「久しぶりですね、安藤監督」
「監督なんてやめてくれよ、群青さん。もう俺は監督じゃない」
「いやいや、少なくても今年いっぱいは監督ですよね?それに引退発表だってまだしてないですし、僕の中ではずっと監督は監督なんですよ。あと、それを言うなら僕は群青ではなく汐崎なんですがね」
「俺の中で群青さんは群青さんなんだよ」
とあるバーで二人でお酒を飲みながら近況報告を行う。
「安藤さんは結婚とかしないんですか?」
「ははっ、俺みたいな適当人間に結婚なんて夢のまた夢さ」
「そうですか?子供は好きですよね」
「そうだねー。好きだねぇ。けど、問題は奥さんが見つからないことなんだよな。それにもう50だし。群青さんは奥さんとはどう?仲良くやってる?」
「特に変わらずですね。楽しくやってますよ。そうだ、結婚といえば娘も結婚しましてね」
「え?もうそんな年だっけ?」
「18になった日に結婚しましてね」
「学生婚ってこと?」
「そうですね」
「はぁ...。まさか真凜ちゃんに抜かされるとは...。相手も学生さん?」
「そうですよ。というか、相手の子のことはむしろ私より安藤さんのほうが知ってるかもしれませんよ」
「なんで俺が真凜ちゃんの旦那のことを知ってるんだよ」
「...悲運な元天才子役と言ったら誰を思い浮かべますか?」
グラスに伸びかけた手が止まる。
「...山口...碧?」
「真凜の話によれば監督の作品【復讐の花】を学園祭でやるようですよ。監督を引退されるのはそれを見てからもいいじゃないですか?」
「...あぁ。そうだな」
◇リビング
「じゅむむむむむむむ...」
「どういう声?それ」と、受験勉強をしている横で台本とにらみ合う真凜ちゃん。
どうやら、お父さんの伝手を使い台本をもらったらしい。
そして、現在削れる箇所を模索中ということだ。
「手伝う?」
「大丈夫!碧くんは勉強に集中して!」
「お、おう」
そうして、一通り勉強が片付いたのちに俺が夕飯を作る。
その間もずっと台本と向き合っている真凜ちゃん。
かなりの集中力を使っているようだ。
「ご飯できたよー」
「...え!?作ってくれたの!?」
「うん。今日は油淋鶏作ってみた」
「おいしそー!ありがとうね!」と、満面の笑みを浮かべる。
そして、なんとなく2人で見つめ合う。
...やばい。可愛い。抱きしめたい。
正直、可愛いとは思いつつも天使なんて大袈裟なんて思っていたが、修学旅行終わりからメキメキと可愛くなっている気がする。
天使のように可愛いのにまるでご主人様を見上げる犬のような、忠誠心と好き好きに満ちたその顔が可愛くてたまらない。
抱きしめたい...。
でも、いきなり抱きついたら引かれるかな?
それに...疲れてるみたいだし。
とか、ちょっと拒絶されるのが怖くて「ご、ご飯...食べようか//」と、目を逸らしながらそんなことを言う。
「...キス...されるかと思った」と、そんな声が聞こえる。
「...え?」
「そういう鈍感主人公みたいな反応はやめて」と、ブラック真凜ちゃんに怒られる。
「...ごめん。その...本当は抱きしめたかったんだけど、勇気が出なくて...」
すると、真凜ちゃんは立ち上がり俺の胸に頭をつけて抱きしめる。
「はっきり言っておくけど、私は碧くんにめちゃくちゃされても一向に構わないと思ってる。むしろ、めちゃくちゃされたい。めちゃくちゃ求められてみたい。じゃないと...不安になる。好きなのはやっぱ私だけなのかなって。私の好きと碧くんの好きは違うのかなって」と、抱きしめる力が強くなる。
「...ごめん」
「謝って欲しいわけじゃないの」
「...うん」と、俺も真凜ちゃんを抱きしめる。
すると、少し顔を見上げて「私のこと好き?」と聞かれる。
「...大好きだよ。勉強してる時も真凜ちゃんのこと気になってチラチラ見ちゃった」
「...それは私も。ずっと見てたいの。ずっと見てて欲しいの」
「...」
そうして、2人で目を合わせてキスをする。
「...嬉しい」
「...うん。...深い方じゃなかったね」
「!!//あ、あれは...忘れてよ...//」
「忘れられないよ。ファーストキスだもん」
「...うん」
そうして、イチャイチャムード全開で会話をしていると、チャイムがなる。
「...」「...」
お互いに居留守を決め込んで今はこの時間を味わいたいと思っていたと思う。
しかし、真凜ちゃんは俺の体から離れて「出てくるね」という。
瞬間、俺は真凜ちゃんの手を取ってそのまま無理やりキスをする。
「んっ!!//」
「...ごめん」
「...ふふっ。いいんだよ?」
そのままコンシェルジュと話す真凜ちゃん。
「...はい。...はい。...そうですか。わかりました。今下に行きます」と、そのまま受話器を置く。
「荷物何か何か届いた感じ?」
「...違う。妹さんが来た」
「...は?」