「あはは...改めてよろしくね。えっと...
「あっ、はい...。汐崎...碧です」
「緊張するよね...。僕も緊張してるんだ」と、ニコッと笑う。
だいぶ...想定していたイメージと異なっていた。
てっきりイケメンで、仕事ができて、きっちりしてて厳しい人だと思っていたのだが、少しだらしなくてナヨナヨしていてすごく優しそうな人だった。
「あぁ、僕も君と同じで婿入りしているんだよね。
「そう...なんですね」
つまり俺と真凜ちゃんと同じということか...。
それにてっきり尻に敷かれているように見えるが、なるほど...。あのお母さんがこのお父さんにベタ惚れというところも一緒だし。
このお父さんにはすごく親近感が湧いてくる。
「うんうん。今の真凜を見ていると昔の梓を思い出すんだよね。本当...そっくりでね」と、携帯をこちらに見せてくる。
そこに写っていたのは確かに真凜ちゃんにそっくりなお母さんの若い頃の写真だった。
「真凜は僕のことあまり好きではないらしくてね...。あまり会話をしてくれないんだけど、あの子は元気にしてるかい?色々と迷惑をかけてないかい?何かあればいつでも僕に相談してくれればいいから」
「はい。...ありがとうございます」
「碧くんにはすごく親近感を感じてるんだよね」
「それは自分も...感じてます」
「良かった良かった!ごめんね、急に呼んじゃって。汐崎家は女家系だからねー。どうしても旦那側が肩身が狭くてね...。一緒にお酒を飲めるようになったら是非2人飲んだりしたいな」
「その時は是非お願いします」
そうして、馴れ初めとか学校の話とかそういう話をしていると余計に親近感が湧いてきて、盛り上がっているところで真凜ちゃんが入ってくる。
「...パ...お父さん。久しぶり」
「真凜、久しぶりー。今日は泊まっていくのかい?」
「いや、帰るよ」
「そうかそうか...」
「碧くん。そろそろ帰ろっか」
「え?もう帰っちゃうの?」
「うん。もういいでしょ?お父さん?」
「あぁ...うん。碧くん。また来てね?」
「はい。また来ます。絶対」
そうして、家を後にしたのだった。
帰りはタクシーで帰る予定だったのだが、タクシーに乗り込む瞬間に携帯を置いてきてしまったことに気づく。
そうだ。テーブルに携帯を置いちゃったんだ。
「ごめん。携帯とってくるわ」
「え?私も行こうか?」
「ううん。置いてきた場所もわかるし直ぐとってくるから待ってて」と、声をかけて駆け足で家に向かう。
そのまま玄関を抜けて部屋に入ろうとしたところで、真凜ママとパパの声が入ってくる。
「あの子、随分と笑うようになっていたわ。きっといい影響を受けているのね」
「そっか...。碧くんはすごくいい子だったよ。僕と何となく似てる気がしたし。碧くんもそう思ってくれてたみたい」
「そうね。確かに昔のあなたに少し似てるかもしれないわね」
「だねー」と、なんとも微笑ましい会話をしていた。
これ以上盗み聞きするのも悪いと思い、ドアノブに手をかけた瞬間のことだった。
「...ね...久しぶりに...にゃんにゃんごっこしない?」と、何やら楽しそうなワードを口にする真凜ママ。
「いいよー。しよっか」というと、真凜ママが急に甘い声で「ニャンニャン....好きだニャン」と言い始める。
すると、真凜パパも「僕も梓が大好きだニャン」と、可愛らしい声でそんなことを言う。
見てはいけない瞬間を見てしまっていた気がした。
少しずつ扉から離れようとしていると、「何してんの?碧くん」と、後ろから声をかけられて思わず扉を開けてしまう。
そこに居たのは真凜パパの足に顔をすりすりしながら、すごく幸せそうにしている真凜ママの姿だった。
一瞬の沈黙の後、沸騰したヤカンのように顔を真っ赤にしながら「ち、違うから!これは違うから!!!!//」と何やらよくわからない言い訳を始める。
俺は何も聞いていなかった、見えなかったと言い訳しながら逃げるように帰るのだった。
...もう一度この家には来たかったが、同じくらい来くないと思うのであった。