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第35話 愛香への思いが暁斗の待つ時間

 スーパーマーケットの仕事を終えて、更衣室のロッカーをパタンと閉めた。バックからスマホを取り出しながら、休憩室の外に出る。同じスタッフのみなに挨拶をして、自動ドアを出ようとすると、まちぶせをしている人がいた。


 部活の遠征先での小野寺暁斗だ。お昼ごはんと駄菓子を買いに11時頃お店にやってきていたはずだった。時刻は午後の5時。まさかずっと待っていたのかと、片手にスマホを持ったまま、体が固まった。


「小野寺くん?」


 愛香のデニムのショートパンツに白い半そでシャツの私服を見せるのは初めてだった。なぜか暁斗は、頬を赤らめていた。


「お、おう」

「あれ、部活は? お昼くらいに終わったんじゃないの?」

「う、うん。まぁ。そうね。終わったんだけどさ。あそこで遊んでたのよ」

 暁斗は、道路の反対側にある野球のバットのイラストが描いてあった看板を指さした。


「バッティングセンター?」

「そうそう」

「え? 陸上部だよね?」

「うん」

「野球好きなの?」

「中学の時は野球部だった」

「えー、そうなんだ。初耳」

 その流れで話が止まった。暁斗は後頭部をぼりぼりとかいて話題を出す。


「あ、あのさ」

 愛香はスマホのラインメッセージ通知が入るのを見る。暁斗の声を聞いていない。


「あ、ごめん。行かないと……」

「え、あ、うん。ごめん」

「んじゃ」


 駐輪場に止めていた自転車のカギを開けて、かごにバックを乗せる。ハンドルをまわして、自転車を押した。


「バイバイ!」


 手を振って、別れを告げると、暁斗は寂しそうに手を振った。愛香は、信号機が青に変わって、少し離れた横断歩道を自転車の乗って進んで行く。遠く離れていく彼女を暁斗はじっと見つめるが、どこへ行くのか気になって、そっと自転車を押して、気づかれないよに着いて行った。


 愛香は、ライン通知で千晃からのメッセージを確認して、今日は珍しく2人で外食しようというお誘いだった。それがすごく嬉しくて心が躍った。自然と自転車を漕ぎながら、鼻歌が出てきた。マンネリ化してきた関係性も久しぶりにデートできるんだとウキウキしていた。


 そんな状態など全く知らない暁斗は、千晃先生が軽自動車の運転席から出て来るのを見つけた。口をおさえて、路地裏に隠れた。まさか、まだ関係性が続いていたなんて信じられなかった。学校では駆け落ちしただの、校長が引き離しただのいろんな噂が飛び交っていてどれが真実かわからなかったが、ここで2人の関係が濃密だと知ると何だかイライラしてきた。思わず、自転車をとめて、ガツガツと2人のそばまで興奮気味に近寄った。


「白崎!!」


 暁斗は大きな声で叫び、険しい顔をして愛香と千晃の前に近づいた。2人は、まさかの暁斗がここにいると分かって、息をのんだ。


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