――光帝リヴァイアサン歴129年 6月17日――
エーリカたちがオダーニ村から出立してからちょうど1週間が過ぎた日、
「
ホバート王国の新王都:シンプの周辺にはすでに総数3万の軍勢が勢ぞろいしていた。ホバート王国の兄王であるイソロク・ホバートが弟王であるタモン・ホバートとの決着をつけるために激を飛ばし募兵を
遅れてやってきた私兵400近くを率いる
「クロウリー様の言っていた通りね。スンプで張り切ったってのに、美味しいところ全部、ゼクロス・マークス将軍に持っていかれちゃってるなんてっ! ほんと、ここまであたしたちが無名だとは思わなかった!!」
「おいら、悔しいんだべさっ! 出稼ぎに行く場所場所でエーリカの名前を広めたつもりだったんだべさっ!」
ミンミン・ダベサはこの3年以上もの期間、港町:ツールガを拠点として、出稼ぎをし続けていた。
ミンミンの
「くっ!
「それがしも訓練の傍ら
魔の
しかしながら、いくらそのイノクチ周辺で名をあげようが、旧王都:キャマクラや新王都:シンプからは遠すぎた。物理的距離もさることながら、それ以上に、新王都:シンプで盛んになっている話題が違い過ぎたと言えよう。
王都民たちの目線は東に向いていた。だからこそ、そこから逆方向のさらには遥か西に位置するツールガの港町や、今は流行から取り残されつつあった商業都市:イノクチの周りで活躍しようが、決して、王都民たちの耳には届かなかったのだ。
注目されていない西の地方の活躍など、誰も見向きもしなかった。それが現実である。切歯扼腕とする
「タケルお兄ちゃん、ありがとう。ああいう事務処理は配下に任せなさい、そうしないとエーリカ殿やセツラ殿の格が落ちてしまいますからっていうから」
「気にすんなって。お兄ちゃんは妹のために汗水流して働くのが筋ってもんだ。あと、こいつらを受付に向かわせたら、トラブルを起こすのは必定だからなっ!」
タケルが右手の親指をクイッと曲げて、未だに憤慨している男どもを指さしてみせる。エーリカはさもありなんという表情になる。エーリカたちは王都に所属する武官から宿営用天幕をいくつかあてがわれた。その天幕のひとつに
王都に向かう際、エーリカは隊長格として、ブルース・イーリン、アベルカーナ・モッチン、ミンミン・ダベサ、さらにはコタロー・モンキーを任命していた。そして他数名を彼らの補佐として配置した。隊長格にはそれぞれに50人の兵士をあてがい、エーリカ本人は自分の直属として100人の新兵を傍らに置いた。そして、事務役を兼ねる紋章官として、自分の傍らに便利屋のタケルを置いた。そのタケルの補佐にはロビン・ウィルを配置している。
ブルースとアベルの双璧の騎士たちが率いる兵士は元々はコタロー・モンキーたちに率いられ、テクロ大陸本土からホバート王国に流れ着いたベテランの元兵士たちである。
普通はベテランと新兵をごっちゃにすべきなのでは? とコタローがこの団の軍師である大魔導士:クロウリー・ムーンライトに意見した。しかし、クロウリーはそんなことをすれば、軍全体としての威容が大きく下がると主張した。エーリカはクロウリーの言を受け入れ、新兵の半分を直接、自分の指揮下に置くのであった。もう半分はアイス・キノレが担当した。
軍師:クロウリーの言っていることが正しいことが証明されるのにはオダーニ村から出立してからそれほど時間はかからなかった。とにかく新兵は行軍スピードが遅い。これでは騎馬に跨るブルースとアベルに追いつくわけがない。コタローは自分の進言が間違っていたと否応なく思い知らされる。
コタローとしては行軍の最中にベテランと新兵が混ざれば行軍最中に訓練も同時に行なえるはずだと考えていた。だがそれは逆に効率が落ちるということを嫌でも知ることになる。指揮官だけはベテランで良いのだ。新兵は新兵、古参は古参できっちりわけたほうが訓練効率はグッと上がるのだ。
それはさておき
「ホバート王国全体の軍の士気を上げるために、武術大会を
ホバート王国の新王都では、連日のように武術大会が開催されていた。その武術大会への出場者はホバート王国の東北部に君臨する弟王と戦う気がある者であれば、誰でも参加可能であった。新王都の前に集まる傭兵団からも隊長格が続々とその武術大会に参加していたのだ。傭兵団は名が売れれば売れるほど、雇用者から高い賃金を払ってもらえるようになる。そして、
しかし、その傭兵団たちが誤算も誤算だったのが、無名に近しいとある一団が隊長格では無く、首魁を出してきたことである。しかも、花も恥じらう年頃の女侍であった。
「勝者、
審判員が今しがた執り行われた試合の勝者の名前を大声で観衆たちに告げる。
「ちっ! 女子供が神聖なる闘技場に足を踏み入れるのはいただけねえなぁ!?」