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第9話 ふわふわのソファの上は落ち着いた

 カチカチと時計の針を聴いているうちに瞼がだんだん重くなってきて、愛香は、くたんとソファに横になってしまった。お風呂上がりの先生の姿はどんなものかなと想像して楽しみにしていたのに、不本意に体は正直で疲れがたまっていたようだ。千晃先生を見ることができずにすやすやとうつ伏せになって寝てしまっていた。ガタンと風呂場のドアが開く音にも反応しないくらいの熟睡度合だ。


 頭にフェイスタオルをかけて、ごしごしと拭きながら、千晃先生はリビングの方へ移動した。すやすやと安心して、眠る愛香を数分間何も言わずに眺める。自分の部屋に女性がいるなんて、元彼女以来でものすごく久しぶりだった。嗅いだことのない爽やかなシャンプーの香りが漂っている。この匂いが、アジサイのママからもらった試供品のシャンプーなのかとさらりと愛香のセミロングの髪をなでた。本当に彼女なら今すぐにでも……でも教師という立場上、それ以上のことはできないと理性を強くおさえたが、おさえきれない。頭をそっとかきあげて、熟睡する愛香の額にそっと口づけた。あいつに似てるからじゃない。


 きっと、愛香の前で自然体にいられるのは、今までに会ってきた生徒でも先生でもいなかった。どこかほっと安心していた。それ以上は、本人の同意を得てからしっかりと対応しないとと心に決めて、寝室へ愛香を運び、ふとんかけた。

千晃先生は、ソファの上にバスタオルをかけて眠りについた。


 生徒と教師は卒業まで手を出しちゃいかんと誰かが熱心に言っていたのを思い出す。その誰かは職員室で妻とのなれそめ話を熱く語る教頭先生だ。現役時代に会った生徒に恋して、卒業するまで我慢し続けて彼女が大学生の時に交際を迫ったという。教師というものは、結婚相手探しが大変だ。当時千晃先生自身もよくもまぁ、ギャンブルみたいに振られる可能性が高い生徒と結婚したなと感心していた。実際、自分が生徒に惹かれるなんて想像もしていなかったのだ。友達の紹介や、お見合いにも挑戦するが、どれもビビッとこない。生徒たちからはモテモテと言われてもそれは教師という立場として好かれているわけであって、恋愛対象ではない。かと言って、出会い系サイトやマッチングアプリでお手軽にというわけにもいかない。教師という立場は難しいものだ。生徒や保護者の世間体というやつもある。

 夢を見たか見ないか覚えていない。熟睡はしてないぼんやりとした頭のまま、朝を迎える。

 今朝は少し冷たい風が吹いて、肌寒かった。天気予報では暑くなるという。気温差が激しいということか。千晃先生は、ベランダの外に出て、電子タバコを吸い始めた。心なしかぽっかりと空虚感が生まれる。


 午前5時、まだ愛香はソファの上で眠ったままだった。



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