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第7話:先祖返り

「やあやあやあ! われこそはホバート王国で1番の英雄と呼ばれる(予定)のエーリカ・スミスよっ! われを恐れぬというなら、大将同士での一騎打ちで決めましょう!」


「う、ウキィ……。これを受けなければ、あっしは二度とお天道様の下で歩けなく……なる?」


「おかしら……。乳臭い小娘からの一騎打ちをどう受け止めるんですかい……?」


「こんな小娘に勝ち誇っても恥。負けたら大恥。こんな大損、なかなかにありませんぜ……」


 コタロー・モンキー率いる80人の賊徒たちは猛り狂う心のままに野営地を拡充し続けた。その最中、白昼堂々と10数名のガキ共が威厳溢れる半狼半人ハーフ・ダ・ウルフの大女と共に、野営地の出入り口に現れたのである。


 しかもだ。その女子供の中でも、3段飛びくらいで美少女が堂々と名乗りをあげ、さらには大将同士の一騎打ちを提案してきたのである。コタロー・モンキーと彼の補佐であるオニタ・モンド、ジゴロー・パーセンは鳩が豆鉄砲を喰らったという表情になって、固まってしまったのである。


「え、えっと……」


「しゃんとせんかいっ! エーリカはうちの総大将じゃぞ。もっと相手を挑発せいっ! 一騎打ちに持ち込むには挑発しまくることが肝要じゃぞっ!」


「あ、はい。ごほん……。そこの見るからに女にモテそうな顔をした猿顔! あんたが総大将だってことはひと目でわかるわっ! 女相手には剣は剣でも、粗末な下の剣しか使えないんでしょっ!!」


 エーリカが賢いところは半猿半人ハーフ・ダ・ウキーが3人並ぶ中、明らかに総大将面していないジゴロー・パーセンを指差して、そう言ってみせたことだ。ジゴロー・パーセンとしては、一団の総大将として見られることと、女にモテそうと言われて、気分を害するはずが無い。


 それと同時に、賊徒の本当の総大将であるコタロー・モンキーにとって、これ以上の侮辱は無いと言っても過言ではなかった。


「ウキィィィ! あっしの前では開かぬ宝箱と股を開かぬ女は居ないと言われている半猿半人ハーフ・ダ・ウキーの中で1番の色男と呼ばれているんだウキィィィ!」


「あら、そうなの? でも、あたしの眼から見れば、あんたの左隣に立つ男の方がよっぽど男前の半猿半人ハーフ・ダ・ウキーよ??」


「えへへ……。乳臭そうだが美少女にそう言われると気分が良いなぁ!?」


「てめぇ! 何、鼻の下を伸ばしてるんだウキィィィ! いつもあっしのおさがりを当ててがってやってる恩を忘れやがったのか!?」


 正直なところ、エーリカの眼からしても、3人並ぶ半猿半人ハーフ・ダ・ウキーの中で、真ん中に立つ男が1番マシといえる顔である。だが、あえて3枚目と言えるかどうか微妙な左隣の男を男前だと言うことで、賊徒の総大将を挑発してみせた。そして、フンスフンスと鼻息を荒くしている賊徒の総大将は、うっかりとアイスの策に嵌ってしまうのであった。


「嬢ちゃんを裸にひん剥いて、尻を嫌と言うほど引っぱたいて、世の中の厳しさを教えてやるんだウキィィィ!」


「ふんっ! お尻好きはタケルお兄ちゃんだけで間に合ってるわっ!」


「おいっ! 俺に飛び火してきたぞ!? ブルースやアベルも隙あれば、エーリカの尻ばっかり追っかけてるじゃねえかよ!?」」


「尻を追っかけているのはまあ語弊も含めれば間違ってないでござるが……」


「実際にエーリカの尻を触っているのはタケルさんだけですな」


「おーーーい!? 俺の味方は誰もいねえのかよぉぉぉ」


「外野がうるさいんだウキィィィ! 一騎打ちを受けてやるから、外野は黙っていろ!」


 乳臭さが取れてない美少女だけでなく、その彼女の周りが騒ぎ出したことで、賊徒の総大将であるコタローはますますアイスの術中に嵌っていくことになる。受けたところで恥。勝っても恥。負ければ切腹モノの恥。だが、この一騎打ちを受ける以外の選択肢を消されてしまったコタローであった。


 コタローは腰の左側に佩いていた三日月刀シミターを鞘から抜き出す。それは刀よりも反りが強かった。刀も三日月刀シミターも湾刀の一種である。だが、コタロー・モンキーが手に持つその三日月刀シミターは明らかに相手の身体を傷ものにすることに特化しているように見えた。


「悪趣味ねっ! それで夜な夜な女性の衣服を切り刻んでいるんでしょ!?」


「ふんっ! くだらぬ挑発だウキィ! 確かに夜のベッドの上で、無理やり女の下着を切り裂く時はあるが、そん時は短剣ダガーだウキィ!」


短剣ダガーって、おちんこさんのサイズのことを言ってるのかしら!?」


「減らず口もここまでいくと立派に聞こえるんだウキィ! 裸にひん剥いた後、あっしのおちんこさんをまざまざと見せつけて、二度と短小とは呼べないようにしてやるんだウキィ!」


 真剣を用いるコタローに対して、エーリカはなんと木刀であった。固い樫木かしのき製の木刀であったが、コタローが振るう三日月刀シミターによって、表面をどんどん削られていく。エーリカとコタローの一騎打ちはコタローが押しに押しまくる状況へとなっていく。


 エーリカの額に溢れる汗は珠のようであった。そして、エーリカが動けば動くほどにその美しい珠は周囲へと飛び散って行く。若さ溢れるとは14歳のエーリカのためにあるような言葉であった。身体からにじみ出る汗を珠として弾く肌。妙齢の女性が求めるのはいつの時代も変わらない。少女の頃に持っていた宝石を産み出す肌であった。


 大空から降り注ぐ雨。川や池、海での水遊び。そんな水に関わる全てをこの年頃の女性の肌は全て【宝珠】にしてしまう。エーリカはコタローとの一騎打ちを通じて、全身から熱が浮かびあがっていた。その熱がエーリカの身体中から珠を創造させていた。防具や防具の下に着こんだ服に覆われてない肌の露出した部分のそこかしこに宝石のように輝く珠が飛び散っていた。


 しかし、どの宝珠も紅い色をしていなかった。エーリカは防戦一方となっていても、決して直接的に身体のどこかを三日月刀シミターで傷つけられてはいなかった。コタローはしぶといと思わざるをえなくなる。少々痛めつければ、向こうも折れると思っていた。だが、相対する少女の眼は燦々と輝いており、もっと攻撃してこいと挑発しているかのように見えて仕方なかった。


 宝珠を身体中から産み出す少女を深く傷つけたくないと思う一方、傷を知らない乙女に最初に傷をつけてやりたい衝動にかられたコタローは三日月刀シミターの柄を両手で思いっ切り握りしめ、それを上段構えにする。そこから下側へと一気に振り下ろす。


 しかしながら、エーリカはその上段斬りを樫木かしのき製の木刀を真一文字に構えることで、受ける構えを取ったのだ。コタローは彼女の行為に驚いてしまう。そんなことをすれば、木刀ごと、彼女を頭から真っ二つにしてしまいかねない。だが、コタローは彼女がそうされることを望んでいるかのように感じてしまい、勢いそのままに三日月刀シミターを上から下へと振り切った……。

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