、

それ以上の量の食料は与えられていない」


~「この世界は世界神の思いであり、

世界神が定めた生活,人生を私達は過ごす。

過去から未来まで人生は、世界神によって

完璧に設計されているのだ」


~「我々は最大限に幸せだ。

何故なら世界神が思い描いた

完璧な人生を送っているのだから。

そして、人の感情は幸福であるか

幸福でないかのどちらかで

0と正の数の1次元で表せれる」


~「病気もしくは怪我と言って、

体のある器官が先天的な素質で

突如,高人こぅと並みの力を有する事がある。

その状態で、死生院にて、

ある施術を受けるとその器官を中心にして、

体全体が高人こぅとに変化していき高人こぅととなる。

また、病気や怪我の時は苦痛や倦怠感、

身体の違和感が生じるから

その際は教師に言ってくれ」


~「主な病気は老衰,HIV,癌、この3つだ。

このうち、老衰は44歳になると

必ず起こるから上民ジャンミンは必ず高人こぅとになれる」


教師は滔々(とうとう)と話す。

幼い頃から何回も聞いた話,聞き飽きた話。

それなのに教師は

今でも定期的にこの話をする。


いつもそうだ。

この話を聞いてると心臓が痛くなる。

感情が溢れてどうかなってしまいそうだ。


何故、そうなるのかはわからない。

ただ、高人こぅとの言う事は

何かが違う、違うんだ。


幼い頃、決まった時間より、

早くは寝れないと教わった。


でも、寝れた。

でも、他の人は高人こぅとの言う通りらしい。

他の人が、そうであった体験を

語っているのは何回も聞いている。


あの頃から自分は世界とずれはじめた。

高人こぅとの言う事に

実感を、正しさを感じない。

他の人は感じているのに。

自分だけが高人こぅとの語る世界とは異なってる。

自分は異物の様だ。


世界が正しくて

自分が偽りなのだろうか?

世界が現実で自分が幻なのだろうか?


ふと、視界の端に何か違和感を感じた。

3つ左の席に座る1人の少女。

謎のペタンと垂れた3角の突起が付いてる

ミネリア式帽子フードを被り、

服の中に顔を隠して目だけ出してる。


その目は何処か陰りがあって、

なんだか自分みたいだ。


同類...


そんなのを感じる。

あれ...というか、今更,気付いた。

雰囲気ばかり目について、

明らかな事に目が行ってなかった。


彼女の瞳は明らかに奇妙だ。


幼人よぅと大人おぅとの茶色でもなければ、

高人こぅとの紫でもない、

水色パステルブルー翠色パステルグリーンの中間の色,

アリシア色の不思議な瞳なのだ。

[563842616/1692416701.png]

何故、彼女は人とは違う色の瞳を持ち、

自分と同じ陰りのある目を

しているんだろうか。


初めて人に興味を持った。

彼女はどんな人なんだろう。

その目の下にはどんな顔が,表情があって、

いつも何を考えて生きてるんだろう。


彼女に見入ってしまう。


そんな彼女は何処か不満げで、

何処か悲しげで、

だからなのか彼女は美しかった。 



教師が入って来た。

代謝変換教師「今日は

進級生がいるみたいだな。

ラメヤメ・ナカハダメだ。


これから1年間,宜しく。

今日は公域Sに行って、

硬塊こぅかいを好きなだけ採集する。

いて来い」


4時限目も終わり、

5時限目の、今日最後の授業が始まった。


まぁ、終わっても

何か良い事が待ってる訳でもなく、

どうせまた明日,同じ様に学校があって、

こんな日々が延々と続くんだけど。


本当の終わりは...なんだろう。



~公域S

ナカハダメ「では、自由行動をして良いが、

その前にいくつか注意しておく。

ここはS,小位スモール

広さは1×1㎢程度だから

道に迷う事はないと思うが

一応,気を付けてくれ」


別に硬塊コゥカイを飼育したくないので

てきとうに歩く。


硬塊コゥカイは既に飼育してるし、

これ以上たくさん飼育したいとも思わない。

いっそ、飼育をやめたい気もするけど

飼育,以外にする事はないし、

今ある硬塊コゥカイ

どうすればいいかわからないから

飼育を続けてる。


生物いきものの飼育ができるようになったのは

幼育院を卒業して家と庭を持ち、

学校に通うようになった11歳からだった。


それまで、生物いきものを飼った事,

見た事はなかったから、

多少,生き物の飼育に興味があった。


幼育院で絵本や高人こぅとの話を通じて、

生物いきものの飼育は楽しい事だと認識してたし。


でも、できなかった事が

できるようになったからと言って、

できなかった事の価値は変わらない。


周りの同年代の人達が喜び,楽しそうに

生き物を飼っているのを見て、

仕組まれているような気がした。


何で楽しいと思ってるんだろうと思った。


「楽しい」に理由なんて

ないのかもしれないけど

1度,求めちゃったら

もう元には戻れないみたいだ。


13歳までは植物しか飼えなくて、

13歳から動物も飼えるようになったけど

動物は気持ち悪い。


柱肉蟲チュニクチュウなんか特にそうだ。

あれを可愛いと言う人達の感性が

よくわからない。


色々と取り留めのない事を考えながら

ただ延々と歩いてると

遠くに黒い何かが見えた。

近付iいていくと

だんだんそれが何なのかわかった。


それはさっき教室で見つめてた少女だ。


彼女は体育座りで足に顔を埋めている。

何をしているんだろうか?

まだ、寝る時間じゃないし...

トウァ「ねぇ、何してるの?」


するとミネリア式帽子フードに付いてる

あの3角形の何かがピクリと動いた。


どういう事だ?

あの3角形の何かの中で

何が起きたんだろう。


彼女が顔を上げた。息が止まる。

さっきまでの疑問が跡形もなく消える。


彼女はいぶかしげに、不機嫌な表情で

自分の事をじっと無言で見ている。

薄目をしてて眠たそうな顔だ。


その顔を見てると、

何かが込み上げてきた。

激しく緊張して、何か激情を感じて、

ただひたすらに思った。


「可愛い...」


口から出たその言葉、

人が人を好きになる。

何だろう?

この愛おしさは何なのだろう。


彼女は自分の言葉を聞いて目を見開く。

口がゆっくりいて、

また3角形の何かがピクピク動いて、

そして顔が赤くなって下を向いた。


ドクドクと心臓が

苦しいくらいに強く打つ。

胸が苦しい。窒息しそうみたいだ。


静寂の時間。

とても長く感じたけど

11秒くらいだったかもしれない。


彼女は顔を赤らめたまま

意を決した表情で顔を上げ、

一言はっきりした声で言った。

「[縦13横22]

今日の25時半にそこに来て。

...さよならバイバイ、またね」

彼女は自分に微笑みかけ、

可愛い声でそう言い、

軽やかな足取りで

何処かに行ってしまった。


それからはただ、呆然として、

今の出来事を

何度も思い出して、噛みしめて、

自分は彼女に夢中になった。

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