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第63話 許し

「は?...え?何言ってるんですか?」と、思わず顔が引き攣る。


「...犯人の名前は大塚おおつかたいら。動機は俺に対する逆恨みだったらしい」


「...何ですか...それ」


「碧くんの主演の作品...冬館の夜。俺の作品の中でも1番評価されたのがあれだからな。今でも何度も見返しているくらい俺のお気に入りだ。けど、それを気に食わない奴がいてな。それが同じ映画監督だった大塚平だ。すげー努力家だったけど、映画監督としては3流以下だった。そもそも監督には向いてなかったと思うしな」


 B級映画界の巨匠を呼ばれ始めた俺と、一生売れない作品をやり続ける大塚。


 そんなある日、俺は大塚にあることを言ってしまった。


 ◇PM11:30 Bar


「いい映画だったよ。冬館の夜」


「...ありがとう。そっちはどうだ?」


「...俺やっぱ映画監督には向いてないのかも」


「なんかあったか?」


「いや、何にもないんだよ。何も起きない」


「...そっか。まぁ、俺と役者に救われただけだ。特に子役のあの子、ありゃ売れるぞ」


「...お前はいいな。いつも恵まれて...」


「そうかもな」


「...その子、名前なんて言うんだっけ?」


「ん?山口碧だけど」


「東京住み?」


「そうだよ。なんだ?お前も出演オファーするのか?」


「...いや、そうじゃない。そうじゃない」と、どこか虚な目つきで店を出て行ったのだった。


 その言葉の意味を知ったのはとあるニュースを見た時のことだった。


「...山口...秋葉あきは?」


 俺は急いで病院に向かったが、時すでに遅し。犯人は逃走、碧くんは重体、お母さんも集中治療室にいるとのことだった。


 犯人はすぐにピンときた。

急いで連絡するが当然電話に出ることはなかった。


 それから俺はできるだけ碧くんのサポートをしようと思った。

しかし、部外者の俺は立ち入ることは許されず、それどころか母親殺しの責任をなんの責任もない子供に押し付ける異常な家族に苦しめられていると聞いた時心が裂けそうになった。


 それから少し経った日のこと。

お悔やみ欄の中に大塚平と名前が掲載されているのを偶然見かけるのだった。


 ◇


「...間接的に俺が殺したようなものなんだ。黙っていてすまなかった!!」と、俺は椅子から降りて地面に額を擦り付けながら謝った。


 許してほしいからではなく、吐露することで楽になろうとしたわけでもなく、俺という明確に恨む対象を碧くんに作ってあげようとしたわけでもない。

ただ...謝るという方法以外何もなかったのだ。


「...そう...だったんですね。土下座なんてやめてください。間接的に殺したなんて言わないでください。監督は何も悪くないです」


 そうしてゆっくりと顔を上げるとそこにはまるで聖母のような笑顔を浮かべた彼がいた。


「...本当にすまなかった」


「母が生きていたら確かに俺の人生は変わっていたかもしれないです。もしかしたら子役として大躍進して...それはそれで幸せだったかもしれません。けど、そんな想像できる幸せより、俺は真凜ちゃんといるこの時間のほうが...ずっと幸せだと思うんです」


「碧くん...」という言葉とともにあふれ出す。


「ずっと苦しかったでしょ、監督。大丈夫です。もう...大丈夫ですよ」と、優しく俺を抱きしめてくれた。


 その姿は子役時代の...あの幼かった山口碧くんそのものであった。


 ◇


「...みっともない姿を見せてしまったね」


「何を言ってるんですか。監督はいつだってかっこいいですよ」


「...うれしいね...本当...。...そうだ。もう一つの話というのがね...。これなんだ」と、カバンから一つの資料を取り出す。


 それはとある専門学校の冊子だった。


「...俳優の専門学校...ですか?」


「あぁ、まだこういうのに興味があったらと思ったんだが...。一応知り合いがやっている学校だからカリキュラムとか将来性とかは保証する。俳優じゃなくても脚本家とか、映像系も学べるから何かしらの形で映画にかかわれると思うんだ。もちろん、もう行く大学が決まってるとかならあれなんだが...。まぁ、ゆっくり考えてくれて構わないから」


「...」


 それから昔話や最近のこと、劇の裏話をして一通り盛り上がったところで監督が時計をちらっと見る。


「あぁ...もうこんな時間か。いや...時が経つのは早いね」


「そうですね」


「じゃあ、この後仕事があるから行くよ。今帰るなら送っていけるけど?どうする?」


「いや、俺たちも帰ります」


 そうして、監督の車で家に帰るのだった。

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