「世界は今日も平和ですねぇ〜」
「...」
「そうは思いませんか?碧くん」
「...いえ。平和なんてこの世にはありません」
「そう。価値観の相違ね。仕方ないわ」
「...あの、足をどいてはくれませんか?」
「嫌よ。退かない。だって、これは罰ゲームだもの」
タギロンという数字当てゲームに負けた俺は今、四つん這いになり彼女の椅子として仕事を全うしていた。
「あらあら、この椅子少し調子が悪い気がするわね」と、お尻をパチンと叩く。
「イッタァ!!」
「あらあら、下品な声を上げるじゃない。嫌ね、全く...」
「...」
「あら、椅子のくせにその反抗的な態度。この横にある穴に指を突っ込んでみましょうか」
「おい!何かに目覚めたらどうしてくれるんだ!」
「別に。私は何かに目覚めたあなたでさえ、受け入れるだけの覚悟があるわ」
「...それはどうも。まぁ、そもそも目覚めさせないでほしい「えいっ」と、少しだけ穴の中に指が入った気がした。
「うぉいーーーー!」
こうして、夏休み最終日をくだらないことに費やして明日からの学校に備えて準備を始める。
「そういえば、碧くんって北海道行ったことあるの?」
「ないよ。真凜ちゃんは?」
「うーん、数回あるね!札幌は結構いいところだよ?あと、函館も悪くなかった。風が常に強めだけど」
「へぇー。んじゃ、札幌の観光とか結構できる感じなんだ」
「まぁねー。2人で回れないのが残念だね。そうだ。冬になったら2人で北海道旅行しよう?結構楽しいよー?」
「おー、冬の北海道。寒いけど楽しそうだな」
「けってー!卒業旅行も兼ねて行こう!」
「おー」
「修学旅行も楽しみだね!9月の北海道って寒いのかな?」
北海道か。9月の札幌平均気温ってどんなもんだ?と、携帯をいじってみるとどうやら大体20度前後らしい。夏が終わる時期とはいえこんなに気温が下がるのか。
「20度前後っぽいね。場所にもよるけど」
「ふーん。結構過ごしやすそうだね。ね、自由行動は別々だけど、それ以外はなるべく一緒にいようね?」
「怪しまれない程度には。この前も俺のこと外で碧くんって言うし」
「それをいうなら碧くんだって真凜ちゃんって言ったじゃん!」
「...」「...」
「と、とにかく、バレない程度に一緒にいるってことでいいね?」
「むー」と、明らかに不満そうに頬を膨らませる真凜ちゃん。
◇夏休み終わり 登校初日
「...夏休み終わるの早すぎなんだが!」と、俺の机を叩きながら清人が訴えてくる。
「...いや、結構楽しんでたろ」
「ばっか、これが最後の夏休みなんだぞ!最後の安らぎの期間なんだぞ!」
「...修学旅行あるだろ」
「あっ!そうだ!修学旅行があったんだった!はっはっはっ!」
能天気というか、ポジティブというべきか...。
そうして、何気ない1日が始まろうとしていた時のことだった。
すると、1人の男子が近づいてきて俺に向かってこう言った。
「なぁ、汐崎さんの旦那って...山口なのか?」
「「え?」」と、俺と清人の声が被る。
「いや、この間たまたま駅前に買い物行ったらさ、汐崎さんと山口がタワマンに入っていくの見たんだよ」
「み、見間違いじゃないか?」
「いーや。2人とも名前で呼び合ってたし。碧くんと、真凜ちゃんって。いやー、流石にビビったわ。まさか山口が旦那だったとは」と、固まる教室の人たち。
更に、この前の名前呼びの一件を見た清人にとっては点と点が赤い糸になったようなそんな感覚だろう。
「...それ、マジで言ってんの?」
「いや、俺は...」
「...お前、俺の気持ち知ってて...そんなことしてたのか」
「い、いや違くて...」
「悪い。ちょっとしばらくお前とは...距離置くわ」というと、そのままフラフラと教室を出ていく清人。
「ちょっ、ちがっ、」と止めようとしたが、野次馬のように集まってきたクラスメイト達により、無事阻止されるのだった。
「え!山口が旦那なの!?まじで!?」
「いつから付き合ってんの!?」
「やった!?やってるのか!?」
「じゃあ、汐崎さんは山口さんってこと!!」
「ね、山口のどこに惚れたの!?」
「やってるの!?日夜やってるの!?」
「デートとかしてんの!?てか、結婚式やったの!?」
「同棲してるってこと!?」
「もしかしてやってないのか!?」
なんか、1人だけずっと下世話な質問してるやついるな。
そうして、人混みの奥でトボトボと歩いていく清人の姿を目で追うのだった。