「まさかバレちゃうとはね...ごめんね」
「...いや、ちゃんと気を遣わなかった俺も悪いし」
「...私は別にバレてもあれだけどさ...。これから周りに色々言われるかもだし、それに...清人くんのことも...さ」
「...うん。まぁ、いずれバレることだと思うし。仕方ない」
つらそうな顔をしている碧くん。
本当に申し訳ないし、また迷惑をかけてしまったと思っている一方で、ようやく公でイチャイチャできるなんて考える私は本当に最低だ。
「あ、あのさ!今日は碧くんの好きなハンバーグを作ろうと思うんだけどさ!その...一緒に作らない?」
「...うん。作ろう」と、無理に笑ってくれる。
私はまた無理をさせてしまった。
また嫌な思いをさせてしまった。
本当は...私のことどう思ってるの?
「チーズ乗っけちゃうね」
「うん」
◇
「やーまーぐーちー!んで、天使様とはどこまで進んでんだよ」
「どこまでって...別に...」
「まさか夫婦なのにやってないのか!」
「夫婦だからって必ずやるわけじゃないだろ...」
「いやいやいや!それはないしょ!てか、いつから付き合ってんだよ!馴れ初めを教えろよー」と、朝から複数の男子に絡まれる。
いつもなら仲裁に入ってくれるはずの清人は自席に座ったままである。
「...」
そして、真凜ちゃんもクラスの女子に囲まれていた。
普段絡まない連中からも色々と聞かれているようで、別のクラスからわざわざ俺を見にきて、ヒソヒソと笑いながら会話する人もいた。
大方、予想通りの反応ではあったが、人から注目されたりするのが嫌いな俺にとってはそこそこの苦痛であったが、何より親友が離れてしまったことが1番な苦痛だった。
「はーい座れ座れー。来月の修学旅行についてある程度固まってきたと思うが、まだバスとか飛行機の席とかそこらへん決めてなかったから今日決めるぞー。基本は班の人間で固めるから、話し合いしてくれー。俺は眠いから寝る」と、机に突っ伏してそのままマジで寝る先生。
そうして、4人集まるが当然最悪の空気である。
「...流石にこれは俺と海ちゃんの方がいいよな。あと、自由行動も...俺と海ちゃんに変えたほうがいいよな」と、清人が呟く。
「清人...ごめん。俺本当にそんなつもりじゃなくて...」
「いいよ。今は聞きたくない。真実も嘘も言い訳も。何を聞いても...多分ムカつくから」
すると、海ちゃんが首を横に振る。
「私は...嫌。碧くんと...周りたい」と、いつになくまっすぐな目でそういった。
「でも...2人は...結婚してて「そんなの関係ない!...そう言ったのは清人くん...だよ」
元々は黙っていることを条件に自由行動は2人で周るなっていたが、バレてしまった以上当然その約束も意味をなさなくなった。
そんなことは分かりきっていても、海ちゃんは迷うことなくはっきりとそう言った。
別に海ちゃんが漏らしたわけでもないし、俺の中のけじめをつけるためにも、出来れば2人で回りたかった。しかし、そんなことを俺から提案することはできなかった。
「いいよ。このままで。私は清人くんと周って、碧くんは海ちゃんと周る。そこは変えなくていい。それでいいよね?碧くん」
「...うん。いい」
周りの楽しそうな声の中で、まさに葬式のような鬱々とした空気が流れる。
いや、こうなることはわかっていた。
最初に打ち明けなかった時点で最後まで打ち明けない以外、避けることのできない必然の結果だ。
「...それじゃあバスと飛行機の席は俺と海ちゃん。自由行動だけは変わらずって感じで」と、早々締めると清人は席に戻ってしまった。
暴言を吐かれるわけでも、嫌がらせをされるわけでもなく、ただ距離を置かれる感じがすごく心に響いた。
たった1人の友達で、たった1人の親友。
何度も助けられて、何度も救われた。
結局、何も返せないままこの関係が終わってしまうのか。
そんなことを考えながらその日も学校は終わるのだった。
◇土曜日
いつもより遅く朝、目が覚める。
携帯に目をやるが来ているのはアプリからの通知だけだった。
そのままのそのそと起き上がり、「おはよう」と声をかけながらソファに座ると「おはよう!」といつも通りの元気な真凜ちゃんが笑いながら挨拶を返した。
「...あんまり寝れてない?」
「ん?いやそんなことないよ。ちゃんと寝てる」
「そっか...。あっ、そうだ!肩揉んであげるよ!最近夜も結構勉強頑張ってるし、肩とか凝ってるでしょ!」
「え?大丈夫だよ?そんな凝ってないし」
「まかせんしゃいまかせんしゃい!」と、肩を回しながら自信満々にキッチンから出てくる。
そのまま肩を揉んでもらうがこれがなかなかに上手かった。
「あー、気持ちいい...」
「やっぱ結構凝ってますよー?お客さーん」
「...まじですか」
すると、そのまま俺の背中に抱きつく真凜ちゃん。
そして、俺の肩に頭を乗せ「私がいるから」と言った。
「...うん」
「ごめんね。私なんかじゃ代わりにならないよね」と、そのまま離れようとする真凜ちゃんの腕を掴んだ。
「え?」
「...キスしたい」
俺はそんなことをぽろっと言ってしまった。