顔を真っ赤にして隠れる私とそんな私を追いかける碧くん。
今とは真逆である。
「おっ、この子が今回の映画の主役なのかい?」
「そうそう。なかなかの掘り出し物でね...。おーい、碧くんー。そろそろスタンバイしてくれる?」
「はい!監督!」と、綺麗に敬礼をして女優さんのところに走っていく。
「...//」と、お父さんの影からその子を見つめる。
女優さんとも仲良さそうに話している。
私と変わらない男の子がそんな立ち振る舞いをしていることに驚きと憧れを抱くのは仕方なかった。
しかし、それは彼の演技を見た時により強いものになった。
あんな活発な男の子が少しか弱くて内気な男の子を演じる。
まるで何かが憑依したように演じる彼はまさに本物だった。
「...すごい」
「興味があるなら真凛もやってみるか?」と、お父さんに聞かれて首を横に振る。
自分にはできるわけがなかった。
スポットライトに当たることも苦手な私にあんなことはできるわけがなかった。
それからはちょこちょこ父にくっついて舞台裏を見ていた。
しかし、好きな人を目の前にさらに恥ずかしがり屋が発動した私は結局彼と話すことができず、数ヶ月が経って映画は撮り終わってしまったのだった。
それからの私は前の内気な自分を捨てて、明るくて可愛い女の子を演じる
彼との縁が切れてしまったある日のことだった。
お父さんの兄である叔父さんのお見舞いに来たのだが、退屈だったのでトイレに行くふりをして病院内を探索することにした。
すると、一つの部屋の扉が少し開いていたので、興味本位で覗き見てみるとそこにはあの男の子がベッドの上で本を読んでいた。
私は運命を感じた。
思わず扉を開けてすぐに抱きしめたくなる気持ちを抑えて、じっと見ているとその違和感にすぐ気づいた。
叔父さんと同じ部屋の子供のベッドにはたくさんのぬいぐるみとか、絵本とか、そういうのが溢れていたのに、彼のベッドにはそういったものは一つもなかった。
必要なものが置いてあるだけの病室といった感じだ。
それだけじゃない。彼の目も虚でそういう病に侵されてしまったのではないかと思うほどだった。
そんな彼を見た私は大きく深呼吸して、その部屋を扉を開けた。
「ひ、久しぶり!」と、声をかけるが彼は何も聞こえないかのように、相変わらず本を読んでいた。
「...あ、あの!...お、覚えてる?私のこと!」
「...」
「あのね!私ね...今ね...女優を目指してるの!」
「...」
「お母さんがね!私は可愛いし、女優に向いてるって...」
「...るさぃ」
「え?」
「うるさい。出ていけよ」と、こちらを見ずに彼はそういった。
その時は何がいけなかったのか分からなくて、ただ嫌われたくなくて「な、なんで...?」というと「...ムカつくんだよ。お前」と言われた。
「...」
私は言葉を失った。
人生で言われた言葉で1番傷ついた言葉だった。
「...ごめんね」
そうして、私は部屋を飛び出した。
それからまた少し経った時、あの監督さんが家に遊びにきて、あの子の話をしているのを盗み聞きしてしまった。
「...残念だったよ。本当」
「...そうだね」
「この前会いに行ったら...すごく変わっていたよ。何も興味ないような、全部に絶望してるような顔をしていた。あの彼をもう見れないなんて」
「...助けてあげられないのかな」
「児童相談所に行ったけど、対応してくれなかったよ。けど...今のままじゃ、長くは持たないだろうな」
「...」
「母親を殺したってことで父と妹たちから恨まれて、再婚した母親からも色々とされているらしい」
「...殺したのはあの子じゃないだろ」
「でも、犯人はまだ捕まってないからな。目の前に一つの要因に全ての責任を押し付けるしかないんだろ」
「...そんな酷い話ないだろ」
「...俺もやれることはやるけど。難しいだろうな」
「...頼むよ」
その時知った。お母さんが死んでしまっていたこと、そして自分が安易に口走ってしまったことが彼にとっては地雷も地雷だったのだ。
謝りたかった。
それかそばにいてあげたかった。
私がいるよってそう言ってあげたかった。
私は独自で色々調べて、情報収集した。
それから数年後のことだった。
母の仕事の関係で偶然にも彼と同じ小学校に行って通うことになった。
そして、私立中学に行くこともなく彼と同じ公立中学に進学し、母と父に初めて逆らって私は私立森の丘高校に進学したのだった。