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170話:ライオン傭兵団拡張計画

 食堂に集まったライオン傭兵団の面々は、長いテーブルの上に広げられた地図を覗き込んでいた。


「アジトのあったこの場所から、この辺り一帯を買収してきました」


 地図を指し示し、フッと笑みを浮かべるカーティスに、今度は視線が集中する。


「可哀想なことに、ベルトルド卿の攻撃は、ご近所からかなりの広範囲に住む人々を、一緒に吹っ飛ばしてしまったので、空き地になっているんです」


 ちっとも可哀想に思ってない顔で、芝居ぶった仕草で肩をすくめた。


「50人くらいを収容して、更に生活スペースも広げ、もうちょっと個室も広くし、アレコレ付け足したりなんだりで…。まあ、こっからこのへんまでは、アジトに必要になるでしょう」


 地図の上で指を動かし、思惑を簡潔にあらわした。


「で、周囲には傭兵相手のアパートをいくつか建てて、安定した収入にもします」


 カーティスの説明が終わるまで、皆はとりあえず黙って聞いていた。


「ベルトルド卿から譲られた、ライオン傭兵団用の資金をありがたく使いました。まだまだ残っているので、皆さんの生活用品やら家具やらの購入にあてましょう。簡単に説明すると、こんな感じです」


 ニコッ、とカーティスは締めくくった。


「まあ…カーティスがそう言うんなら、オレたちゃ別にかまわねえがよ。なーんか前と地区の?区分けみたいなもんが変わってねえか?」

「ああ」


 ギャリーの疑問に、カーティスは苦笑する。


「エルダー街、ブローリン街、ポルヴァ街、貧民街など、だいぶ前からインフラ整備をしたくて立ち退きなどを行っていたそうです。でもなかなかうまくいかずに、長年行政を悩ませていたとか。それを力技で解決するかの如く、ベルトルド卿の攻撃はまさにインフラ整備予定の街の部分を、的確に吹っ飛ばしていったそうですよ。住人ごと…」


 ――アンタって人は…


「ベルトルド卿の過激すぎた置き土産のおかげで、行政はやっとインフラ整備が出来ると息まき、大急ぎで取り掛かっているようです」

「さっすがベルトルド様。オレたち吹っ飛ばすついでに仕事もしていくなんて、副宰相辞めても仕事人間。まあ、ホント凄い人だったよねえ~」

雷霆ケラウノスの餌食になった街の人たちは、可哀想っちゃ可哀想だけど…。相当数の死傷者出したんだろ」


 ルーファスとタルコットは、疲れた笑いを顔に浮かべ、溜息を吐きだした。


「まあ、一部の尊い犠牲を払いましたが、皇都では待望の電気エネルギーが、各ご家庭で使えるようになるそうですよ」


 オオッ!と食堂がどよめく。


「暫く使用料は高くなるそうでけどね。試験的に皇都全体から始めて、ゆくゆくは国の隅々まで電力を届けるように整備していくことになる。そうリュリュさんが言ってました」

「今んとこ、ハーメンリンナとごく一部の施設しか使えねえもんな」

「お財布と相談~ってぇ感じよねえ。電気に対応する道具類も、新たに購入しなきゃいけないだろうしぃ。そっちも含めてだいぶかかりそぉ」

「使用料諸々安くなってこねえと、使わない一般家庭は多そうだ。家計圧迫しそうだしよ」


 固形燃料は基本薪だ。石油などは一般家庭ではなかなか使わない。主に商店や工場などで使う。

 薪は無尽蔵ではないし、電気エネルギーが安定して普及すればだいぶ違うだろう。しかし高級エネルギーなのは確かで、一般家庭に浸透しだすのはまだまだかかりそうだ。


「カーティスさん、街やアジトの再建など、どのくらいかかるんですか?」


 地図を見ていたメルヴィンが顔をあげる。


「インフラ整備と更地にするまでに半年、そっから建設会社次第でドンドン建っていく予定、なんだそうです」

「じゃあ、当分仕事はここを拠点にすればいいですね」

「ええ、間借りしちゃいますが。すみませんね、メルヴィン、キューリさん」

「オレたちは構いませんよ」

「うん。お部屋いっぱいあるしね」


 頓着した様子もなく、キュッリッキは朗らかに微笑んだ。




 一ヶ月ほど前、ハワドウレ皇国元副宰相ベルトルドは、後ろ盾をしていたライオン傭兵団と決別した。そしてキュッリッキを攫い、ライオン傭兵団のアジトを中心に、エルダー街から半径5キロもの広範囲を焼け野原にしてしまったのだ。

 多くの死傷者を出しはしたが、行政側としては長年の立ち退き問題が一瞬で解決してしまって、複雑な思いで受けて止めている。

 アジトを失ったライオン傭兵団は、キュッリッキとメルヴィンのやしきに身を寄せている。

 かつてベルトルドが住んでいたやしきだが、キュッリッキとメルヴィンのためにハーメンリンナから外に出され、キティラという高級別荘地に移築されている。海の玄関街ハーツイーズに近い。

 主の名をとってベルトルド邸と呼ばれていたが、今は元の名で”ヴィーンゴールヴ邸”と呼んでいる。

 キティラの中では一番大きく敷地も広い。そして召喚士の住むやしきなので、国から警備兵が配置され、安心安全な厳重セキュリティ状態でもある。

 もっとも、現在やしきに住む主たちや居候組みは、警備兵たちよりも何倍も強かったが。

 カーティスの話しも終わり、そのまま昼食になった。


「そういや2人とも、結婚式はいつするんでぃ?」


 突然結婚の話題に触れられて、メルヴィンは上目遣いに天井を見る。


「そういえば…」


 メルヴィンはギャリーの顔を見たあと、次いでキュッリッキの顔を見る。


「まだ、決めてませんでしたね、リッキー」


 キュッリッキはナイフを動かしていた手を止めると、チラッとメルヴィンの顔を見て、難しい表情かおをして俯いた。


「リッキー?」

「…結婚式、すぐしないと、ダメ?」


 どこか不機嫌そうに、俯いたままボソリと言う。


「いえ、急いでしなくてもいいと思いますが」

「出来れば、1年くらい後の方がいいかも…」

「なんで1年後なんだよ??」


 ザカリーが首をかしげてツッコミ混ざる。


「ベルトルドさんたちの喪が明けるまで……1年くらい後の方が、いいかなって」


 沈んだような顔を上げると、キュッリッキはメルヴィンを見た。


「ダメ……かな?」


 メルヴィンはゆっくりと顔を横に振ると、優しく微笑んだ。


「オレはそれでいいですよ。リッキーが式を挙げたくなったら挙げましょう」


 その言葉に、キュッリッキはホッとしたように肩の力を抜いた。


「ありがと、メルヴィン」


 ベルトルドとアルカネットは、キュッリッキにとって大切な人達だ。

 愛を与えられ、幸せを与えられ、そしてもっとも卑怯な方法で裏切られた。しかしキュッリッキの心は傷つけられた以上に、2人への愛が大きく残っている。2人を失った悲しみから、まだ立ち直れていないのだ。

 幸せなウエディングベルを鳴らせる心境では、とてもじゃないがなかった。

 メルヴィンもそれがよく判っているので、無理強いする気はない。


「どうせウエディングベル鳴らすなら、心からの笑顔で鳴らしたいよね」


 ルーファスがにっこり言うと、キュッリッキも破顔した。


「そーそー。もう一緒に暮らしてるんだしぃ、今からじぃーっくりと、ウエディングドレス選べばいいしね~」

「ウエディングドレスかあ~」


 マリオンの指摘に、キュッリッキは真っ白なドレスを思い浮かべる。

 ドレスをまとった姿を見たベルトルドとアルカネットの表情かおが、脳裏にくっきりと浮かぶ。

 きっといつものように、親馬鹿な表情かおを満面に浮かべるのだろう。そしてべた褒めの嵐だ。


「……ベルトルドさんとアルカネットさんにも、見て欲しかった…」


 じわりと涙ぐむキュッリッキに、マリオンがあたふた慌てる。


「自分で話題ふっといてなんだが、当分この話題ハナシは避けようぜ…」


 困ったように言うギャリーに、皆無言で頷いた。



* * *



「随分と規模を広げるんですね」


 カーティスの部屋に呼ばれたメルヴィンは、改めて地図を見る。以前のアジトの敷地より、5倍くらい増えている。


「実は昨年からギルドより一層厳しく「傭兵見習いを預かれ、他にも傭兵たちを雇い入れろ」とせっつかれているんです」

「ああ…、そのことは、ノラリクラリとかわしていましたね」


 メルヴィンは肩をすくめて苦笑した。


「ライオン傭兵団を立ち上げたとき、気の置ける仲間たちと、やりたいように楽しくをモットーに稼いでいきたいと思っていました。しかしベルトルド卿たちが絡んできて、鬱陶しさこの上なかったです。仕事の面では色々と贔屓させてもらいましたけど」


 簾のような前髪を払い除け、カーティスは小さく笑む。

 仲間たちは外部から人を入れることに抵抗はないようだが、カーティスの考えを尊重して何も言わないようにしてきた。


「キューリさんと出会い、ファンタジーな体験もできて、なんかこう、今更だけどしっかり傭兵団としてやっていこう、という殊勝な気持ちになったわけです」

「宇宙へ行ったり、神様を見たり、話しかけられたり……、殆どの人間たちが経験できないことをしてしまいましたしね」


 2人は顔を見合わせると、軽く吹き出して笑ってしまった。

 暫し笑ったあと、カーティスは笑いを引っ込めて、難しい表情をした。


「リュリュさんから聞いたんですが、ベルトルド卿が副宰相を辞してから、属国やら小国から、不穏な空気がいくつも流れ始めたそうなんです」

「……ある意味、ベルトルド様が強烈な抑止力になっていましたから」

「ええ。ベルトルド卿の超能力サイのランクはOver、もう伝説級の実力でした。配下にはOverランクの魔法使いであるアルカネットさんが控えていて、セットで畏怖を世界中に撒き散らしていました」


 絶対敵に回したくない2人だったが、その2人と死闘を繰り広げたのは一ヶ月も前のことだ。

 あの死闘を思い出すと、2人のため息は自然と重くなる。ただ憎み合って敵対したわけではない。互いに譲れない大切な想いのために戦ったのだ。


「そんなわけで、傭兵の出番が増える、と言ってました。現在軍は各国の救済活動などで飛び回っているようで、国がギルド経由で傭兵を雇うことも増えるみたいですよ」

「仕事には事欠かなさそうですね」

「なので、今のうちに人を増やす準備をしないといけません。それに乗じて、今まで無視し続けてきたギルドの要請にも応えていくようにしないと」

「ウチは隊長レベルしかいませんからね。でも、育成や指導など、みんなやる気になってもらえますかね?」

「そうなんです。命令という形なら従うでしょうが。――我々も、のほほん生活を卒業しないと」

「物凄く、ブーイングが出そう」

「オトナになってもらわなくちゃですよ」




「というわけで、ギルドの要請に従い、アジトが再建出来たら団員が増えることになります」

「まあ、あの敷地の規模を見たら、そんなんじゃねーかなあ、と薄々思ってたがよ」


 ぷか~っとタバコの煙を吐き出し、ギャリーは神妙な表情かおで頷いた。


「傭兵界のトップになった以上、その程度は受け入れていかないと、蔑みの目しか向けられないよねえ~」


 ルーファスが朗らかに笑う。


「受け入れるからには、当然面接は厳しくするつもりです。採用基準のレベルを下げることはしません。ランクはAから下回ることは許さないですよ」


 マーゴットという唯一の例外を抜かせば、全員ランクA以上なのだ。


「リュリュさんがバックにつくことは決まっていますが、もうベルトルド卿の時のような無茶はしてこないし、報酬も適正価格になるでしょう。そろそろ現実的に地に足をつけて、傭兵団をやっていかないとです」


 カーティスは食堂に居並ぶメンバーをぐるっと見て、軽く顎をひく。


「反対の方はいますか?」


 手を挙げる者はいなかった。




「新しいメンバーかあ。不足してる人材って言ったら、やっぱ超能力サイや魔法の〈才能〉スキルがある傭兵だよねえ」


 ルーファスの呟きに、皆頷く。


「遠隔系も欲しいよ。今んとこザカリーしかできないし」

「でも、オレ達が隊長になると、実働部隊として全種欲しくなる」


 ハーマンの意見に頷きつつも、ザカリーが別の意見を出すと、ガヤガヤと皆自分の意見を呟き始めた。

 少人数で一個師団級の戦力を誇っていたが、これからはその形を維持しつつ、複数の隊を組んで、それぞれの仕事に向かう事になるだろう。

 今は金銭的にもじゅうぶんすぎるほどの余裕はあるが、使えば減るものだし、増やしていかないといけない。人が増えれば支出も当然増えていく。

 あらゆる仕事をこなしていくためには、少人数に耐えられる必須〈才能〉スキルを持つ者が必要となってくる。


「面接はいつからやるんでぃ?」

「エルダー街支部が再建できたら。今からやってたら、ハーツイーズ街支部に睨まれちゃいますからね。ウチはエルダー街支部登録ですから」

「そういえば人数が増えるなら、台所担当も増やさないと、キリ夫妻だけでは無理がでちゃいますよ」

「そうですね、3,4人くらいは増やさないとダメでしょうか」

「キリ夫妻は今旅行中なんだよな。帰ってきたら相談だな」

「ええ。台所担当なら、夫妻に面接をお願いしましょうか」

「畑違いだから、勝手に人材押し付けてもあれだしな」

「とりあえず、招集をかけるまでは自由に遊んでて結構です。いい人材を見つけたら、唾つけといてくださいね」

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