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絶望した小説家
リエ
文芸・その他
2024年09月05日
公開日
863文字
連載中
これはただ一人の少年の物語。

夢を語る小説家が夢を見ることをあきらめた物語。

絶望した小説家

目を覚ます。


「また夢は見れなかったな」


ため息をつき机を見る。机の上には折れた筆がある。

使う必要がない筆…いや、使筆。


今年で18歳になる俺。18歳になる前に、夢を見れなくなってしまった。

夢を語るはずの小説は、書けなくなった。


「散歩にでも行くか…」


まだ昼。だが、学校に行っていない俺には関係ない。

このおかしな人生駄作をどう完結させるか。

ただそれだけを考え、死に場所を探しさまよい続けるのが日常になっていた。


「……どうやって死ぬか…」


いつものように考える。

死ぬために生きるという矛盾した生活の中で考え続ける。


ふと目線を上げると見知った顔がいた。

がそこにいた。


「死にたい奴は死にたいって言う前に死んでるんだよ」


目の前にいる自分はそう言ってくる。


「俺は…ただ死にたいわけじゃない」


中身のない小説人生を完結させたところでそれは誰にも見られない。

だから俺はせめて、一人でいいから見られる小説人生を書きたいだけだ。


「昔、お前が書いていた小説は多くの人に見られていただろう?」


「それは傑作とは言えない」


俺は自分と対話する。


「駄作を駄作のまま公表するのは俺は好きじゃない」


「なら…お前の思う傑作とはなんだ」


俺の思う傑作。それは一つしかない。


「書きたいことをひたすら書き詰める」


どんなにストーリーを巧妙に組んでもそれは幻想でしかない。

夢を見れなくなった俺にとって幻想を書くことは難しい。

なら俺は現実を書くまでだ。


「どんなにストーリーがひどくても、書きたいことを書き詰めれば作者にとっては傑作だ」


俺は自分に言う。


「どうしてそこまで小説にこだわる?」


俺の主張に首を傾げ、そんなことを訪ねてくる。


「それが一番向いているからだ」


これで食っていこうと思っているわけじゃない。

死ぬまでこれで生きていようと思えるのが小説だった。


俺の答えを聞いた自分は静かに消えていった。


「………」


この時間が嫌いだ。

いつも自分との対話が終わると、一気に脳内にもやがかかる。

虚無感というものなのか、すべてがどうでもよく感じる。


「まだ帰りたくないな」


俺は引き続き散歩を続けるのだった。


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