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第5話:武術大会

「とかいって、その神聖なる闘技場に唾を吐いてるくせに。あんたなんか秒殺してあげるわ」


「田舎侍がしゃしゃり出てくる場所じゃねえんだよっ! 大人しく、うちらの傭兵団の名を売るための肥やしになれってんだっ!」


 美少女であるエーリカに対して、口汚く罵るのは傭兵団:東風のカマイタチ所属のリューショー何某という男であった。なぜ、何某かと言えば、エーリカが宣言に近しい形でリューショーなる男を1分もかけずに圧倒してしまったからだ。秒殺とまではいかなかったが、エーリカはこの結果に満足し、さらにはリューショーなる男のフルネームを記憶の彼方へと追いやってしまったからだ。


 観衆たちはいよいよもってして、エーリカを褒めたたえ、賛辞を惜しみなく与えるのであった。エーリカはこの後も順調に勝ち進む。さらにこの武術大会では賭けがおこなわれており、エーリカに賭けた観衆たちはおおいにエーリカの勝利を祝うというまさに持ちつ持たれつの関係へと発展していく。


「お疲れ様です。エーリカ殿。ここまで活躍すれば、王であるイソロク・ホバート様の耳にも、エーリカ殿の名前は届いていることでしょう。そろそろ、この辺りでおいとましますか?」


 血濡れの女王ブラッディ・エーリカの軍師であるクロウリー・ムーンライトはもちろん団の金庫に入ってる全額をエーリカそのひとに賭けていた。その甲斐もあって雪だるま式に血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団の財産が膨れ上がっていた。そして、この辺りが潮時であることを見抜いていたクロウリーである。


「いいえ。どうせなら、この武術大会でてっぺんを取ってみたくなっちゃった。クロウリーは反対?」


 エーリカの問いかけにフルフルと頭を左右に振ってみせるクロウリーであった。ここまで順調に勝ちすぎてしまっていたのだエーリカは。こうなれば止めても優勝するまで出場する気は変わらないのだろうと思ってしまうクロウリーである。その証拠にエーリカはニコッ! と気持ち良い笑顔をクロウリーに見せつけた。


 この円形闘技場コロッセウムおこなわれる武術大会は多岐に渡っていた。1vs1での純粋な戦いだけでなく、変則的な3vs3。捕縛していた魔物モンスターvs魔物狩人モンスターハンター。さらには戦車1台vs歩兵10人といった、まさにフェスティバルと呼んでも良い催しモノとなっていた。いくつかある部門の中で、エーリカは1vs1でさらには武器使用可の武術大会で勝ち進んでいた。


 武術大会の日程が進み、ついに準決勝から決勝まで一気におこなう日がやってくることになる。総当たり戦を勝ち進み、さらにはトーナメント戦も勝ち進んだエーリカの自信は否応なく高まることになる。


 若者組に配属されてからのこの4年間、いや、先代の王にお城をちょうだい! といったその日から10年間と言っても良い長い年月がエーリカの個人的武勇を高めていた。その成果が目に見える形となったことで、エーリカの鼻はどんどん伸びていくのは当たり前と言えば当たり前であった。


「ホバート王国の兄王支配下って、もしかして弱兵ばっかりだったり?」


「おいおい。痛い目を見るフラグを自ら立ててんじゃねえよ。しっかし、そうは言っても、これじゃあ、エーリカが調子こくのもうなずけるな。いくら余所の傭兵団から首魁が出張ってきてないからと言っても、兄王様の未来を憂うレベルでエーリカが快勝しすぎだわ」


 セコンド役のタケルはエーリカの身体を温めるために肩や腕を揉んだりしている真っ最中であった。総当たり戦のグループ分けで、エーリカが上手く難敵が居ないグループに入れただけだろうと、タケルは思い込んでいた。


 しかしながら、エーリカがその予選に当たる総当たり戦で無類の強さを見せた。さらには本戦のトーナメント戦に移っても、決着までの時間が多少伸びただけにすぎない。エーリカは相手から大きなダメージをほとんどもらわずに、とんとん拍子で準決勝まで駒を進めたのだ。


 エーリカの剣の腕前は彼女の剣の師匠であるアイス・キノレが太鼓判を押すレベルにまで達していた。しかしながら、アイスの見立てでは、エーリカの剣の才能は【秀才】レベルであり【達人】と呼べるレベルには決して到達することは無いだろうとのことであった。真の強者を前にした時、エーリカがどんな風に負けるのか? そして、どんな風に自分を奮い立たせるのか? という興味に移り変わる段階になっていた。


 アイスは準決勝のこの時点でわかっていた。決して、現段階のエーリカが逆立ちしても勝てない相手が決勝戦で現れることを。そして、それに気づいていたのはアイスだけではない。準々決勝を終えたところで、十分だとのたまっていたエーリカの軍師:クロウリーもエーリカの快進撃はトーナメント戦の準決勝か決勝のどちらかであろうと。


 それほどまでの強者が、この武術大会にこっそり参戦していたのである。しかもその強者は終始、左手に持つ大きな徳利から酒をあおっていたのだ。ヒック、ウィィ、ヒック! と泥酔しながらも、総当たり戦とトーナメント戦を勝ち進んでいる異様な存在が確かにそこに居たのだ。


 そんなアイスとクロウリーの思惑は一旦置いておこう。エーリカの準決勝の相手は、革製の軽装備をなよっと着こなした美少年であった。エーリカはなんでこんな青びょうたんが準決勝まで勝ち進んできたのかわからなかった。しかし、なよっとした風貌からは考えられないスピードで、直刀による突きをお見舞いされるエーリカであった。


「っつ! さすがは準決勝まで勝ちのぼってきただけはあるわっ! アイス師匠がニヤニヤしてた理由がわかった!」


「ぼくはキレイなお姉さんを痛めつける趣味は持ち合わせていません。降参してくださいますか?」


「うっざ! これだから美少年って嫌いなのよねっ! 女は顔さえ良ければコロッと転がせると思っているのがあんたの糸目の奥からありありと感じるわっ!」


 エーリカはイケメンとか美少年といった類の男が嫌いも嫌い、大嫌いであった。彼らが醸し出す雰囲気がそうさせているとしか言いようが無いのだ。ブサメンはブサメンで申し開きが出来ないほど、劣等感からの女性への侮蔑心を持っている。だが、それが可愛いらしいと思えるほどに、イケメンや美少年からは『優越感からの女性への侮蔑』を感じたのだ。


「タケルお兄ちゃんにお尻をマジマジと舐められるように見られるのが1万倍マシだと思えるくらいに、あんたからは怖気を感じるわっ!」


「おや? ぼくのこの顔よりも1万倍もキレイな顔をした男性ですか?」


「ちがうわよっ! 性格の話よっ! ああ、いらつくっ!」


 エーリカはこのなよっとした美少年に終始、翻弄されまくる。アイス師匠は剣の道には越えられぬ壁がはっきりと存在していると言われた。それがこの相手なのだろうと思い込んでいるエーリカであった。それゆえにエーリカは感情を爆発させてでも、このなよっとした美少年を叩き伏せてやろうと思うのであった。


 しかしながら、エーリカが振るう木刀は、なよっとした美少年にかすりもしなかった。さらには当てつけるようにこの美少年はエーリカが身に纏う防具に直刀の切っ先を当て続けてみせる。まるでいつでも防具の隙間から致命傷を入れれるとでも言いたげな美麗な剣術を見せつけてくる美少年であった。


「もう怒った! 手加減はここまでよっ!」


 エーリカはそう雄叫びをあげると、木刀の腹を左の腰へとあてがう。構えとしては居合斬りのそれである。エーリカはじりじりとすり足でなよっとした美少年との間合いを詰めていく。美少年はやれやれ……と頭を左右に軽く振る。その後、べろりと直刀の腹を紅い舌で舐め上げる。


(気の強いボーイッシュなお姉さんは大好物ですぅ……。是非とも、ベッドの上に押し倒してやりたいのですぅ……。お姉さんが怒り顔になればなるほど、おちんこさんがびっきっびになって困ってしまうのですぅ……。泣いて詫びても、ぼくのおちんこさんをその膣に突きこんで孕ませてやるのですぅ……)

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