『あんたのことなんか家族だと思ったことない』
◇7月30日 夏休み5日目
俺は1人でお墓に来ていた。
今日は...母の命日だった。
ちなみに真凜ちゃんは家の用事で実家の方に戻っていた。
そうして、いつものように水でお墓をきれいにする。
ここ数年、お墓参りに来ているのは俺だけだった。
「母さん。久しぶり。最近はすげー色々あってさ...。とりあえず報告なんだけど...俺結婚したんだ」と、左手の薬指を見せる。
「今度、紹介するね。すげーいい子なんだけど、結構やばい子でさ、俺結婚したことすら知らなくてさ...」と、ここ最近出来事をまるで目の前にお母さんがいるように語りかける。
「それでさ」と、話していると後ろから声をかけられる。
「やぁ。こんなところで会うなんて奇遇だね」
振り返るとそこにいたのは奏さんと、ボディーガードのような人が1人。
「あっ...お久しぶりです」
「久しぶりだね。君もお墓参りかい?」
「えぇ、まぁ...。奏さんもですか?」
「うん。まぁね。お墓はもう少し奥の方なんだが、見知った顔があったからつい声をかけてしまったよ。ごめんね?」
「...いえ。俺は大丈夫ですけど」
「...そうか。お母さんだったかな?じゃあ、僕も挨拶しちゃおうかな」と、相変わらずかっこいい笑顔を浮かべながらそんなことを言った。
すると、次の瞬間のことだった。
「...お兄ちゃん」という声がして思わず振り返る。
そこに立っていたのは2人の妹だった。
「...お前ら...」と、俺は思わず目を逸らしその場から離れる。
「あれ?妹さんかい?って、どこに行くんだい?」
「...俺に妹なんていません。あいつらは...悪魔ですから」
◇
「って、聞いてる?」
「ん?なんだっけ?」
「だから、お父さんが会いたいって言っててさ...。明日来て欲しいんだけど...どうかな?」
「...あっ。うん。行くよ」
「...なんかあった?」
「いや、何でもない」
「...私には言いたくないこと?」
「ちがっ...。そうじゃないけど...」
「そっか。ごめん。こういうのうざいよね」と、笑う。
「いや...今日...妹と会ったんだ...。それだけ」
「そっか。妹さんか」
「...うん。それだけ」と、言う俺の手は震えていた。
「...大丈夫だよ。今は私がいるよ?」と、俺の手にそっと手を重ねる。
「...ありがとう」
永遠に逃れられない。
家族とは、血縁とは、トラウマであり一生消えることのない呪いだ。
◇翌日
ご両親への挨拶。
一応お母さんとはすでに2回ほどあっていて面識はあるが、お父さんとは一度も顔を合わせたことがない。
怖い人だったら...どうしよう...。
その時間が迫るたびに心臓が痛む。
めっちゃ緊張してきた。
さっきから何度も時計をチラチラと見ていた。
「...」
「緊張してる?」
「...そりゃ...ね」
「お父さんは優しいから大丈夫だよ?」
「...そう...なの?」と、ぎこちなく笑う。
多分人生で1番緊張している気がする。
そうして、あれこれ考えている間に真凜ちゃんのお母さんが迎えにきて、その車で家に向かうのだった。
「2人ともちゃんと受験勉強はしてる?」
「うん。それなりに」
「は、はい!が、頑張ってます!」
「...そう。毎日あんな奇行をしているわけではないのね。安心したわ」
わ、忘れてたぁ!
そういや、家の中で水着になってホームシアターで海の映像を流して、ホームバカンスとかいう奇行を行っていたのを見られたのを思い出した。
「...あと、私の前ではそういうキャラでいいけど、お父さんの前で素のあなたで居てくれるとありがたいわ。多分、その方がお父さんもやりやすいだろうし」
「わ...分かりました」
更に心臓が高鳴りながら、いよいよ家に到着するのだった。
豪勢な一軒家であり、さらに緊張感が高まる。
そうして、綺麗な中庭を通り家の中に入る。
家の中もまるでモデルハウスのようだった。
「...すごい家」
「あら、ありがとう」と、ニコッと笑うお母さん。
すると、窓を念入りに拭いている頭がボサボサで緩い格好をしているメガネをかけた男の人がいた。
え?もしかして使用人的な?
もしくは執事?
「...はぁ。あなた...今日は真凜の旦那さんが来るからちゃんとした格好をしてって言ったわよね?」
「え?あっ、え!?もう来たの!?あ、初めまして...父です...。えっと、碧くんだよね?こっちで話そうか」と、案内される。
「それじゃあ私たちはこっちで話してるから」と、真凜ちゃんとお母さんが居なくなってしまう。
えぇ...。まさかのお父さんと2人きり...?
こうして、2人きりの対談が今...始まる。