「...はい?」
「あっ、頂けませんかは語弊がありますね...。貸していただけませんか?」
「...あなた何を言ってるの?」
未だにそのキャラをやり続けるのか?なんて突っ込む余裕もなかった。
「...いえ、無理なら構わないですけど...。2人が結婚してることバラすだけなので...」
「ちょっ、七谷さん...なんで...」
「5月26日。朝食はおにぎり。いつも通り7:45に家を出て、8:15学校に到着。昼食はコンビニの焼きそばパン。家に帰ってからは少しゆっくりしたのちにアルバイトに行く。21:50にアルバイトが終わり清人くんと電話をしながら帰宅」
「...え?」
「私...碧くんのファンなんだよ?...子役の時代からずーっと応援してて...、うちの学校に入ったのも...、碧くんがいるからなんだよ?」
子役時代という俺の全てであり、黒歴史を知っている女の子。
てか、俺のストーカーってことか...?
真凛ちゃんとは少しタイプの違うヤバい人ってことか。
「...私だけのものにしたいとか...そこまでは言わないけど...ずっとそばに居たいんです...。だから...時々でいいので貸していただけませんか?」
「...嫌よ。碧くんは私だけのものなんだから。誰にもあげないし、貸しもしないわ」
「いいんですか...?バラされても...」
「どうするの?碧くん」
「碧くんはどうしたいんですか...?」
「俺は...」
◇
「この服どうかしら?」
「いいんじゃないかな。似合ってると思う」
「本当に思ってる?ちょっと上の空すぎない?」
「...まぁ。俺たちの関係がバレたのもそうだし、まさか七谷さんが俺の子役時代のことを知ってるとは思わなくて...流石に動揺してるというか...。ちなみに真凛ちゃんは知ってたの?俺が子役やってたこと」
「知ってるわ。あなたのことは昔からよく知ってるわ。まぁ、それがあなたにとってどういう意味をもつのかも含めて、話すべきではないと思ってあえて口には出してなかっただけ」
「流石は元祖ストーカーだな」
「あら、褒められてる?」
「ブレないね。本当」
「けど、良かったの?あんな約束して」
「...この関係のことをバラされるよりマシだからね」
「そう。ちゃんと大事にしてくれてるのね」
「当たり前だろ、奥さんなんだし。実際真凛ちゃんのおかげで俺はここにいるわけだから」
「そうね。その感謝の気持ちをずっと持っていることね」
「けど、真凜ちゃんは良かったの?」
「私のミスでこうなったのにあれ以上駄々こねるのは違うと思うし。それに何があっても最後に選んでくれるのは私だってことは誰よりも分かってるつもり」
「うん。お母さんにも挨拶しちゃったしね」
俺はある約束を七谷さんと交わしてあの場はお開きとなった。
それから真凛ちゃんと2人で映画を観て、ショッピングモールでお買い物をしていたのだった。
そうして、服を選んでいる間も、うちの高校の制服を着た子達とすれ違うが誰1人真凛ちゃんに気づくものは居なかった。
もちろん、俺も気づかれなかった。
「いい買い物だったわ」
「そりゃよーござんした」と、両手にいっぱいの荷物を抱えた俺は返答する。
「買い物に手伝ってもらった分、今度水着も着てあげるから楽しみにしておいて」
「...水着ね。海は結構行ってたりするの?」
「ううん。あまり日光に強い方じゃないから、小学生以来行ってないわ」
「...喋り方そろそろ戻してくれないですか?」
「あら?こういう私は嫌い?」
「悪くはないけど、らしくないかなって」
「らしくない...ね。んじゃ、いつも通りに戻そっかな!」と、いつも通り腕に抱きつく。
「ちょっ、荷物持ってるんだけど...」
「男は女の荷物を持つためにいるんだよ??」
「...さいですか...。それより...七谷さんのことだけどさ...。真凛ちゃんが嫌ってたのってああいう性格だって分かってたから?」
「ううん。女の勘だねー。そりゃ、碧くんに色目使ってるのもムカついてたけど、嘘ついてるっていうか、演技してるっていう匂いがしたんだよね!」
「ふーん。嘘つきの匂いね...」
「そゆこと!まぁ、私たちが結婚してることバレちゃったわけだし、色々気をつけないとだね!弱みに漬け込んで何をするか分かったもんじゃないし!」
「...そうだね。俺も気をつけるよ」
「そう!それなら良かった!」
そんな風に会話をしながら2人で帰るのだった。