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第29話 エッチ向いてホイ!

 ...やられた...。

英語...じゃないよな?ドイツ語?とか...か?


 自分は確実に答えられて、相手は答えられない。このゲームにおいて必勝クラスの戦略である。


「...めちゃくちゃこすいね...」


「何を言うか!賢いといってくれたまえよ。ワトソンくん」


 ...さてと、どうしたものか。

俺が知っていて真凜ちゃんが知らないこと...?

そんなのあるわけがない。

俺の得意な専門的知識でさえ、どの程度通用するか怪しいもんだ。


 そうなると...。真似は無理。

俺だけが言えて相手が言えないこと...もしくは言いづらいこと...か。

そうして、一つの案が思いついて俺は思わずニヤリと笑う。


「その顔、なんかいい作戦でも思いついた?」


「さぁ、どうかな」


 俺はカードに手をかけて、裏返す。

出てきたのは先ほどの2枚とはまた違うキャラクター。つまり、俺に命名権があるということだ。


「この子の名前は...『汐崎真凜はパパが大しゅきです』...だ!」


「...はぁ!?ちょっ、やめてよ...」


「ふっふっふっ。もちろんこのゲーム中の様子は録音させてもらう。そして、後で切り抜いてお父さんに送ってやる」


「最低!ズル!ズルムケ!!」


 俺はズルムケではない。


「...さぁ、勝ちたきゃプライドを捨てるんだな」


「ぐっ...」


 真凜ちゃんは奥歯を噛み締めながらカードを捲る。

そこに現れたのは『汐崎真凜はパパが大しゅきです』だった。


「しっ...!」と、反射的に名前を言おうとして脳がストップの指令を出す真凜ちゃん。


 そんな様子を見ながら俺はゆっくりと名前を復唱する。


「汐崎真凜はパパが大しゅきです」


 こうして、一応五分になった。


 その後は真凜ちゃんも対抗して、『いっつも真凜ちゃんのこと想像しながらエッチなことしてます』という名前をつけたりしながらゲームは進んで行った。


 現在:真凜34、俺27。


「...なかなかやるね。碧くん。正直、この勝負私の圧勝だと思ってたんだけどな...。けど、私の優位は変わらない」


「...ぐっ」


 分からない俺と口に出しづらい真凜ちゃんでは互角にはならなかった。

俺のは所詮付け焼き刃の代物であり、完全な対策にはなり得ない。

恥を捨てて真凜ちゃんが名前をあげるようになって少しずつ差がついてきていた。


 更に25種類という膨大な種類の名前などそんな簡単に全部覚えられないという、単純な記憶力においても彼女に劣っていた部分の影響と大きい。


 真凜ちゃんがカードを捲る。


 えっと、なんだっけ...こいつ!


「今晩俺と一緒にお風呂に入ろう!真凜!」と、先に真凜ちゃんに答えられてしまう。


「ぐっ...」


「ふっふっふっ。どんなもんだい」と、ドヤ顔をしてくる。


「...てか、真凜ちゃん俺と一緒にお風呂入りたいの?」


「...うん。...何?嫌なの?」


「嫌ではないけど...。なんか可愛いなって」


「か、かわっ!?//」


「好きになっちゃったかも...?」


「え!?//」


 その瞬間にカードを捲る俺。


「汐崎真凜はパパが大しゅきです!」


「あっ、ず、ずるい!!//私...本気で好きになってくれたと思ったのに...」


「ご、ごめん...。た、確かに今のはやり過ぎだったかも...」と、視線を斜め下に向けると、すかさずカードをめくり「わ、私はおっぱいを舐められるのが好きです!//」と、顔を赤くしながら回答する。


 や、やられた!!


 こうして、お互いに少しずつライフを削られていく俺たち。


 しかし、結局俺が真凜ちゃんに追いつくことはなく勝負はそのまま真凜ちゃんの勝利で幕を閉じるのだった。


「やったー!勝った!」


「...負けた...」


「いやー、でも強かったね!まさかこんなギリギリの勝負になるとは思わなかったなー」


「...だね。いやー、楽しかった」


「うんうん!...けど、忘れてないよね?罰ゲームの件」


「...やっぱ忘れててくれなかったか」


「うん!よーし、今日一日中私の命令は絶対だから!」


「...お、おう」


「よーし、それじゃあ早速命令しちゃうぞ!...うーん。最初は軽めで!まずは肩を揉んでもらおうかな!」


「...お、おう」


 一発目とはいえなかなかに軽い命令に肩透かしをくらう。


 そうして、肩を揉むのだが...。


「あぁん!//いやっんっ//きもちぃぃのぉ//」と、わざとらしく声をあげる。


「...好きだね、そういうの」


「うん!大好きな人に触られてるのかそれだけで濡れちゃうよ?普通」


 それが普通なのかはちょっと怪しい。


 それからも大した命令はなく、膝枕をして欲しいとか、褒めながら頭を撫でて欲しいとか、乳首当てゲームをしたりとか...。

それなりの難易度もあったのだが、思っていたよりハードな命令はなかった。


「ね、エッチ向いてホイゲームしよ?」


「...聞いたことないけど。そんなゲーム」


「普通にあっち向いてホイやって、もし碧くんの指の向きと私の首の向きが一緒なら今晩えっちするっていうゲーム!」


「...やりません」


「あっ!命令は絶対だから!」


「...はぁ。分かったよ」


 そうして、結果は見事に一致してしまうのだった。まぁ、この後エッチしてしまうのだが。なんちゃって。


「ちょ、本気でするの?」


「...嘘だよーん」と、笑う真凜ちゃん。


「...焦った」


「その代わりにもう一個頼んでいい?」


「ん?何」


「...妹さんと会ってみない?」

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