「なーつーやーすーみー!!だね!」と、朝からハイテンションの真凜ちゃん。
「そうだねぇ...。暑いねぇ...」と、ゴロゴロとしている俺。
「ちょっと!せっかくの夏休みなんだし!どっか出かけようよ!」と、俺の腕を引っ張る。
「...不用意に出かけるのはまずいと思うけど」
「えー!この前は駅前だったからよくなかったわけで...遠出したら大丈夫だって!」
じぃー...っと見つめる。
「...わ、分かったよ...。じゃあ、今日は家で海を体験しよう!」
「...どうやって?」
「えっと...まずは水着になりますので少々お待ちを!」と、脱衣所に水着を持っていなくなる。
そうして、スク水姿で現れる。
かなり刺激的な格好に思わず目が一旦向かってしまう。
「ちょっと!なんで碧くんは着替えてないの!?てか、おっぱい見過ぎ!」
「...ぜ、全然見てないし...。てか、家の中で海パンになれと?」
「そう!早く着替えてきて!」と、海パンを持たされて無理やり着替えさせられる。
海なら違和感ないのに、家だと妙に恥ずかしくなるのはやっぱりみんな同じ格好をしているという安心感からくるものなのだろうか。
そうして、海パンになった俺が戻ると、ホームシアターで海の映像を流し、デカいサングラスをかけてソファに寝そべり、大きいグラスを持っている真凜ちゃん。
「...何をされてるんですか?」
「Welcome to Hawaii!!」
「...あっ、はい」
「Non,Non,Non!This is Hawaii. Therefore, Japanese is not allowed.(ここはハワイなので日本語は禁止でーす!)」
「...俺英語苦手なんだけど...。えっと...I'm...not good...at English?(私は英語は上手くないです)」
「おうけぇい、おうけぇい!ソレデは、エイゴ風のニホンゴで話シマショウ!」
「...ソレでオネガイシマス」
そうして、2人でソファに並んで海を眺める。
高音質のスピーカーから流れる海のさざなみが心地よく、薄目で見ればまるで海ないような感覚に陥る。
おぉ、これはホームバカンスだ。
家にいながらバカンス気分を味わえるとは...。
そうして、2人とも段々心地良くなってそのまま眠りにつくのだった。
◇1時間経過
キッチンの方から水が流れる音がして目を覚ます。
すると、横には涎を垂らしながら眠る真凜ちゃんが居た。
...ん?
でも、今キッチンの方から音がしたよな...。
少しずつ覚醒していく意識と、若干の恐怖で体をガバッと起こす。
すると、そこにいたのは真凜ちゃんのお母さんだった。
「あら、起こしちゃったかしら?」
「あっ...えっと...」
「夏休みの初日とはいえ、あなた達は今年受験生なのよ?もう少しその自覚を持っていいのかなと思うのだけれど?」
「...す、すみません」
「それにテストの結果についても聞いたわ。今回に限って満点じゃなかった...というのは偶然と考えていいのよね?」
それは遠回しに...いや、もはやドストレートにお前と関わったせいじゃないのか?と聞かれていたのと同義であった。
「...こ、今回はテスト前に...体調を崩してしまったのが...要因の一つかと思いますが...」
「その風邪を持ってきたのは誰かしら?」と、相変わらず表情と声色が不揃いでそれが妙に怖く感じる。
「...申し訳ありません。自分の...責任です」
「普通の学生恋愛なら笑って許せるのかもしれないけれど、あなた方は結婚をしているの。これからを約束している2人なの。言いたいことは分かるわよね?」
「...はい」
「そう。それならいいわ。...小言はここまで」と言いながら、キッチンから出てきてリビングに出てくる。
「あなたと関わってからあの子は本当に幸せそうなの。昔から何でもそつなくこなして、ワガママも言わなくて、本当に手がかからない子だったわ。だけどきっと、あなたには弱い真凜も、ワガママな真凜も、油断している真凜も...私には見せてくれない真凜を沢山見せているのでしょうね」
「...」
「素直に嫉妬しちゃうわ。私は色々と厳しくしてしまうからもしかしたら、本当は真凜には嫌われているのかもしれないし」
「そんなことは...ないと思います!厳しくしてるのは真凜ちゃんの為だってことは...分かってると思います。それが母の愛だったことを」
「...そうね。けど、本当にびっくりしたわ。まさか、あの時の男の子と結婚するなんてね」
「あの時?」
「あら?...そう。いえ、何でもないわ」と、少し意味深なことを言い、「それじゃあ真凜が起きる前に帰るわね。これ良かったら食べて?真凜の好物なの」と、オムライスを指差すのだった。