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第66話 月日は流れて...

 ◇正月


 あれから3ヶ月ほど経った。

その間に真凜ちゃんは順調にお勉強を重ねており、俺は無事推薦入学が決まり、監督のもと本格的に演技の特訓をすることで、少しだけ昔の勘を思い出しつつあった。


 しかし、子役に求められるものと大人の役者に求められるものはまた違い...その違いに多少四苦八苦しながらも楽しい日々を送っていた。


 そうして、本日俺たちは初詣に来ていたのである。


「ちょっと...何ぼーっとしてんの?碧くん。まさか他の女の子に夢中だったわけじゃないよね?」


「ち、違う違う!その...そういえば初詣に来るのはすごく久しぶりだなーって...」


「そっか!ちゃんとお祈りするよー。私がちゃんと東大に受かりますようにと!碧くんが役者として売れますようにっていうのと!私たちがずっと一緒入れますようにって!」


「そうだね。うん。ちゃんとお祈りしよう」


 そうして、人混みの中2人で手を繋いで歩く。

しかし、何にでも興味を持ってしまう真凜ちゃんはすぐにどっかに行ってしまい、気づくと離れ離れになっていた。


『どこ行った?』10:10


『わかんない!けど、入り口の近くっぽいよ!』10:15


 と、写真が送られてきた。


 入口って...俺たちが入ってきた場所とは違うような...。

どっちに行けばいいか分からないな。

誰かに聞くって言ってもな...。と、キョロキョロしていると、1人の女の子と目が合う。


 確か...えっと...学祭の時にメイド喫茶にいた...。


 すると、トコトコとこちらに向かって歩いてくる。


「...初めまして。汐崎先輩」と、声をかけられる。


「....初めまして」


「実は友人と逸れてしまいまして。汐崎先輩はは奥様と一緒じゃないんですか?」


「俺も逸れちゃって...」


 てか、奥様って...。いや、間違いじゃないんだが、その呼び方には流石に抵抗があるな...。


「それは都合がいいですね。じゃあ、はぐれたもの同士で少しお話をしませんか?」と、相変わらずの無表情でそんなことを言う。


「...話?」


「はい。実は私も昔、子役をやってまして。学祭の劇を見て、いつかお話ししたいなと思っていました」


「そ、そうなんだ」


 なんかこうして改めて言われると照れるというか...なんというか...。


「では、あちらで話しましょう」と、ベンチを指差す。


 流されるまま2人でベンチに座る。


「進路はどうされるんですか?」


「え?あぁ...一応...俳優の専門学校的なところに行こうかなと」


「へぇ。それはいいですね。そうするべきです。ちなみにどこの専門学校ですか?」


「え?一応...EEF総合学院...だけど」


「...そうですか。東京でも人気の学校ですよね」


「そうなの?」


「そうなのって知らないで受けてるんですか?」


「いやー...一応知り合いの紹介で行く予定だったから...」


「そうですか。ふーん」


「...」「...」


 無言の時間が流れる。

てか、俺はこの子の名前すら知らないんだが。


 そう思っていると携帯がバイブし始める。


「もしかして先輩、奥様に命令されてお尻にピングバイブでも入れられてるんですか?」


「入れられてねーわ!」


「...そうですか。それは残念です」


「何が残念なんだよ...」と、言いながら電話に出ると『碧くんどこー?』という声が聞こえる。


「...えっと...ここは...」


「あーん。いやーん。碧様〜。やめてくださいませー」と、耳元でそんなことを叫ぶハーフ後輩。


「ちょっ!何言ってんの!」


『何今の声!?誰!?』


「いや、ち、ちがくて...!」


『もう!GPSで住所送ってよ!』


 確かに。その方法を忘れていた。


 すぐにGPSで情報を送る。


「面倒なことになりそうなので私はここで」


「ちょいちょい!!ちゃんと説明してよ!」


「...嫌です」と、着物の格好のまま颯爽とさっていくのであった。


 ものの数分で真凜ちゃんがものすごい形相で走ってくる。


「ちょっと!さっきの声は何!?」


「えっと、ほら、一個下にえっと...ちょっと有名なドイツ人...?とのハーフの女の子居るの知ってる?その子と話してて...」


「それで何?ムラムラしてその子にセクハラでもしてたの?」


「し、してないから!なんかイタズラみたいな感じでやってきただけだから!」


「...ふーん?んで、どこに居るの?その子は?」


「...もうどっか行っちゃった」


「...あとでお仕置きだから」と、耳元で呟かれる。


 ゾッとしたまま家に帰宅するのだった。

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