全員が協力してくれたお陰で、劇自体はスムーズに進んでいたものの、1人納得できない人間がいた。
それは...俺自身だった。
どうしても主人公になりきれないというか、何か大事な部分が欠けている気がして、何度も何度もあの映画を見直してヒントを得ようとしたが、上手くいかなかった。
「...」と、今日も今日とて映画を見直していると、真凜ちゃんに抱きつかれる。
「考え込み過ぎはNGだよ。たまには休憩しないと!てことで、クッキーとコーヒーをご用意しました!」
「ありがとう...」
やっぱり、こういう時に隣にいてくれる人が居ると全然違うな。
そうして、クッキーを食べながら真凜ちゃんに質問する。
「...この主人公はさ...この子のこと好きだったのかな?」
「うーん。どうだろう。そういう描写はなかったけど、最後の手紙で泣いてたってことはやっぱそういうことなのかな?」
「...うん。俺も最初はそう思ってたんだけど、これはむしろ嬉し泣きなのかもと思えてさ。ほら、最後に泣いたシーンは右目から涙が落ちるところがアップになってたしょ?右目から涙が溢れるって嬉し泣きが多いんだよね。そう考えると無性に救えない主人公感があってさ...。その感情移入でめちゃくちゃ難しいなとか...」
「碧くん...。楽しそうだね」
「え?」
「映画のこと話してる時の碧くんは昔の碧くんっぽいというか、目を輝かせてるように見えてさ...。やっぱり、俳優とかそういうのに興味あったりするの?」
「...どうだろう。でも、こういうのを考えるのは好きかな。元々映画は好きだし、考察するのも好きだから。けど、もう俳優とかは無理かな」
「別に俳優にならなくても、例えば監督さんとか、脚本家とかそういう形で映画に関わることもできると思うんだけど。そういうのはどう?」
「...確かに。そっちの道は考えたことなかったな」
「そっか。じゃあ、ほら、大学は映画同好会とかサークルとかそういうのがあるところがいいかもね」
「...東大ってそういうのあるのかな?」
「あると思うよ?多分...」
「...そっか。そうだよね。まずは受験勉強だよね。ごめん、忘れてた」
「べ、別に責めてるわけじゃないよ?けど、碧くん見てたらさ、無理やり勉強させて私と一緒に東大行くより...もっと碧くんのためになる道があるんじゃないかなって思って...」
「...ううん。俺は東大に行くよ。絶対。今は夢とかどうこうより真凜ちゃんのそばに居られる人間になりたいから」
「...//そ、そっか...//...あはは...//嬉しいな...」
「ねぇ...真凜ちゃん」
「...何?」
「もしこの劇がうまくいったら...ううん。ステージ発表で金賞を取れたら...バニーの格好で添い寝してほしい」
「...ば、バニーで添い寝!?!?//あっ、うん...//まぁ、別にいいけども...//」
「よし、やる気出てきた」
「...そ、そんなに着て欲しいんだ」
「...うん。出来ればダンスを踊ったりしてほしい」
「...//ど、どんなダンス?//」
「...それはまた今度考えておく」
「...うん//」
その後はいつも通り、2人でベッドに行き、イチャイチャして寝るのだった。
そうして、劇の練習、BGM、照明の調整、衣装合わせが終わり、リハーサルも問題なく終えることができた。
◇
「他クラスはダンスとかそういうのがメインっぽいね」
「あとはバンドがポツポツって感じか。劇はうちだけだな。いやー、いざやるとなると不安だな」
「練習したことをぶつける!そんだけだ!」と、みんなが意気込みつつやはり緊張しているオーラがひしひしと伝わる。
かく言う俺も緊張していた。
ドラマは何度だって撮り直せるが、舞台や劇は一発撮りだ。
リテイクもやり直しも存在しない。
アクシデントの際に求められるのは圧倒的なアドリブ力。つまりは苦手な分野だ。
「俺たちは...3番目か」
「そうだな。バンドの後ってなんかやりづれーよな」
「しゃーなし!そこは考えたって仕方ない!」
何度か深呼吸していると、清人がやってくる。
「流石に緊張してんな」
「...だな。心臓バクバクだよ。この劇の7割は俺にかかってるわけだし」
「...心配すんな。お前なら出来る。俺が誰よりそのことを知ってる。ぶつけてこいよ。お前の全力を」
「...おう」
『続いての発表は...』
そうして、青春らしく拳同士を合わせて俺たちはステージに向かう。