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第6話

 彼も買い物に寄ったのだろうかと思いよく見てみると、このコンビニの制服を着ているのだ。


「あれ? ここでバイトしてるの?」


 という私の問いには答えず、「傘ねぇの?」と、逆に質問が返ってくる。


「う、うん。止むかと思って待ってみたんだけど、止まないから買って帰ろうと……」


 私の問にも答えなさいよ、とは思ったけれどそれを口には出さず彼の質問に素直に答えると、


「ふーん。ちょっと待ってろ」

「え、ちょっと、小谷くん?」


 一人納得した彼は、待ってろという言葉を残して奥へと入って行ってしまう。


(一体……何なの?)


 取り残された私は言われた通り彼を待つと一分程で戻って来て、その手にはビニール傘が握られていた。


 そして、私の元へやって来た彼は無言で自分が持ってきた傘と私が買おうと持っていた傘を交換した。


「ドアノブに掛けといてくれればいいから」


 それだけ口にして、レジへ歩いて行ってしまう。


(……貸してくれるって事……だよね?)


 瞬時に彼の行動の意味が理解出来た私は小谷くんが立つ方のレジに行き、


「あの、ありがとう」


 お礼を口にするも、小谷くんはこちらに顔を向けずにレジ打ちをしていたので表情はよく分からなかったけど、


「……別に」


 そう呟いた声が少しだけ嬉しそうに聞こえた気がして、少しだけ、口元が緩んでしまった。



 そしてそれから数日が経ったある深夜の事。


「え? 嘘?」


 居酒屋のバイトを終えて帰宅し、玄関の鍵を開けようとバッグから鍵を探すも見当たらない。


「嘘でしょ? もしかして、失くした?」


 バイト先で落としたか、それとも別の場所で落としたか、全く記憶がない。


「どうしよう……あ! 不動産屋に電話……」


 そう口にしてハッとする。


 時刻は午前一時過ぎ。こんな時間に不動産屋がやっている訳がない。


「困ったな……どうしよう。バイト先に戻っても、そこにあるか分からないしな…… あ、そうだ。電話して更衣室に鍵が落ちてないか聞いてみよう」


 私はすぐにスマホを取り出してバイト先に電話をかけると、事情を話してスペアキーでロッカーを開けて調べてもらったけれど、鍵はなかったらしい。


「はあ……一体、どこで落としたんだろう……」


 とにかく鍵がなければ部屋に入れないし、こんな時間じゃ誰にも頼れない。


 どうしたものかと途方に暮れていると、


「あ……小谷くん」


 バイト終わりであろう小谷くんが階段を上ってきて鉢合わせた。


 目が合い、『何してんだ?』とでも言いたげに見てくる彼。


(どうしよう……話すべき? でも、小谷くんに言ったところで部屋に入れる訳じゃないもんね……)


 言おうか言うまいか悩んでいると、彼は視線を逸らし、鍵を開けて部屋へ入ってしまう。


「あ……」


 私の声が廊下に虚しく響く。


(ああ、本当にどうしよう……)


 いくら部屋に入れないからと言って、まさか廊下で過ごす訳にもいかない。


(仕方ない……漫画喫茶にでも泊まるか……)


 痛い出費だけど他に選択肢がない私は駅近くの漫画喫茶に泊まる事を決め、階段を降りようと201号室の前を通りがかると、ガチャッとドアが開いた。


「さっきから何やってんの? こんな時間に」


 そして、部屋着に着替えた小谷くんが私に声を掛けてきたのだ。


「え、あ、えっと……」

「帰ってきたのに、またどっか行く訳?」

「その……実はね――」


 聞かれて答えるか迷ったけど、せっかくわざわざ出て来てくれたのだからと経緯を話す事にした。

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