城に戻ってすぐに部屋に戻った。着替えている最中にハインツが部屋に入ってきた。
「ハインツ?!ノックしてよ!」
「す、すまない!トモルに急いで渡したいものがあって。」
いつの間にかお互いの髪色は戻っていた。やっぱりハインツは金色の髪が似合っている。着替えを終え、扉の向こうにいるハインツを呼ぶ。
「渡したいものって何?」
「本当はあの丘で渡そうと思ったんだが、トモルからの贈り物が嬉しくて忘れてしまっていたんだ。」
そう言ってハインツは、僕の首に星のネックレスを付ける。
「これって…」
「本当はトモルと同じブレスレットを渡そうと思ったのだけど、こっちの方がトモルに似合うと思ったんだ。…ブレスレットより長さがあるだけなんだけど。」
「それって…」
「うん、似合っている。」
ハインツはそう言って部屋を出て行った。僕はお礼も言えなかった。ちゃんと言わないとと思っても、足が動かない。思考が止まってしまっている。
ブレスレットと同じ、ネックレスにしただけで意味は一緒なのだろうか。でもそうなれば、ハインツも僕のことが好きということになる。
心臓の音が速くなる。どうしようもない感情が溢れだしてくる。ハインツと両想いだということが紛れもない事実になったことへの嬉しさと、自分が違う世界の人間だという事実を恨んだ。
ベッドに潜り込み、声を殺して泣いた。これがすべて夢ならいいのに。泣きながら僕はいつの間にか寝てしまっていた。
ハインツ視点
トモルにネックレスを渡し、ステファンの部屋に急いだ。トモルと街から帰り、部屋に戻るとセバスが待っていた。怒られると思ったが、セバスはステファンが部屋に来て欲しいということを伝えに来ただけだった。それに安堵したと同時に、トモルに渡そうと思っていたネックレスを渡せていないことを思い出した。
ブレスレットの本当の意味を分かっていないトモルにとっては、ただのネックレスになってしまうのは、残念だがこれで良かった気がする。
ステファンの部屋に行くと、ソファに座っていた。
「話したいこととはなんだ。」
「ハインツ殿下。街から戻られたばかりなのにすみません。」
「構わない。それより何かあったのか。」
ステファンは私をソファに座らせ、紅茶を出した。
「実は、ハオニゴへの帰路が閉ざされてしまいました。それによりコウヨウ第一王子が数日の間、こちらに滞在することになりました。」
「…どういうことだ。」
「急な嵐で船が出せないという報告です。この季節に嵐が来るとは思えないのですが、原因も分からず、王も仕方なく滞在を了承しました。」
街でトモルと一緒にいたのはあいつらだ。何かの偶然だろうか。
「トモルとヒカルを奴らに近づけるな。何を企んでいるのか調べるんだ。」
「既に監視もつけています。城の中での行動は制限する予定と聞いていますが…街でトモルさんと接触していますよね。私が不安なのはそこです。髪色を変えていたとはいえ、彼らが気づいたら…」
「分かっている。」
ステファンに言われなくとも分かっている。とりあえず、トモルとヒカルには話しておく必要がある。
「アルバにこの事は伝えているか?」
「いえ、まだ伝えていません。」
「すぐに伝えろ。ヒカルは朝から動き回るから、いつ見つかってもおかしくない。アルバに制御させるように言ってくれ。」
「分かりました。ところで、手首のブレスレットはトモル君からですか?」
ステファンは手首に付いたブレスレットを指さした。急いで着替えたので外し忘れていた。
「そうだ…ってステファン!」
「はい。」
「トモルにこのブレスレットの意味を全然違うものを教えただろ!」
「はい?」
「何が健康を祈るブレスレットだ!健康は雫の形だろ。私がどんな思いをしたと思ってるんだ!」
私が嘆いているのにステファンは訳の分からないような顔をしていた。
「何を言っているんですか?私はトモル君にちゃんと意味を教えましたよ。」
「嘘だ。だってトモルは…」
ブレスレットを貰った時のことを思い出した。確かにどこか誤魔化しているような気はしていたが、トモルから何かを貰えることが嬉しすぎて気にも留めなかった。
「私はトモル君に意中の相手に渡すブレスレットは星型だとしっかり伝えましたよ。」
「ということは…ステファン。」
「はい。」
「トモルはもしかして私のことが…好き…?!」
私は勢いよくソファから立ち上がった。嬉しさのあまり涙が出てきた。その様子を見てステファンはぎょっとしていた。
「涙を拭いてください。」
「そうと決まれば、早くトモルに気持ちを伝えなければ。」
「…本当に告白する気ですか?」
「あぁ、問題を片付けてからにはなるが。」
私の意思は決まっていた。それを動かすことが出来る者はトモル以外ありえない。しかし、トモルが私の想いに応えなかったとしても、その時はどうにかして頷かせるしかない。その方法も考えないといけない。
「本気ですか?」
「もちろん。」
ステファンは急に黙り込んでしまった。そう言えばステファンもトモルのことが好きだったことを思い出した。
「ステファン、お前もトモルが好きなんだろう?」
「…気づいていたんですね。」
「結構、分かりやすかったぞ。多分、アルバも気づいていると思うぞ。」
「本当ですか…?」
ステファンは珍しく困惑しているようだった。
「トモル君には気づかれていないと思うのですが。」
「トモルは鈍感だからな。」
「彼には気づかれたくないので好都合です。」
「伝える気はないのか。」
私の言葉にステファンは笑った。
「私は、彼の笑顔が見られるならそれだけで十分なんですよ。」
「…だからトモルが私のことが好きと知っていても、トモルの背中を押しているのか?」
「彼には秘密にしてくださいね。」
ステファンの表情は何を言いたのだろうか。私には、ステファンの行動も言葉も理解できなかった。私はトモルに自分だけを見ていて欲しいし、誰とも話してほしくない。
「分からないな。トモルに自分だけ見て欲しいと思わないのか。」
「殿下はトモル君に自分だけを見て欲しいのですか。」
「当たり前だ。」
「まだ…子どもですね。でもそれも愛の形の一つなのでしょうね。」
ステファンに子どもと言われたことが頭にきた。それでもここでステファンに反論したところで、やっぱり子どもだと思われるだけだ。私はグッと感情を抑えた。しかし、それすらもステファンにはお見通しだった。
「トモル君は物ではありませんよ。」
「分かっている。」
ステファンはため息をついた。
「私はアルバのところへ行きます。ハインツ殿下はもうお休みください。」
そう言って、私を部屋から追い出した。ステファンの意気地なし…なんて叫んでやりたかった。
部屋に戻る前にトモルの部屋をノックした。部屋から返事は聞こえなかったので、ゆっくり扉を開けた。部屋は暗く、トモルはベッドで寝ているようだった。
今日はどんな寝顔をしているのかと、覗いてみる。トモルの顔は暗くてよく見えないが、泣いたのか目が腫れている。私は、ひどく戸惑ってしまった。どうして泣いているのか。誰にも言わないで一人で泣いたのか。そこまでトモルを苦しめる者は何なのか分からなかった。もしかしたら、ネックレスが気に入らなかったのかもしれない。ネックレスを渡して、すぐに部屋を出てしまったのがダメだったのか。しかし、それだけでこんなに泣くとは思えない。
今すぐにでもトモルを起こして泣いた理由を聞きたい。しかし、頭の中にステファンの言葉が響いた。“物じゃない”ことくらい分かっている。それなのにどうしてこんなに私は苛立っているのだろうか。