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第52話 事実と嘘と最低

「...妹?」


「うん。莉音ちゃん1人で来たらしいけど...。とりあえず、下に行って用件聞いてくるね。碧くんは待ってて」


 別にこの先の人生、2度と関わらず生きていくことも出来るだろう。

けど、向き合わないと乗り越えられない壁があるのもまた事実だ。


「...いや、俺も行くよ」


「...いいの?」


 どうやら来たのは下の妹の莉音1人らしい。

常に2人で1組くらいべったりだったはずだったのだが...。

何か事情があったのだろうが、頼るのが俺とは本当に切羽詰まっていたのだろう。

それとも...。

いや、これは...考えるのをやめよう。


 そうして、2人でエレベーターを降りる。


「先に言っておくけど私は何があっても碧くんの味方だから。前に会ってみて欲しいって言ったのも、別に今更仲良くしようっていうつもりではなくて、許す許さないとかは置いておいて碧くんが前に進むために必要かもって思ったから聞いたことだから。例え、彼女にどんな背景があろうと私は同情する気はないし、碧くんにやってきたことを許す気はないから」


「...うん」


 下に降りると受付にずぶ濡れの莉音が1人で立っていた。


「碧くんはここで待ってて」と、制されて少し離れた位置で見ていた。


 ◇視点:真凜


「どうしたの?こんな時間にそんなずぶ濡れになって」


「...家出して来ました」


「...なんで?」


「...耐えられなくて...」


「ごめんなさい。前に断ったと思うけど、未成年の子供を匿うことは私にはできない。そもそも私たちはどっちもまだ高校生なの。頼る相手が間違ってると思うけど」


「...でも頼る相手がいなくて...」


「はぁ...。少し待ってて。碧くんと話して来るから」


 そして、碧くんにやんわりと事情を伝える。


「どうする?私的には追い返すべきかなと思うのだけれど」


「...そうだね。けど...何があったかくらいは聞いてもいいかな...」


 情けをかけたのはなんとなく、その姿が昔の自分と重なったからだ。


「分かった。それじゃあ話だけは聞きましょう」


 そうして、3人でエレベーターを使い最上階まで行く。


 地獄の空気の中、彼女をリビングにあげて、ひとまずお風呂に入ってもらうことにした。


 私は彼女の脱いだ制服とYシャツを洗濯機に入れようとして、ポケットに携帯が入っていることに気づいた。


「...」


 ◇


 それから3人でご飯を食べて、食後のデザートを嗜みながら本題に入る。


「...それで?何があったの?」


「...えっと...2ヶ月前から喉にポリープができて、手術したんですけど、それから喉の調子が悪くて...。それから家族から...いじめられるようになって...お姉ちゃんにも...無視されるようになって...」と、涙ぐむ。


「...そう。それは気の毒だね」


 明らかに思っていないような言葉を吐く真凜ちゃん。


「だから...しばらくこの家に泊めて欲しくて...無理なら大丈夫です」


「大丈夫って。もし私たちが断ったらどうするの?」


「...公園とかで過ごします」


 ...そんな考えなしな行動に少しだけ苛立ちを覚える。


「そう。切羽詰まってるのは分かった。けど、覚悟が足りてないんじゃない?中学生が公園で生活なんてしたら補導されて家に戻されるのがオチ。そもそもお金もそんなにもってないんじゃない?それなら公園での生活すらままならないでしょう」


「...じゃあ、どうすれば...」


「私の知り合いを紹介してあげる。女子小学生や中学生が大好きなおじさんが居てね」と、不敵に笑う。


「年齢は40代前半くらいだったかしら。体型はかなり太めで不潔な感じだけど、ちゃんとお金はくれるから安心して?」


「いや...いやいやいや...」


「何か文句ある?お金と住むところを提供してくれる楽園のような場所だよ?それとも、自分は傷付かず、何も失わないまま、ぬくぬくここで暮らそうとか考えてた?...あんまり人を見くびらないでくれるかな?私はあなたを許すことは一生ないから。そもそも接近すら禁止したはずなのにそれもわずか数ヶ月で破るとか...論外としか言えないんだけど。それでも私が温情をかけたらそれは無理って...。あなたを住ませて私たちにどんなメリットを提供してくれるの?後々、イカれた母親と父親がここに乗り込んで来て面倒ごとを起こすのなんて目に見えてる。...本当にムカつく。あなたの言動も、あなたの行動も、あなたの考えも、あなたの存在そのものも」と、今までにないくらいに怒っている真凜ちゃん。


「...」


「特に言うことはないかな?それじゃあ、帰ってくれる?」


「...はい」


 そのまま妹を追い返す真凜ちゃんであった。


 ◇


「...ありがとうね。俺のために怒ってくれて」


「ムカついたのはムカついたけど、それだけじゃないよ」と、脱衣所の方に向かい、隅々を調べ始める。


「ちょっと...何してるの?」


 すると、見知らぬボールペンを俺に見せつける。


「...なにこれ?」


「盗撮用ボールペンってことだろうね」と、すぐにゴミ箱に捨てる。


「...盗撮?」


「多分、私の裸でも盗撮してそれで脅すつもりだったんじゃないかな。ずぶ濡れでここに来たのも全部計算ってことだろうね。本当...ムカつく」


 改めてあいつらのことを思い出した。

あいつらは全員悪魔だ。揃いも揃って悪魔なんだ。数ヶ月会わないだけで少しだけその感覚が鈍ってしまった。

...ムカつく。本当に腹立たしい。

真凜ちゃんに危険が及んだことも何もかも。

何より自分にムカついた。


「...ごめんね。俺のせいで」


「...どこが碧くんのせいなの?」


「いや...俺の家族だし...家に入れたのもの俺だし...」


「...私は今、二つの理由で碧くんに怒ってるんだけど、何かわかる?」


「...えっと...それは俺のせいじゃないから...とか...そういうこと?」


「まぁ、1個は概ねそんな感じ。もう1個は?」


「...分かんない。ごめん...」


「私の髪型についてだよ!ポニーテールが好きって言ったからしてるのに全然それに触れてくれてないんだけど!」


「ご、ごめん...」


「...いいよ?その代わり...ね?」と、真凜ちゃんは優しく笑う。


 そして、可愛らしいポニーテールをさすりながら、「可愛いよ。真凜」と言いながらキスをした。

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