「あー暇だ。なんかないか?」
わたくしは、ケイン皇子に暗闇の中にいる生き物を指差して見せました。
「なんだこれは?」
「カマドウマ、ですわ」
「虫ぢゃないか!きしょい!」
「そうですか?よく観察していますとかわいいですわよ」
牢獄で一ヶ月が過ぎようとしていた頃、ケイン皇子がわたくしと同じ場所へ放り込まれました。
罪名は「公費の使い込み」だそうです。
「あのな、なんかその・・・悪かった」
?
今なにか空耳が聞こえましてよ?
「いろんな手段使ってミルディを捜したんだが、捜しあてたら一般の男と結婚しててもう戻ってこないことがわかったんだ・・・」
誰かむせび泣いてるような気がしますけど、気のせいでしょう。
チョコレートボンボンの毒殺が成功することを願ってしまったわたくしは、もう、人として駄目なんだと思っております。例えそれが失敗で、毒入りではなくて強力下剤入りのチョコレートボンボンだったからといっても、許されるとは思っておりません。わたくしは堕落してしまいました!
「あっ、ちょうちょ」
天窓にヒラヒラと蝶が舞い降りました。
「キャサリン・・・貴女はそんなに無邪気だったのか?」
ケイン皇子がわたくしの両手を握りしめました。
「ちょうちょちょうちょ・・・」
上の空のわたくし。
「キャサリン、許されるのなら貴女と結婚したい」
「・・・?」
「ついでにここから出られる方法を考えてくれないか?」
・・・ぶちっ。
「調子こいてるんじゃありませんことよ!」
わたくしの怒りは爆発しました。
「ミルディと一度決めたのなら、ご自分が民間に下って奪い返してこられたらどうですの?そんな甲斐性もない方と誰が結婚なんてするものですかっ」
パチパチパチパチ・・・
「えっ?」
「よくぞ言った!」
ケイン皇子がわたくしに向かって真面目な顔で言いました。
「おい、侍従長!」
「はい、ケイン皇子」
なぜか控えていたものたちが姿を現しました。
「キャサリンこそがふさわしいと僕も認める」
おおー
人々が息をのみ、牢獄の扉が開かれて、ケイン皇子とわたくしの手枷、足枷がはずされました。
「お妃候補のテスト終了だ。さあ、おいで」
凛々しい笑顔でケイン皇子が手をさしのべています。
「こっのおおおお!ふざけんじゃありませんことよ!」
「うむ。じつに活きが良い」
「このぐらいしぶとくないとな」
みな口々に言いたいことを言います。
えーん。
わたくしはただ泣くしかありませんでした。