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第41話 修学旅行《1日目③》

 夕食を食べ終わり部屋に戻ると既に清人が待っていた。


「...もう戻ってたんだ」


「...おう」と、言いながらペットボトルのジュースを手渡される。


「...どうも」


 一緒に大きめのポテチを渡され、テレビを見ながらそれを食べる。


 何度も繰り返してきた俺たちの日常の風景だった。


「...俺はお前に憧れていた」と、突然そんなことを言われた。


「...え?清人が俺に?」


「...あぁ。今の俺のキャラは昔のお前を真似しているだけに過ぎないんだよ」


 ◇


 テレビの画面に【Learn from yesterday.】とはどういう意味でしょうという問題が出される。


「あっ、これ知ってる!...昔に学べ?過去に学べか!そういう意味だよ!アインシュタインって人の名言!」


 すると、回答が出てきてまさにその答えが出てくる。


「...碧くんってすごいね...」


「お父さんが言ってたのたまたま覚えていただけだよ!」と、無邪気に笑う。


 彼はいつも笑っていて、楽しそうで、人を笑顔にする力を持っていた。


 もちろんそれだけじゃなくて、頭も良くて、足も早くて、クラスの人気者だった。


 そんな彼がひそかに子役として色々頑張ってると聞かされた時は、本当にスターのように見えた。


 対照的に俺は幼い時から人見知りで、人前が苦手で常に輪の一番外に群がる村人Aだった。


 なのにそんな村人Aの俺とも当たり前のように仲良くしてくれているところが本当に好きで、かっこいいと思えた。


 そんなある日。

俺の大スターが事故にあったのだった。


 すぐに病院に向かうとそこにはボロボロの姿の碧くんがベッドに寝ていたのだった。


 その瞬間、少しだけやったと喜んだ自分がいた。

自分でも何でこんな気持ちになったのかはすぐに分からなかった。


 けど、よくよく考えればすぐにその答えが出た。


 俺は嫉妬していたのだ。

彼の活躍を、彼の姿を、彼の全てに。

最低だと自分を恥じて、自分を責めた。

だから、自分はダメなんだと。


 そうして、俺は変わることを決意した。

目標の人になれるように彼の真似をするように演じた。

誰にも見えないところで努力を続けて、どうにもならない部分もあったが、それでもひたすらに頑張り続けた。


 その結果、いつの間にか俺は輪の中心にいるようになった。


 そんなある日、彼が学校に戻ってきた。

少しだけ焦る気持ちと同時にやっぱり嬉しさもあった。

やっと、対等になれた。友達としてようやく隣に居られると思った。


 けど、彼は変わってしまった。


 ◇


 最近戻ってきた友達の様子がおかしいと父に話した。


「こうじきのうしょうがい?」


「あぁ、高次脳機能障害だろうね。交通事故の後性格が変わってしまうことがあるんだ。すごく積極的だった子が消極的になったりね。珍しいことではないよ。けど...そうだな。今まで通り察してあげなさいよ」と、言われた。


 父は病院の先生でありこういったことに詳しかった。

その後、色々と調べてようやくその意味を理解した。


 俺が前向きになったように彼は後ろ向きになってしまった。

そうして、俺は目指すべき目標がいなくなって、ひたすらに明るくていい奴というキャラを演じ続けた。


 けど、それは結局演じているに過ぎなかった。本物には一生なれない。そして、もう本物がいなくなったのに永遠に本物を追い続けるだけの偽物の自分が残った。


 今の自分は偽物だ。

そして、偽物としてずっと生き続ける。


 それからも俺は変わらず碧のそばに居た。

それは...もちろん友達だし、1番仲が良くて、元憧れの人で、離れるのが怖かったからというのもあるが、きっと1番は...そばに居て昔の輝きを無くした碧に対して...優越感に浸れるからだ。


 俺は結局、何も変わってなかった。


 ◇


「...高校に入ってもそれは変わんなかった。けど、そんなお前があの天使様と結婚したって知った日...、正直そんなに驚かなかったし、傷つくことすらなかった。心のどこかで『やっぱり』って思っちゃってさ。だから、黙っていたことに対して怒ったとかそんなんじゃなくて...自分を見つめ直したくて距離をとった。でも、やっぱりダメだな。お前のことを目で追っちゃう自分がいる。やっぱり俺の中でお前はヒーローであり、最高にカッコいい友達なんだよ」と、目を合わせることなくテレビに向かってそんな告白をする。


 全然知らなかった。

出会った頃の清人は人見知りをしていたような記憶もあるが、まさか俺を真似しようとしたいなんて。


 それに... 高次脳機能障害か...。

医者も親には話していたのだろうが、それが俺に伝わることはなかった。


 昔のように何でもキラキラ見えて、前向きだった俺がこういう風になってしまったのはあの事故の影響もあってのことだったのだろう。


 びっくりした事実ばかりだったが、少しだけ腑に落ちたところもあった。


 暗い部屋でテレビの明かりだけがチラつく。


「...そっか」


「...責めないのか?」


「...責めれる要素もその理由もないだろ」


「あるだろ。色々と...。今思えば真凜ちゃんを好きだったいうのも多分勘違いだったんだよ。ただ、1番光っている人のそばに居たかっただけなんだ。傷つかなかったのもそういうことなんだろうな」


 その言葉を聞いてようやく清人の方を向く。


「清人。お前は俺の憧れだ。それが嘘だろうとなんだろうと、偽物だろうと関係ない。俺が本物だっていうなら、お前は本物が認める偽物だ。だから、これからも一緒にいてほしい。一緒にバカやって...一緒に笑って...」と、突然涙が溢れ始める。


 そんな俺を見て清人も泣き始める。


「バカっ...!少しぐらい俺を責めろよ!...お前は...」


 そうして、2人で抱き合って泣いたのだった。

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