あれから数日経った。
ようやくクラス内も落ち着きを取り戻したが、以前清人とは離れたままである。
他のクラスメイトとは楽しそうに話しているし、意図的に俺を省いたりとか、無視したりすることもないが、ギクシャクとした空気は流れたままである。
そうして、いつも通り1人で帰ろうとすると、「奥さんと一緒に帰らないのかー?」と、クラスの男子にいじられる。
「...別にいつも一緒ってわけじゃないから」と言っていると、困っている俺を見かねて「ダメだよ!私の旦那をいじめたら!」と割り込んでくる。
「いやいやーいじってるだけだからwてか、やっぱどう見ても釣り合ってないよなー」と、聞こえる声でそんなことを言う。
まぁ、別にそれは自体は事実だし客観的に見れば...いや、主観的に見たとしてもこの事実はやっぱり違和感しかないのだ。
その言葉をスルーして出て行こうとすると、「釣り合ってなくなんかない...」と真凜ちゃんが呟く。
ここに居ると余計なことを口走りそうだったので、無理やり真凜ちゃんの手を引いて廊下に出ると清人とぶつかりそうになる。
「ご、ごめん...」
「お、おう...。仲...良いんだな」と、悲しそうに呟いていた。
「俺は...」と、何かを言いかけたところで今度は真凜ちゃんに手を引かれた。
「ちょっ...」
「今、変なこと言おうとしてたでしょ」と言われてもハッとする。
確かに今言おうとしていたことは...最低な言葉だ。
そうして、そのまま手を繋いで家に帰る。
廊下を歩いている最中も、行き交う人達の視線が集まる。
「あれが天使様の旦那?w」「マジ!?ないわw」「あんななのどこがいいんだろ」「めっちゃ金持ちとか?」「金持ちでもないわw」
俺の手をより一層強く握る真凜ちゃん。
「...ごめんね」
「別に。慣れてるから。こういうの」
「...慣れちゃダメだよ。こんなの」
俺は人間をよく知っている。
成功者を叩き、失敗者を嗤い、勝手に期待して勝手に失望して、努力から目を逸らし才能だと愚痴る。
そういうものだ。俺だって例外じゃない。
汐崎真凜に嫉妬した。
何でも持っていて、何でも与えられて、誰でも魅了して、誰かの期待を上回る。
なのに、何も持っていない俺を好きだというのだ。
◇
家に帰るとすぐに俺に抱きつく。
「大好き」
「...うん」
「私のこと...嫌いにならないで」
「ならないよ。別にあんなこと俺は気にしてないし」
「私は...気にするよ」
「...そっか」
「ねぇ、真凜ちゃん」
「何?」
「...真凜ちゃんのこといろいろ知りたい」
「私のこと?...上から91、65、93かな?」
「...いや、そういうのじゃなくて。どんな女の子だったとか...そういうの」
「いいよ。じゃあ、少し昔話しようか」
◇
生まれた時から私は勝ち組だった。
冒頭からなかなかのセリフだとは自分でも思う。けど、それは私という人の人生を語る上で欠かせなかった。
お金持ちの母と、優しくて弱々しい父。
更に顔立ちは母に似てかなりの美少女だった。
どこに行っても目立つ白髪と綺麗な顔立ちに否応なしに注目を集めた。
どこに行っても可愛いと言われたが、人見知りだった私はいつも母の足の陰に隠れていたのを今でも覚えている。
そう、私は幼い時は内気で陰気な性格だったのだ。
目立つ見た目と内気な性格で幼稚園では結構苦労した。
男の子にいじめられたり、女子からはぶかれたり...。
そのせいで更に内気な性格になっていた。
お母さんには甘えまくり、少しずつわがままになっていった。
しかし、それも一時的なもので少し年齢を重ねることで、可愛さにはどんどん拍車がかかっていき、私をいじめていた男子すら私に告白してきたのだった。
だが、そんなの当然断るのだ。
私は決していじめたことを忘れない。
そうして、小学生に上がって少し経ったある日のことだった。
お父さんに連れられて、ある場所に来ていた。
「おっ、
「お久しぶりです、安藤さん。あと、今は汐崎ですよ」
「そうかそうか。何年経ってもやっぱり慣れないねぇ。おっ、その子が娘さん?おー、可愛い子だねー」と、見知らぬおじさんが私の頭を撫でる。
そうして、お父さんの後ろに隠れると、そのおじさんの奥から1人の男の子が現れた。
それは私とあまり歳が変わらない男の子だった。
「この子は芸能界とか興味ないのかい?」
「見ての通り、恥ずかしがり屋でね。ほら、真凜。ちゃんと挨拶して」
「...しおざき...まりん」
「おー、真凜ちゃんか。よろしくねー。真凜ちゃんは映画とか興味ない?」
「...ない」
「あれま!君がフィルムにでれば私も有名監督になれるのにー」と、笑うおじさん。
すると、小さい男の子がこちらに顔を出す。
「かんとく!その子誰ですか?」
「あぁ、私の友人の子供だよ」
そのまま男の子は書かれている私の手を引いて、「よろしくね!僕はやまぐちあおい!」と言われた。
「...ま、まりん...しおざき...」
すると、私の髪の毛をじっと見つめる。
いつものやつだ。変な髪色とか言われる。
そう思っていると「綺麗な髪色だね!」と、無邪気な笑みを浮かべるのだった。
人生で初めて、同年代の男の子に髪の毛の色を褒められた。
そうして、私は初恋に落ちたのだった。