「ね、昨日みたいにチューしよ?」
「...しません」
「えー!なんで!」と、ソファの上で地団駄を踏む真凛ちゃん。
「あれは事故というか、そうしなきゃいけなかったからしただけと言いますか...」
「私となんて事故じゃないとしたくないってこと!」
「そうじゃないけど...」
「チューしたいチューしたいチューしたいの!...チューがダメならデートしよ?」
「...誰かと会ったらどうするの?」
「モーマンタイ!ちょっと待っててね!」と、走り去っていく真凛ちゃん。
◇1時間後
「これなら分かんないでしょ?」
まるで別人のようになった彼女に思わず言葉を失う。
いつもの緩い感じではなく、鋭くとがったような姿をした彼女が立っていた。
「いつかこういうコスプレしようと思って買ってたんだけど、まさかこのタイミングでいきるとは...。あれぇ?もしかして、こういう感じの方が好きだったりする?」
「別にそんなんじゃないないけど...」
「碧くんは...変装しなくていっか!てか、面白そうだし、見た目に合わせた喋り方にしよーっと」
そういうと、一回咳払いするといつもより低い声で「それじゃあ行きましょう。碧くん」と、ドSな笑みを浮かべる。
「ちょっと!」という俺の声も虚しく外にそのまま連れていかれるのだった。
「初デートはどこがいいかしら。水族館とか映画館が定番かしらね」
「定番はそこら辺かな。...てか、くっつきすぎじゃない?」
「勘違いじゃない?いつも通りだと思うけど?」と、さらに胸を肘に当ててくる。
明らかにわざとやってる...。
「今、エッチなこと考えてるでしょ?本当お猿さんなんだから」
というか、本当に別人に見えてまるで浮気しちゃってる気分になる...。
「別に考えてないし...」
「本当かしら?」
そんな風に会話しながらひとまず、駅前に到着した。
「着いたわね。それじゃあ、ここからは碧くんがエスコートしてくれる?」
「何その無茶振り」
「人間はアドリブ力が大切なのよ。台本頼りの人生じゃ色々と困るわよ」
でも、デートとかしたことねーし。
まともに女の子と遊ぶのだってこれが初めてなのに。
「そ、それじゃあ、とりあえず...ご飯食べに行こっか」
「0点。男なら無理やりラブホテル一択よ」
「どんなヤリチンだよ!」と、思わず駅前で大きなツッコミを入れてしまう。
「...声が大きいわ。まさか夜もそんなテンションで営む気?激しい夜になりそうね」
「...もういいです。とりあえず映画でも見に行こう、真凜ちゃん」
「真凜ちゃん?私の名前はメチャ・カワイイ・マリンよ。フルネームで言ってみなさい」と、そんな会話をしていると後ろから声をかけられる。
「あ、あの...!...山口くん...だよね?//」と、そこに居たのは七谷さんだった。
「あっ...七谷さん...」
「うん...。あの...」と、恐る恐る真凛ちゃんを顔を見ている。
あ、あっぶねー!!変装しててよかったー!!
「...汐崎さん...ですよね?」
「「え?」」と、2人の声が被ってしまう。
「...汐崎?誰のことかしら?」と、冷や汗をかきながらそんなことを言う真凜ちゃん。
「え...。どうして嘘つくんですか...?」
「嘘なんてついてないわ」
「だって...その指輪...」と、真凛ちゃんの指輪を指差す。
「あっ...」と、素の声が出る真凛ちゃん。
◇
「...つまり...汐崎さんの結婚相手が...やまぐ...碧くんってことですか...」
「ま、まぁ...そうなんだよね」
「...結婚...してたんですね...でも苗字変わってないですよね...」と、悲しそうに呟く。
「う、うん...。色々と面倒なことになるから学校にもまだ言ってなくて...」
「...つまり、知ってるのは2人を除いて私だけってことですか...?」
「まぁ、そうなるね...。一応両親は知ってるけど」
すると、少し俯いたあと、何とも愛らしい笑顔を見せたあと七谷さんはこう言った。
「へぇ...。じゃあ...黙ってる代わりに碧くんを頂けませんか?」
「...はい?」