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第14話:ゴーレム小隊

「さあ乳離れしきっていない小僧ども! ぼくが用意したゴーレム軍団に跡形もなく吹き飛ばされるが良いのでッチュウ!」


 コッシローは隊将を模したゴーレムの頭の上にちょこんと乗り、そこから眼の前十数メートルを空けて展開しているエーリカたちに向かって豪語する。


 大魔導師:クロウリー・ムーンライトに呼び出されたコッシローはそのクロウリーから愛弟子たちを鍛え上げてほしいと聞かされる。コッシローはすぐに自分が呼び出された理由を察し、大量の藁と土くれを用意するように促す。


 幸い、オダーニ村は農業だけでなく土木作業もやっており、コッシローが提示する量の藁や土くれはすぐにでも手に入れることが出来た。コッシローはその藁と土くれを適度に混ぜこねるよう村人たちに指示を出す。そしてちょっとした盛り土状になっているその物体の上に呪文が書かれたお札をぺたぺたと張っていく。


 準備が出来たとなればあとはその盛り土にお札を介して魔力を流し込むだけである。盛り土がゴーレムへと変わっていくのにオダーニ村の村人たちは歓声をあげるのであった。30体ほどのゴーレムが出来上がり、その中でも1番出来の良いゴーレムを隊将として位置付けたコッシローであった。


 ゴーレム小隊とエーリカたち若者組との模擬戦が始まることになる。ゴーレム小隊はコッシローの指揮の元、まるで人間の軍隊以上に動いて見せる。動きこそはとろいものの、ゴーレム小隊が作り出す陣形にエーリカたち若者組は苦戦を強いられることになる。


「魚鱗の陣に対しては鶴翼の陣。苦しいときは方円の陣で耐える。機を見るや否や鋒矢ほうしの陣で一気に敵を打ち崩すでッチュウ。人数が多い少ないとかではなく、基本の基本を知り、その基本を守り、基本からの応用へとを素早く移行する。これこそが戦術の基本なんでッチュウ」


「ふぇぇぇ……。今までの訓練ではそこそこ出来てるものだと思ってたけど、コッシローの見事な指揮振りを見せられた今、あたしの指揮はてんでダメだって思い知らされちゃったわ」


「チュッチュッチュ。そんなに自分を卑下する必要は無いのでッチュウ。ぼくのやっていることはいわゆるチートってやつでッチュウ。ぼくの号令一下で忠実に動きすぎるゴーレムたちだからこそ、上手く行きすぎているだけなのでッチュウ。エーリカちゃんは本物の人間を指揮下に置きながらも、なかなか上手に戦運びをしているのでッチュウ」


 軍隊を指揮する難しさとはその隊に所属するひとりひとりの気持ちがそのまま隊の動きの良し悪しを繋がってしまうことだ。士気が高いとか低いという言葉をよく耳にするであろう。士気が高い時は皆の気持ちが良い方向にひとつになろうと向かっていく状態だ。逆に士気が低い状態というのは皆の気持ちがばらばらで、さらに負の感情がそれぞれに悪い方へと向かっていく状態だ。


 エーリカが率いる若者組はまだまだ若い。その若さゆえに勢いは良い。しかしながらコッシローが率いるゴーレム小隊はエーリカが率いる若者組の先手を防ぎ、くじき、停滞させる。そしてカウンターのように鋒矢ほうしの陣でエーリカ率いる若者組を破ってみせたのである。


 まるで老練な将が操る中隊かのような動きをたかだか30体のゴーレムで表現してみせるコッシローであった。しかしながら、コッシローが言う通り、これはゴーレムならではの方法だと言えた。コッシローが右を向けと命じればゴーレム全体が素早く右を向く。コッシローが後退と命じれば、ゴーレムは間違いのない動きで全員で後退してみせる。これを人間にさせるとなるととてつもない苦労と時間を要することになるのは想像に難くない。


 だが、エーリカたちはこれが出来なければ話にならないのだ。エーリカたちはコッシロー率いるゴーレム小隊にどうすれば完勝出来るのか、日夜研究を重ねた。エーリカは実兄のメジロトリーに、軍隊をきびきびと動かすにはどういった方法が古今東西で使われているのかを聞く。


「古くから使われているのは楽器だね。特に太鼓や銅鑼なんかが有名どころだろうね」


「ふむふむ、なるほどなるほど! さすがは本の虫のお兄ちゃん! わかった! セツラお姉ちゃんのところから太鼓を借りてくる!」


「あっ、エーリカ……。あのその、セツラは最近どうして……る?」


「お兄ちゃんのことは黒歴史だって言ってた! だからお兄ちゃんもきっぱりさっぱりとセツラお姉ちゃんのことを忘れて、新しい恋を見つけてねっ!」


 膝から崩れ落ちる実兄を置いて、エーリカはさっそくとばかりにセツラの家へと向かっていく。その傍ら、自分の家庭教師であるクロウリー・ムーンライトと血がつながっていないほうのお兄ちゃんであるタケル・ペルシックと出会うことになる。


「あれ? ふたりともこんなところでどうしたの?」


「いやあ、エーリカ殿のことですからそろそろ答えを見つけたんじゃなかろうかと思ってましてね」


「うん、その通り! ってことだから、今からセツラお姉ちゃんのお家で太鼓とか借りてこようと思ってたところ! クロウリー様たちもセツラお姉ちゃんのお家に行くのよね?」


「はい、その通りです。エーリカ殿に出した宿題の答え合わせと同時に、先生たちは先生たちでセツラ殿の御父上にご報告したいこともありましてね。旅は道連れ、世は情けと言います。ご一緒させてもらいましょう」


「なあ、俺もどうしても行かないとダメなのかな?」


 タケルの言いにエーリカとクロウリーは、ん? と首をかしげることになる。タケルが何故か遠慮気味になっているのだ、セツラの家に行くことを。その理由をエーリカたちはタケルに問うのであった。


「俺ってエーリカのパパに冷たくあしらわれてるじゃん」


「そうね。なんでかよくわかんないけど」


「年頃の娘にまとわりつくハエを見る目で見るのはそれはそれで良いんだけど、セツラの御父上は逆なんだよな……。蜘蛛が張った巣に獲物が飛び込んでくるのを待ち構えてるというかさ……」


「え? そうなの? あたしはそんなこと感じたことないけど??? クロウリーはタケルお兄ちゃんと一緒に村の外の様子を定期的にセツラのパパに報告してるけど、クロウリーはそういう感じを受けた?」


「はて……? 言われてみれば……、エーリカ殿の御父上はタケルくんにぬるーーーい水しか出しませんけど、セツラ殿の御父上はお茶とお茶請けを出してくれますね。でもタケルくんの言うような罠を張り巡らせてるような感じはしませんけどねぇ。タケルくんの思い過ごしじゃないんですかね」


 エーリカとクロウリ―には両者のタケルへの扱いの差はわかるが、取って食おうとしているという感じをセツラの父親から感じ取ったことは無い。なので、タケルの思い過ごしだからということで決着する。


 エーリカ、クロウリー、タケルが並んで10分ほど歩くとオダーニ村で1番見晴らしの良い立地に建てられた神社へとたどり着く。その神社の敷地内にある家屋の入り口へと向かうと、そこには掃き掃除をしているセツラが居た。そのセツラに挨拶をすると、セツラは家屋の玄関を開け、どうぞ中へと3人を促すのであった。


「そろそろ報告に来ると思っていたところぞ。さあ、タケル殿、クロウリー殿、そしてエーリカ、我が家だと思って存分にくつろいでいきたまえ。セツラにお茶とお茶請けを持ってこさせよう。おーい、セツラー」


「せっつかせないでくださいまし。用意が出来ましたらそちらに持っていくのでタケルさんたちと談笑しながら待っててください」


「だそうだ。いやあ、娘に聞こえぬ声量で言わせてもらうが……。うちの娘はここ最近、家にいるとタケル殿のことばかり話してなっ。タケル殿としてはどうかね?」


 セツラの父親であるカネサダ・キュウジョウにこう切り出され、言葉を喉に詰まらせてしまうタケルであった。そしてタケルの両脇に座っているエーリカとクロウリーは、あーーータケルが言っていた違和感の正体とはこのことかと妙に納得してしまうのであった。

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