お母さんたちが帰った後、真凜ちゃんは「少し考えたいから1人にしてほしい」と趣味部屋の方に篭っていた。
まるで突き放すように東大に行った方がいいって言ったことを後悔していた。
もちろん、あれは俺の本心だ。
けど、俺は好きな道に進むくせに真凜ちゃんには東大に行けなんて...。
俺が東大に行けるほど賢ければそれで済む話だったが、数ヶ月前になっても俺の学力は向上することはなかった。
「...」と、無言で真凜ちゃんがいる部屋を見つめる。
◇
東大に行くべきなんてことは誰に言われなくてもわかってる。
けど、それでも私は...碧くんと一緒にいたかった。
それだけじゃない。初めて夢らしい夢を見つけた。
けど、私には勉強の才能はあっても、映像や監督や脚本の才能があるかどうかは微妙なところだ。
だからこそ、東大に入ってサークルとかで趣味程度に楽しんで、本当に目指せるならそれからでも遅くないのかもしれない。
けど、その頃には碧くんは私の手の届かないところに行ってしまいそうで、もう同じ目線に立てないかもと...あの時みたいに拒絶されてしまうのではないかと不安で仕方ない。
そうして、何度も思考を循環させて、ようやく私は私なりの答えに辿り着く。
時刻を見ると既に23:00を過ぎていて、リビングに行くと碧くんの姿はない。
どうやら寝室に行ってしまったようだった。
一応ノックしてから寝室に入ると、既に寝息を立てて寝てしまっていた。
私もモゾモゾとベッドの中に潜り込んで、碧くんを後ろから抱きしめる。
すると、「んんっ...?」と寝ぼけながらこっちを見る碧くん。
「起こしちゃった?」
「んっ...」と、無言で私にキスをする。
「...ありがと」
「...真凜ちゃん。大好きだよ」
「...うん。私も碧くんが大好き。大好きなの。大好きで...大好きで...仕方ないの...」と、強く抱きしめると「...ありがとう」と、2人で抱き合う。
「私は...やっぱり碧くんと同じ学校に行きたい」
「うん」
「...けどね、私...東大に行く。ちゃんと東大に行って...いろんなこと勉強して...どんな形でも碧くんの役に立ちたいの」
「...そっか。うん。俺も真凜ちゃんに憧れられように...頑張る」
「うん...。ね...ずっと...私のこと好きで居てくれる?」
「...当たり前だろ。真凜ちゃんこそ...離れ離れになったとしても...俺のこと忘れないでね」
「それはどうかな?」
「え、ひどっ...」
「嘘でーすw...私はずっとあおいくんが大好きだから」
この世に永遠なんてものがないことを私はまだ知らなかった。
◇
翌日、改めて真凜ちゃんはご両親に進路について伝えた。
その答えにどうやらご両親と安心したようだった。
何よりそれが真凜ちゃんの意思であったことにより安心したようだった。
「お父さんとお母さんは...すごく安心してた」
「そっか。良かった良かった」というと、ソファに座っている俺を押し倒す。
そして、馬乗りになって「...ね?私ね...私ね...最近...すごく...その...すごく...好きになってるの」と、顔を赤くする。
「...俺もだよ?」
「...うん...。それで今日はその...少し変わったシチュエーション...で...してみたいなって」
「...変わったシチュエーション?」
「...うん。その...例えば...碧くんには私以外に実は好きな人がいるけど...私に押し倒されて無理やりキスされちゃうとか...」
...なかなか大胆な告白である。
相当恥ずかしいのか顔は真っ赤である。
「...いいよ?しよ?」
「...うん。ひ、引いてない?大丈夫?」
「引いてない、引いてない。そういう気持ちはわからないでもないし」
「ほ、本当?...いっつも私ばっかこういうの言ってる気がして...」
「そんなことないよ?」
「じゃ、じゃあ...次は碧くんの好きなシチュエーションで...しようね?」
「...おう」
「参考までに碧くんはどういうのがいいの?」
「...引かない?」
「引かない引かない!」
「...じゃあ...その...逆バニー...」
「...?逆バニー?」
「やっぱ何でもない!何でもないから!」
後日、『逆バニー』と調べて顔を真っ赤にする真凜であった。