「冗談じゃないわ!なんで私がこんなひげ面禿げちゃびんと結婚しなきゃなんないの?!」
パラノ皇女が叫びました。
ネクスト国の王子の見合い用の写真をこっちに放り投げたので、わたくしはそれを拾って、見てみました。・・・確かに。ひげをはやして、禿頭の青年が写っています。目鼻立ちは整っていて気品が感じられるだけに、実になんていうか、惜しい。
「パラノ皇女?お嫌でしたら断られたら?」
「キャシー!この縁談は政略結婚で、断ることはできないのよ!」
パラノ皇女はぐすんぐすん泣きながら取り乱していました。
「変だな?この人、去年はふつーだったんだが」
ケイン皇子がわたくしの背後から写真を覗き込んで言いました。
「わたくしの近くに来ないでくださいまし!」
はっはっは。
わたくしの剣幕に、ケイン皇子は笑って離れました。わざとやっているのが見え見えですわ!
猫が毛を逆立てる気持ちがよくわかります。全く!
「お義兄様は私のことどうなっても良いんでしょ!」
パラノ皇女がケイン皇子に言いました。
言い忘れてましたが、この二人は異母兄妹です。皇室の正当後継者はケイン皇子ですので、パラノ皇女は外交の関係でネクスト国に嫁がされることになりそうでした。
ですけど、あんまりですわ!わたくしも皇室のやり方には言いたいことが山積みですのよ!
「パラノ皇女。わたくしにおまかせください」
「キャシー?」
唯一、わたくしのことをキャサリン、ではなくて愛称のキャシーで呼んでくださる年下のいたいけな皇女。助けて差し上げなくては。
3日後の園遊会にネクスト国のネクスター王子がお目見えしました。
「パラノ皇女は?」
キョロキョロ見渡してネクスター王子が尋ねました。
「パラノ皇女は高熱でふせっておられます」
「貴女は?」
「キャサリンと申します。ケイン皇子のいとこに当たります」
「パラノ皇女ともいとこなんですか?」
「いいえ。ケイン皇子のお母さまがわたくしの父の妹ですの」
「えい、ややこしい」
「ややこしいついでにもっとややこしくして差し上げましょうか?」
「えっ?」
「こちらへおいでになって」
わたくしはひとけのないついたての陰にネクスター王子を誘いました。
「あんな小娘より、わたくしのほうがよくありませんこと?」
「・・・」
わたくしは暑いふりをして胸元を少しはだけました。
ごくり。
唾を飲み込む音がして、明らかにネクスター王子の視線はわたくしの胸元に注がれていました。
「それもそうですね」
ネクスター王子は鼻の下を延ばしてわたくしを見ています。
「「ちょっと待ったあああ!」」
この場に、パラノ皇女とケイン皇子が乱入してきました。
もうちょっとだったのに・・・(なにが?)
「キャサリンは、僕の婚約者だぞ!手を出すからにはそれ相当の覚悟があるんだろうな?!」
美人局つつもたせみたいなノリでケイン皇子がネクスター王子に詰め寄りました。
「パラノ皇女?具合はよろしいのか?」
ネクスター王子はパラノ皇女の方を見て言いました。
「最悪よ!私、あなたみたいな人と結婚なんてしないから!」
「だからこの人を俺にけしかけたんですか?」
ネクスター王子がわたくしを指差して聞きました。
えーと、独断でやってしまいましたから、誰も知りません。
「俺のどこがお嫌いですか?」
「ひげと禿げ!」
直球で言うパラノ皇女。
すると、ネクスター王子がふふん、と鼻で笑い、つけ髭と禿げのカツラをひっぺがしました。
「えええ?」
パラノ皇女がびっくりして叫び、まじまじとネクスター王子を見ました。
わたくしも、まじまじと彼を見ました。なんて良い男なんでしょう!
「できれば外見で選んでほしくなかったんですよ。パラノ皇女?」
「・・・はい」
「あちらで二人きりでお話しましょう」
「はい!」
あーこれは、上手くいくパターン?
苦笑しているわたくしに、ケイン皇子が言いました。
「続き、僕とやる?」
わたくしは無言でケイン皇子の股間を蹴りあげました。