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4.泥棒の企み


 「それがいい! 行ってこい、泥棒!」


 「そうだ! 泥棒なら学校に忍び込むなど容易たやすいだろう!」


 「すごいぞ、ヒカリ! おまえは頭が良い!」



 祖父と執事が目を輝かせている。我ながらナイスアイディアだ。ヒカリは、自分の閃きに満足した。



 「素晴らしいですわ、お嬢様!」


 「さすがだ!」



 他の使用人たちの声を聞きながら大きく頷く。肯定されることは、ヒカリにとって当たり前である。



 「あぁ? 勝手に決めてんじゃねーぞ」



 泥棒は耳を掘りながらそっぽを向く。ヒカリは眉を寄せた。



 「やったら見逃してあげるわ。さっきの件」


 「……」


 「この私が、あなたを使ってあげるって言ってんのよ」



 これだけ言っているのに、まるで手応えがない。泥棒は、こちらを向こうともしないのだ。



 この感じは何なのか……。自分が何かを欲すれば、祖父や使用人たちは喜んで動いてくれるのに。



 「たった今から雇ってあげる。これは命令よ。行って」



 珍しく自分がムキになっていることに、ヒカリは気づいていなかった。



 「まあ……報酬によっちゃ、やってやらないこともねえかな」



 カゲは、自分を見下ろす面々をぐるりと眺めて口の端を歪めた。



 「成功すれば考えてやる。その後はさっさと出ていくんだな、このコソドロが」



 春平と目顔でやり取りすると、橋倉が言った。



 「じゃ、よろしく」



 そう言って背を向けるヒカリは、どことなく不機嫌そうであった。メイドたちと春平が慌てて追っていく。書庫には、カゲと橋倉だけが取り残された。



 「いくら金持ちだからってよぉ。ちょっと歪んでねえか、この家の教育方針?」


 「泥棒に何が分かる! まだまだ尽くし足りんわ!」



 橋倉が激高する。



 「お嬢様は、お小さい頃にご両親を亡くされたのだ。おいたわしい! 我らがしていることなど、お嬢様にはほんの小さな慰めにもならん……」



 グスンと鼻を鳴らす橋倉を横目に、カゲは「どうでもいいけどな」と呟いて立ち上がった。



 「おい! 出口は反対だぞ」


 「うっせえ、トイレだ!」



 カゲは素早くレストルームのドアを閉める。橋倉に「さっきもトイレ行ったのに」的な目で見られたくないからだ。



 (もう一度トイレしとかないと不安……!)



 「仕事」前だ。念には念を入れた方がいい。落ち着くと、カゲは便座に腰掛けたままニヤリとした。ただでガキのワガママに付き合うつもりではない。



 (あのジジイ、見覚えがある。財界の鉄人、胡桃沢《くるみざわ》春平。唯一の弱点は孫……あのクソ生意気なガキらしいな)



 上手くすれば、大金が引き出せるか──。




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