「あったりまえよ。なんで
エーリカは身体をふかふかのソファーに投げ出しながら、ブルースたちにそう言ってみせる。控えの間にいる他の傭兵団の団長とその補佐たちはニヤニヤとご機嫌な表情をその顔に浮かべる。
「いや、たいしたもんだよ、あんたたちは。おっと失礼、名乗りが遅れたな。おいらはラスティン・ガンダーダ。ガンダーダ一味と言えば、わかるだろ?」
「申し訳ないけど、わからないわ。ホバート王国の諸将たちについてはきちんと調べてあるけど、傭兵団となると50以上も数があるから」
「たはぁ……。おいらたちもまだまだ無名に近しいかぁ。よっし、
ガンダーダ一味の頭領であるラスティン・ガンダーダはニカッと黄ばんだ歯を見せつつ、
「すっごいわね。オダーニは田舎も田舎だとばかり思っていたけど、あんたのところと比べたら、まだまだマシだって思えるわ」
「深い山の中にある盆地地帯は本当に何もないぞっ! あるのはせいぜい、川くらいだ。そこで水遊びするくらいしか娯楽がねえぞっ!」
ラスティン・ガンダーダたちの出身地は、エーリカが生まれ育ったオダーニから南西100キュロミャートル先にあるナラーンをさらに山ふたつ越えた先にあるネゴロの里と呼ばれる集落であった。その地はまさに未開の地と言ってよいほどであり、よくもまあわざわざ王都:シンプまでやってきたものだと感心せざるをえないエーリカたちであった。
「あんたらとは気が合うぜ。これから配属先が決定されるんだろうが、出来れば同じ将の下で槍働きをしたいぜ」
「でも、そうなったら、あんたたちの分まであたしたちが武功をかっさらっていっちゃうわよ? それでも良いなら、そう願っておくといいかも??」
「くはっ! 良い
エーリカは気持ち良くしゃべるこのガンダーダ一味の首魁を好ましく思っていた。もし、この男が同じオダーニの村の生まれであったら、ブルースたちと同じく間違いなく悪ガキ集団の仲間になっていただろうと思ってしまうエーリカである。だが、そうはならなかったのは創造主:Y.O.N.N様の計らいなのだろうとも思ってしまう。ガンダーダ一味の首魁とその補佐たちと打ち解け合うエーリカたちであった。
控室で良い収穫を得たと感じていたエーリカであったが、そんな彼女がムスッと不機嫌な表情に変わる事件が起きる。そろそろ第1回目の会合が終わり、傭兵団の首魁を含めての諸将たちの立食会が始まろうとしていた。その時間に合わせて、セツラ・キュウジョウとカズマ・マグナがこの控えの間に現れた。
「うぉぉぉ!! おいらの名前はラスティン・ガンダーダですっ! ガンダーダ一味を取りまとめている男ですっ! どうか、おいらと結婚してくださいっ!」
ラスティンはセツラが控えの間に現れるや否や、異様な滾りを見せるのだ。ラスティンはエーリカに対しては、昔から付き合いがあるかのような仲の良い女友達としての態度であった。だが、そのラスティンがセツラをひと目見るや否や、目と心臓が飛び出してしまうほどにびっくり仰天となる。さらには跳躍からの額を床に擦り付けるジャンピング土下座をかましてみせた。
そして、彼はそのままの姿勢でセツラに対していきなり求婚し始めたのだ。事情をよく呑み込めないセツラはエーリカに助けを求めるための視線を送る。だが、エーリカは機嫌が非常に悪くなっており、あっちの方向に顔を背けていた。さらにはズンズンッ! と足音を大きく出しながら、控えの間から会場の方へとひとりで向かっていってしまう。
「アベル。拙者たちの悪い面をまざまざと見せつけられている気分でござる」
「それがしもまさにそう思った。ラスティン殿はまさにそれがしたちの反面教師だな……。セツラ殿。そいつのことは放っておいて、エーリカの後を追いましょうぞ」
「あ、は、はい!? 本当に事情がよくわかってないのですが、この方はこのまま放置しておけばよいのですね??」
戸惑い続けるセツラであったが、エーリカが癇癪を起して、諸将たちに当たり散らす危険性が高まっていることをそれとなく察するのであった。そして、控えの間で未だに額を床に擦り付けているラスティンなる男を放置して、エーリカが消えていった先に向かうのであった。
「ああ……。おいらの女神様が行ってしまっただ……。おいら、どうしたら良いんだ?」
控えの間に残されたガンダーダ一味の頭領の背中に右手を置く人物が居た。それは今や
エーリカは鼻息を荒くしながら、立食会に変わった会場へと足を踏み入れる。そして、皿を手に取り、その皿の上にテーブルに並ぶ料理を乗せていこうとする。だが、そんな彼女の手を止め、さらに彼女から皿を取り上げた人物が居た。エーリカはますます頭に血が昇りそうになった。
「落ち着いてください。先ほどまでは気荒い諸将たちだけでしたが、立食会では貴族たちも多く参加していますよ。空気がまるで変っていることに気づくべきですね」
エーリカが乱暴に料理に手をつけようとしたところを止めた紳士は、エーリカの代わりに皿へと小分けに料理を乗せていく。そして、控えめな程度に料理が盛られた皿をエーリカに返すのであった。エーリカはそんな紳士然たる紳士の姿をすぐ横で見ることで、落ち着きを段々と取り戻していく。
「貴女の好みを知らずに盛り合わせてしまいました。もし、食べれないものがありましたら、私の皿にそっと乗せ換えてください」
「あ、ありがとうございます。ちょっと面白くなさすぎることがあって……」
「おやおや。私で良ければ話を聞きましょう。ちなみに白と赤、どちらが好みですか?」
エーリカは頭の上にクエスチョンマークを浮かべつつ、首を傾げてしまう。そんな可愛らしい姿を見せつけられた紳士はクスッと軽く笑みを浮かべるのであった。そして、失敬とエーリカに断りを入れ、料理が並ぶテーブルの向こう側にいるシェフのひとりに、アルコール軽めの飲み物を頼むのであった。