――光帝リヴァイアサン歴129年 8月16日――
エーリカ率いる
眼下には蟻のように城壁へと張り付こうとしている敵兵たちが見えた。こちらはイザーク将軍率いる2千の兵にプラスで
古今東西、こういう厚い城壁で囲まれた城塞都市を落とす際には攻城兵器を用いられることが多い。だが、弟王の兵たちは一度、舟を使って海峡を渡らなければならない。兵を多く運搬することに集中していたため、攻城兵器の類はこの戦場にまだ登場していなかったのである。
旧王都:キャマクラがどれほど防衛に向いていない都市だったかがこれでわかると言えた。南を海に、他の3方を山というには丘程度の天然の防塁に頼り切っていたためだ。こういう都市は防衛がそれで成り立っていると勘違いしやすく、実際のところ、それほど防御力は持ち合わせていなかった。
海を占領されたと同時に魔物がどこからと現れて、旧都:キャマクラは混乱の境地に陥ったゆえに、陥落してしまったのだ。だが、そういう戦法はこの城塞都市:オダワラーンでは通用しにくかった。
それなら弟王の軍はどうすれば、この城塞都市をキャマクラのように攻略出来るのか? それはさらに三日が経ったのちにその手のうちが判明することになる。ついにこの日、弟王の軍は攻城兵器の組み立てを終えたのだ。
その攻城兵器の名前は【破城槌】であった。古来より伝わるイニシエの攻城兵器であるが、高い城壁の上から落とされてくる石、そして射られてくる矢の数々をその屋根で防ぎ、未だに現役バリバリのイニシエから伝わる攻城兵器であった。その破城槌10台が一斉にオダワーランの城壁へと突っ込んでくる。ここがまさにこのオダワーランの攻防戦の一大決戦の時となる。
「破城槌が潰れるまで投石と矢を放ち続けろっ! 絶対に城壁に張りつかせるでないっ!」
イザーク将軍は城壁の一角にある楼閣で城壁の上を陣取る兵士たちに号令をかけた。兵士たちは石や矢だけでは足りぬと感じ、自分の近くに置いていた槍も投げつける。だが、それでも破城槌は前へ前へとじりじりと進み続けた。そして、城壁に辿りつくや否や、ガゴーンガゴーンと大きな音を立て始める。その音が鳴るたびにオダワラーンの城壁は振動したのである。
「さてと……。先生の予想通り、ついに破城槌を持ち込んできましたね。では、兼ねてより準備していた樽爆弾で全部破壊して差し上げましょう」
その樽の中にはたっぷりと火薬と
オダワーランの城壁の前は地獄の1丁目である灼熱地獄と化したのだ。急激にあたりの酸素を吸い込み、さらに黒煙と火柱が勢いを増す。なんとかして城壁に張り付いたというのに弟王の兵たちは地獄に真っ逆さまに落とされてしまったのだ。
燃えるものが無くなっても黒煙と火柱は天を衝く勢いをやめようとはしなかった。茫然自失となっていた弟王の兵たちはこれ以上、どうやればあの堅牢なオダワラーンを落とせるのか? と涙が流れ落ちそうになってしまう。
「全軍突撃よっ! 相手は茫然自失となっているわっ! この機を逃すのは兄王様で十分だわっ!」
「うへぇ! 王都の貴族に聞かれたら縛り首ものの発言だな、おいっ! じゃあ、縛り首を撤回してもらえるような軍功をあげにいきまっしょかーーーい!」
エーリカは号令一下、オダワーランの城門を開かせる。未だに眼の前は火の海であった。かまうものかと
そんなエリーカたちの一番前に立った拳王ことキョーコ・モトカードが前方へとけたたまし雄叫びを放った。火の海はエーリカたちの勢いに押されたのか、神話で語り継がれるかのように真っ二つに割れた。その空間をエーリカたち400人が一気に進み出る。その様をまざまざと見せつけられた残り9千人の敵兵は我先へと逃げ出すのであった。
雄叫びをあげる地獄からの使者がやってきたのだとそう思わせるには十分な視覚効果と聴覚効果を与えたのだ、エーリカ率いる
我先にと逃げ出す兵が多数存在した。その敵兵の無様さを見て、高笑いせずにはいられない城壁の上にいたイザーク・デンタール将軍であった。エーリカたちの援護に回せるだけ兵を回すようにと自分の第1の副官にそう命じる。
そう命じられた彼の副官であるライラ・デンタールが矢継ぎ早にエーリカたちの後ろに
弟王派の軍はオダワラーンから離れるだけ離れていく。しかしながら逃げ遅れた敵兵を容赦なく白刃で切り倒していく
そして、その
味方によって虫の息になっていたデンデン将軍のトドメを入れたのは
宙に舞ったデンデン将軍の
「あっぱれあっぱれ! いくら大魔導師:クロウリー・ムーンライト様が描いた
イザーク将軍は兄王と弟王との戦いを通じて、もっと出世したいと思っていた。その願いを叶えるためにも1日でも長く、このオダワーランを守ってみせようと思っていた。だが、その任はじきに解かれることをエーリカたち
「さあ、いっしょにこの国で偉くなろうぞ、エーリカぁぁぁ! 兄王様と弟王との戦いはこれからも続くのだからなぁ!!」