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第38話 性善説

「山口って暗いよね」


「ふむ。けど、彼は山口ではなく汐崎だけどね?」


「細かいことはどっちでもいいのー」


「...」


 何故か奏さんと本庄さんと3人でカフェに来ていたのだった。


 ◇


 いつも通り1人で帰ろうと校門に行くと、人だかりができていた。


「どこの高校なんですか!」「連絡先教えてください!」「デートしてください!」


 その輪の中心には見覚えのある顔が...。


「あはは、僕はこう見えて女の子なんだよね」


「...」


「あっ、待っていたよ。碧くん」と、俺に声をかけると周りの女子がひそひそ話をしながら散っていく。


「...俺に用ですか?」


「うん。いろいろ大変だから相談に乗ってあげようと思って」


「...むしろそっとして欲しいんですが」


「何を言ってるんだ。君と僕の関係だろ?」


「...どういう関係ですか」


「恋のライバル?」


「...はぁ」という俺を無視してそのまま歩き始める。


 逆方向に歩き出そうとしたが、後々面倒なことになることを恐れて大人しくその後をついて行くことにした。


「...」


「なんだい、その微妙な距離感。もっとくっついて歩こうよ」


「...大丈夫です」


「流石は既婚者。ガードが固いねぇ」


 そうして、昔ながらの雰囲気を持ったカフェに入る。

そのまま慣れたように「いつもの席いいかな?」と、マスターらしき人に声をかける。


 コクンと頷くマスター。

何をやっても様になるな...本当。

マジでドラマのワンシーンかと思うほどだ。


 窓際の席に腰掛けると俺にメニュー表を渡す。


「...どうも」


「ここのウインナーコーヒーが好きでね。あっ、ウインナーコーヒーって別にタコさんウインナーが入ってるわけじゃないからね?」


「...それぐらい知ってます」

(え?ウインナーコーヒーなのにウインナー入ってないの?)


「ほう?高校生ぐらいならそういう勘違いしてる人もいると思ったけどね」


「...じゃあ...オレンジジュースにする」


「っふ。可愛いね」と、言いながら高らかに指パッチンする。


 すると、マスターらしきおじさんがやってくる。


「...いかがなさいましたか?」と、いい声で呟く。


「ウインナーコーヒーとオレンジジュースをいただけるかい?」


「...すみません。朝食でウインナーを使い切ってしまって...」


「...田辺さん。ウインナーコーヒーとはウインナーが入ってくるコーヒーじゃないよ」と、突っ込む奏さん。


 ちらっとそのおじさんを見ると、胸には【研修中】のプレートが輝いていた。


 ...マスターじゃねーじゃん!てか、なんでこの見た目で新人なんだよ!


「作り方はマスターに聞くといいよ」


「...はい。分かりました」と、ゆっくりと去っていく新人の田辺さん。


「...バレてしまったようだね。君と真凜の関係」


「はい。まぁ、そうですね」


「いずれバレていたことだろうし、あまり気にしない方がいいと思うのだけれどね」


「...俺の方はそんなに気にしてないんですけど。1番の問題は真凜ちゃんのことを好きだった親友に、そのことをバレてしまったことが1番の問題なんですが」


「それは修羅場ってやつだねー。どうも、田辺さん」と、コーヒーを受け取って一口含む。


「...こちらオレンジジュースになります」


「...どうも」


「ふむ。親友は僕がいるんだからそれでいいじゃないか」


「...いえ。すみませんが俺たちは親友ではないです」


「なんと。断られた。まぁ、それは置いておいて。君は人間は生まれながらにして悪だと思うかい?」


「...なんですか?いきなり」


「いいから。答えたまえ」


「そりゃ、悪じゃないですか?てか、それって性悪説ってやつですか?」


「本来の意味とは少し違うが、まぁ今回の場合はそういうニュアンスのほうが正しいかな?...なるほど。性悪説推しなんだね。なぜそう思うんだい?」


「...そりゃ、人が嫌がることは本能的にわかるし、理性でそれがダメだと思ってもやってしまうからかな。幼稚園でさえイジメは存在するし。何より法律なんていう縛りを作ってる時点でお察しですよね。そして、それがどんな重い物だとしてもぜったりに破る奴がいる。そんなのどう考えたって、生まれ持っての性質が悪だからとしか思えないです」


「確かに一理あるね。きっと悪は本能で知っていて、正義は後から学ぶものなのだろうね。概ね賛成だが、僕はこう思うんだ。悪だからこそ正義になれるとね。そういう素質があるんだよ。逆に正義気取りの悪っていうのがこの世界で1番怖いものだと思う。それに比べてれば悪いと思っていてやってしまうなんて可愛いもんだ」


「はぁ...言ってることは分かりますけど」


「納得はしていないって感じかな?ところで...窓に張り付いてるこの子は碧くんの知り合いかな?」


 ふと、窓に目を向けるとそこには本庄さんが張り付いていた。


 そして、目が合うとそのまま店に入ってくる。


「ちょっと、こんなところで何してんの?碧」


「...何って。友達と談笑」


「やぁ、碧くんの友達かい?」


「あっはい...//そうです...//」と、乙女な顔になる本庄さん。


 そうして、そのまま俺の横の席に無理やり入ってくる。


 しかし、彼女は女の子であると伝えると「マジ!?すっごっ...」と、言葉を失う。


 そうして、話の矢先が俺に向かう。


「大変だねー。碧」


「...まぁな」


「んま、なんかあったらうちに相談しなよ。親衛隊としてもそうだし、私の個人としても協力しちゃるから」


「それはありがたいな」


「君は周りの人間に恵まれているね。これでも人間は生まれながらの悪だと思うかい?」


「...そうだな。きっと人間は天使にも悪魔にもなれるんだろうな」


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