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光の星痕(4)


 その後——



 予定どおりにエルディオンとケイオスたちを誘って城内を案内しつつ、訓練場に向かったシルヴィアは、ちょうど訓練中だったバイロン軍の司令官デニスと騎士隊長エルマーを紹介した。



「プロキリア王国第一騎士団長エルディオン殿下ならびに第一騎士団の皆様にご挨拶申し上げます。マクシム閣下が不在中、領地の防衛を預かりますデニスと申します」



「おなじく、ご挨拶申し上げます。シルヴィアお嬢様の護衛を任されております騎士隊長のエルマーにございます」



 デニスとエルマーの背後には、隊列を組んだ部隊が敬礼をしていた。



 その様子に目を見開いたエルディオンが、ジェイドとグレイブに命じる。



「対面式だ。大至急、騎士団に召集をかけろ」



 ふたりがすっ飛んでいく間に、エルディオンと副団長のケイオスが、デニスとエルマーと握手を交わしていく。



「デニス司令官、エルマー隊長、時間を取らせて申し訳ない。今、第一騎士団に召集をかけたので、いましばらく部隊を待機させていただけるとありがたい」



 想像以上に腰が低い王国第一騎士団長を前に、驚いているのはデニスとエルマーだ。



「いえいえ、殿下もケイオス卿も顔をあげてください。いや、その……そんなつもりではなく、昨日まで激戦だった騎士団の皆様はお疲れでしょうから、こちらから出向かせていただくつもりで……」



 おろおろと司令官デニスは、助けを求めるように、シルヴィアへと視線をなげてきた。



「エルディオン様、デニス司令官の云うとおりです。訓練場にご案内したのは、回復したあとはこちらを気兼ねなく利用していただければと思ったからでして……」



 しかし、ときすでに遅し、地鳴りのような足音が訓練場の脇にある廻廊に響き、ジェイドとグレイブを先頭に、ものすごい形相で一団が走ってくる。



 そこにさらに、副団長ケイオスの声が響いた。



「お前たち、全速力で走れ! お待たせするなっ!」



 嵐のようにやってきた第一騎士団は、息を切らしながらも一糸乱れぬ隊列を組んだ。



 裏目だった。



 散歩がてら城内を案内し、家令やメイドたちのほかにも、城で働く者たちと顔を合わせ、世間話でもできたら、もっと気兼ねなく城での生活を楽しんでもらえるのではないか。



 と、考えたシルヴィアだったのだが、結果として、第一騎士団を招集させることになってしまった。しかも、全速力で。



 隊列を整えたバイロン軍と王国第一騎士団が、互いの将を先頭に顔を合わせ、思いがけずにはじまった対面式。



 将同士が挨拶を交わし、堅い握手を終えたあとは、バイロン兵、騎士団の面々が入り混じって、これまでの労をねぎらい、楽しそうに言葉を交わしはじめた。



 裏目かと思ったが、これはこれで良かったのかもしれない。



 最前線で戦う第一騎士団と、辺境地で防衛戦を繰り返してきたバイロン兵たち。おなじ実戦部隊とあって、意気投合するのも早い。



 それならば、と昼食は兵舎に併設されている大食堂で共にとってはどうかと、シルヴィアが提案すると、



「ぜひ、そうさせて欲しい」



 エルディオンをはじめ、騎士団は大いに喜んだ。



 バイロン城のなかでも、兵士たちが過ごす兵舎の大食堂は、長年、軍部に身を置いていた父マクシムがとくに力をいれた場所である。



 城塞でありながら、吹き抜け構造の高い天井は開放感があり、明り取り用の窓からは太陽光が燦燦とふりそそぐ設計となっていて、食後の昼寝用にと、テラス側にはウッドデッキまで完備。



 数百人の兵士が一斉に食事をとれる広さにも関わらず、夏場でも涼しいようにと、氷雪系の魔石が空調に組み込まれているので、年中快適に過ごすことができる。



「す、すげえ……さすが、マクシム閣下!」



「軍部の食堂より数百倍いいじゃねえかっ!」



「うらやましい! バイロン兵がとにかく羨ましいっ!」



 感嘆と羨ましさを爆発させたのは、もちろん第一騎士団で、壁際にグルリと用意されたビュッフェ形式の料理にも目を輝かせる。



 和気あいあいとした雰囲気の大食堂では、バイロン兵が口々に云いはじめた。



「俺たち、久しぶりにシルヴィアお嬢様のオムレツが食べたいです」



「俺も、俺も、とろりとしたチーズと玉ねぎのフワフワしたやつ!」



「しょうがないわねえ」



 リクエストに応えるべく、給仕のメイドからエプロンを受取ったシルヴィアが、プライパンを片手にコンロの前に立ったとき。



「シ、シアが作るのか?!」



 誰よりも驚いたのは、エルディオンだった。






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