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第59話 閉幕

「...粟野桂里奈」


 あの制服は隣の女子校の制服だった。


 翌日から俺は彼女のことを待ち伏せした。

しかし、彼女と出会うことはできなかった。


 それから数日だったある日のことだった。


 テレビでとあるニュースが流れる。


『本日未明、沢田市内に住む17歳の女子高生が自宅にて首を吊って亡くなっているところを家族に発見されました』


 嫌な予感がした。

別に名前が出たわけでも、写真が出たわけでも、高校名が出たわけでもないのに何となく俺は彼女だったのではないかと思った。


 そうして、家を飛び出し現場に向かった。

もちろん、自分が言って何かできるわけでもない。けど、今死なれたら...まるで俺が殺したみたいじゃないか。


 少し騒がしくなっている現場。

俺は適当な人に声をかける。


「...事件が起きたのは何階ですか?」


「なんか5階から飛び降りたらしいよ。まだ17歳なのになー。勿体無い...」


「ありがとうございます」


 住民を装って5階に向かうと、そこには既に黄色いテープが貼られていた。

警察も数人いる中、遠目から表札を見る。

そこにはやはり【粟野】の名前があった。


 それを確認すると俺はガクッと肩を落としてそのまま学校に向かった。


 これで全て水の泡。

また1から情報を集め直さないといけない。

そう思いながらも彼女が残したヒントとかないかなと思い、1ヶ月ほどだったタイミングで俺は彼女の家を訪れた。


 ◇


「ピーンポーン」


「...はい」と、少しやつれたあの女の子のお母さんらしき人が出迎えてくれる。


「...あの...実は昔、桂里奈さんと同じクラスだった大間というものですが」というと、少し驚きながら「大間来希くん?」と聞かれる。


「...そうです」


「...そう。待ってたわ」と、言われて家の中に案内される。


 そのまま家に通されると、お茶を出される。


「...私は...あなたのことを少し恨んでいるわ」と、開幕そんなことを言われる。


「...俺をですか?」


「...やっぱり覚えていないのね」と、おばさんはお菓子と共に5枚ほどの手紙らしきものを渡される。


 そこに書かれていたのは俺宛てのラブレターと、そしてあの事件当日の詳細についての手紙だったら、


『私は大間くんのことが大好きだった。だから、これはずっと私と大間くんの中の秘密として死んでも誰にも言うつもりはありませんでした。けど、数年ぶりにあった大間くんは私のことを忘れていて...それがすごく切なかったです。わかってます。忘れたのはきっとわざとじゃなくて、あの事件のことを忘れたかったからこそ、私の存在ごと消したのだと思います。それでいいと思いました。でも、やっぱりダメだってことに気づきました。いつか、私のことを思い出してそして...きっと大間くんは傷ついてしまう。だからこそ、お母さん。もし、大間くんが来ても追い返してください。決してこの手紙を見せないでください。私はあの現場にいなかった。私も大間くんも。大間くんは誰も殺さなかった。そういう人生を生きてほしいんです。お願いします。お母さん』


 つまり...父さんを殺したのは...俺?

何だよ、それ。


 そう思った瞬間、あの日のことを思い出した。


 ...俺は...お母さんのことが大好きだった。

それは普通の好きではなく、異性として...母が好きだった。

一方、あまり家庭を顧みない父が嫌いだった。


 そうして、ある時母に暴力を振るう父を見て俺はあることを決意した。


 それは...父を殺そうと思ったのだ。

そのために色んなものを見て完全犯罪に必要なものを少しずつ集めていった。


 しかし、俺の完全犯罪のためには1人協力者が必要であることに気がついてしまった。


 妹はそういうことができるタイプではないし、俺ほど父を憎んではいない。

だからこそ、俺に従順な人間が必要だった。


 1番いいのは俺に惚れている人間...。

しかし、そんな都合がいいことはないとそう思っていたのだが、1人いつも俺のことを目で追う女の子がいることに気づいた。


 それが粟野さんだった。

そうして、俺は彼女の好意に気づいていながら気づいていないふりをして、少しずつ近づいてある計画を実行する手筈を揃えていくのだった。


 結果的にそれは全てがうまくいった。

父を殺すことができ、完全犯罪を成立させ、適当にお金を隠して自殺か事件かを分かりづらくすることに成功し、幸せな時間が流れ始めた。


 しかし、問題が2つあった。

1つは粟野桂里奈という存在そのものだ。

彼女の気持ち次第では俺の完全犯罪は崩れてしまう。

もう一つは俺があの日の夢を毎日見ることだ。

憎くてたまらなかった男が死んでいく様が目から離れなかった。


 この2点について解決する方法を俺は見つけた。1つは彼女も共犯であることを強く伝えること。これだけで彼女は自白することができなくなる。そして、後者についてはもう1人の自分を生み出すことで解決しようとした。


 そう、罪なき真っ白な大間来希を。

それに成功した俺は完全に脳をリセットさせ、改めて新しい人生を歩み始めていたのだ。


 その手紙を読んで俺は発狂した。

俺が開けたのは俺自身のパンドラの箱だった。


 絶叫しながら地面を叩き続ける。


「おれはぁぁぁっ!!おれはぁっ!!俺の人生はぁっ!一体...なんなんだったんだよ!!」


 そうして、懺悔の手紙を書いたのちに俺も彼女を追うように死ぬのだった。


 その遺体を見た妹が「あーあ、死んじゃった。お兄ちゃんとお父さんも本当...情けないんだから」と、呟き幕を下ろすのだった。


 そんな後味の悪い終わり方により、少しまばらな拍手で終わるのだった。

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