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第30話 絶許

「...なんて?」


「...実はこの前...家に妹ちゃん達がきてさ」


 ◇数日前


 碧くんは清人くんと遊びに行ってしまい、1人寂しく家でゴロゴロしていると、インターホンが鳴る。


「はい」


『すみません。ご主人様の妹という方がお二人家に来ているのですが...。事前に伺っていなかったのですが、そのような予定などありましたか?』


「え?いや...ないですけど。とりあえず下に行きます」と告げて急いで着替えて1階まで降りて行った。


 そこに居たのは制服を着た中学生の女の子2人。

見覚えがあった。

碧くんのお母さんに婚姻届の証人になってもらったとき...、遠くからこちらを見ていた2人の女の子。


「...えっと...碧くんの妹ちゃん達...だよね」と、声をかける。


「あっはい...。山口莉音やまぐちりおんと」と、お姉ちゃんと思わしきほうがそう言った。


山口花音やまぐちかのんです」と、妹ちゃんが続ける。


「碧くんは今居ないんだけど...」


「今日用事があるのは...汐崎さんです」


「...私?」


「...私たちを助けて欲しいんです」


「...とりあえず家に上がって。碧くんはしばらく帰ってこないから」


「「...はい」」


 正直、私はこの子達が嫌いだ。

長年、碧くんを苦しめてきた最低家族の一員だからだ。

どんなバックグラウンドがあろうと、きっと私も碧くんも許すことはない。


 けど、そんなことは向こうも百も承知だろうし、その上で家に来たのだろうから、話くらいは聞いてあげようと思っていた。


 そうして、リビングに案内して紅茶を出す。


「あっ、ありがとうございます」

「ございます」


「それで。助けて欲しいって何」


「...私たちは父から性的暴行を受けています」と、スタートにとてつもない爆弾を投下してくる。


「...え?」


「私も妹も...初めては父でした。中学生1年の時に無理やり...されました」と、プルプルと手を震わせながらそう言った。


「...お姉ちゃん。その前から話さないと...」


「そ、そうだね...。私は正直、もうお兄ちゃんのことを恨んだりしてません。確かに...最初はすごく恨みした。私も妹お母さんっ子だったので...。でも、悪いのはお兄ちゃんじゃなくてあの運転手の人だし...。だから、病院から退院してきたお兄ちゃんを優しく迎え入れようとしたんですけど...今のお母さんもお父さんもお兄ちゃんのことずっといじめてて...。私たちも逆らうのが怖くて...いじめてました」


「...知ってる」


「それから数年経って...私が中学に入ったタイミングで父に呼び出されて...ホテルに連れて行かれました。そしたら、急に服を脱げって言われて...無理矢理...されました。それから、余計に父にも母にも逆らえなくなって...。2年後に妹も同じことを父にされました。最近も今の母と...3人でさせられたりとか...もう...どうしたらいいかわからなくて...」


「...それで?私にどうしろと?」


「...助けて欲しいんです。虫がいいことを言ってるということは分かってます!...けど、もうどうしたらいいかわからなくて...」


 本当に虫がいい話だ。

碧くんが助けられたから私達も助けられたい。だって、本当はお兄ちゃんのこと恨んでなかったから?ふざけてる。この子達は本当にふざけている。


「...ごめん。私みたいなただの高校生に何かを求めること自体間違ってるよ。私には何もできない。それにあの契約書の内容知らないわけじゃないでしょ。もうあなた達は碧くんに近づくことはできないはずでしょ。お墓であった一件は偶然として処理したけど、あれももしかして待ち伏せとかしてたとか?」と、段々語気が荒くなっていく。


「あっ、あれは本当に偶然です...。今まではお兄ちゃんと鉢合わせしないように日付をずらしてお墓参りしてたので...。今年はたまたま妹との予定が合わなかったのであの日に行きました...」


「ふーん。そう。ごめんだけど、その話も作り話にしか聞こえない。何か証拠があるわけでもないし、ここに来ているのさえ両親に唆されているだけだと思ってしまう私っておかしいかな?とりあえず、それ以上の話がないなら帰ってもらえる?相談したいなら警察にでも行きなよ」と、冷たく突き放す。


「...」と、妹ちゃんの方がお姉ちゃんの方をじっと涙目で見つめている。


「...分かりました。最後にこれだけ見てもらえますか?」と、お姉ちゃんの方が制服を脱ぎ始める。


「...何してるの?」


 そうして、服を脱いで下着姿になった彼女には無数の人の噛んだあとが残っていた。


「...お父さんは噛み癖があるので」というと、妹ちゃんも脱ぎ始める。

同じように無数の噛み跡が残されていた。


「...2人いるなら自演だってできるでしょ。そんなのは証拠にならない。そもそも、助けるって私にどうして欲しいの?」


「...分かりません」


「まさか、私たちと一緒に住みたいとか思ってないよね?そんなことしたら...碧くんが壊れちゃうでしょ」


「...すみませんでした」と、2人は諦めたようにそのまま頭を下げて家に帰って行った。


 別に信用をしていなければ同情もしていない。むしろ、そんなことを私に言ってくることが腹立たしくて仕方なかった。もし、あの2人が寄り添っていればどれだけ碧くんは楽だったろうか。

けど...。家族の問題が解決しない限りきっと碧くんが救われることはない。


 毎晩のように魘されている碧くんをこれからも見続けることになる。

それは...嫌だった。


 そうして、奥歯を噛み締めながら私はふと携帯を取る。


「少し調べて欲しいんですけど」


『久しぶりじゃないか。いいよ。君の頼みなら何なりと』


「...調べて欲しいことは二つ」

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