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第八十二話 『神様からの三行半』その4

「ない!」

 叫んだわたしの声を聞きつけたのか、襖がカンッと開いて美紅さんが入ってくる。

「魔女さん、どうしたの?」

「それが……」

 わたしは、突然眠くなってしまったところから目が覚めて離縁状入りの木箱がないところまでを、謎の身振り手振りを無駄に交えつつ説明する。

 美紅さんは静かにそれを聞いて、全部聞き終わってから、落ち着いて言う。

「大丈夫よ。気にすることないわ」

「でも……」

 夢の中とはいえ、本人(?)にめっちゃ釘刺されたし。

 食い下がるわたしの肩に、美紅さんはそっと両手を置いた。

「……わかった。だったら、一緒に探しましょうか」

「うん」



 わたしは美紅さんと一緒に神社の敷地内を歩いて、木箱を探し回る。

「外に行っちゃったとかは……」

「ないと思うわよ。大丈夫」

 届け物を失くすという行為によって自分で思うよりずっと動揺しているわたしに、美紅さんは優しい。

 それどころか、わたしが変な緊張感に溺れないようになのか、依頼元の神様についてのどうでもいい話まで聞かせてくれている。

「ああ、そういえばね、この木の大きな傷、兄さんがつけたのよ」

 わたしは美紅さんが指した、御神木とはまた別の年季が入った大きな木についた手のひら大かつ指三本分くらいの深さの傷をしげしげ眺める。人間だったら機械や乗り物がないとつけられそうにない傷だった。木の成長で埋もれていることも考えると、ついたときはもっと深かったんじゃないかと思うし。

「あの頃、兄さんったらまだたまに荒れてて、物に当たるからみんな兄さんが当たってもいいものをお供えしないとーって議論になって、お仕えする人も嫁入りする娘も一応頑丈な人の中から選ぼうなんて話が出ていたのよ」

「へぇ」

 無難に相槌を打ちながら、思う。

 荒れてて、なんて言葉で表現していいんだ、木が抉れるレベルの破壊活動。流石神様……って思っていいのか?

 そんなドン引きエピソードも交えつつ、わたしは美紅さんに着いて回りながら、依頼元の神様について聞かされる。大半は、美紅さんと仲良くすごしているエピソードだ。

「この上の棚には、私が羊羹を隠してたことがあったんだけど……気づいたら、兄さんがほとんど食べちゃってたのよねぇ」

「へぇ、意外とお茶目なんだな、神様」

 わたしは聞かされ、歩き回りながら、段々違和感を覚える。

 こんなに色々話してくれるのに、敷地から外に行ってないとわかる理由は、一切説明してもらってない。探し場所だってあまりにスムーズに次から次へ見せられるし、歩き回る行為も完全に神社内思い出話ツアーと化していて……なんというか、急なトラブルの割には美紅さんの対応がスムーズすぎる。

 あと、

「ところで、お兄さんの奥さんってどういう人なの? 頑丈なんだっけ?」

 わたしはあまりにも奥さんの話を聞かされていなかった。

 そんな疑問に、美紅さんは一瞬虚をつかれたような顔をする。それから、ああとまた目を細めた。 

「そうねぇ……頑丈ではあるけれど、ぼんやりしてるっていつもみんなに言われていて……ああ、でも、兄さんとの夫婦喧嘩では無敗を誇っていたわよ」

「荒れてて木抉るような神相手に?」

 わたしがツッコミを入れる要領で言うと、美紅さんは頬に軽く指を当てて言う。

「荒れてた時期はあっても直接女に手を上げるような人ではなかったし……それに、口喧嘩は信じられないほど弱かったのよねぇ。勿論神様だし、力も威厳もあったから、普通の人はちゃんと従ったわ。でも対等に言い合うとなると……雑魚」

「雑魚」

 突然の強い言葉を思わず復唱したわたしに、美紅さんは何故か誇らしげだ。美紅さんも口喧嘩ではずっと勝っていたのかもしれない。

「あ、そういえば台所を探していなかったわね」

「うん」

 美紅さんに言われるまま建物の中に入り直しながら、わたしは先ほど気づき始めた違和感を頭の中だけで整理する。

 ……やっぱり、変だよな。なんか。だからどうしたって言われたら、そうなんだけど。

「……ごめんなさいね、付き合わせて」

 薄暗い廊下を歩いている途中、ぼんやりついて行くだけだったわたしに向けて、美紅さんがぽつりと言った。

「……いや、」

 わたしは否定しかけて、でも『言うなら今かも』と思い直す。

 疑惑とか疑問とかって、内容や言い方もだけど、ぶつけるタイミングが肝要なのだ。それを失敗するだけで、色々なものが破綻する。

「あの、さ……違ったらごめんなんだけど、美紅さん、木箱がどこにあるのか知ってたり、する?」

「あら……」

 美紅さんは立ち止まって、わたしの顔をしげしげと眺める。そして試すように言う。

「どうして知ってると思ったの?」

「……最初は、木箱が敷地の外に出てないってわかってるのはどうしてだろうって」

 わたしはそこまで言って唇を舐める。一度疑ってしまった以上、下手に取り繕っても仕方がない。素直にすべて話す。

「理由があるならそう教えてくれそうなのにそういう話もないし。それに美紅さん物が急になくなったのに疑問も持ってなさそうだし。……だから、木箱の場所を知ってる可能性が高い気がした」

 すると、美紅さんは気分を害した風でもなく、口元に手を添える。

「もう一声」

 軽っ。

 想定外の反応だけど、言っていけないということではなかったみたいだ。拍子抜けしてしまった。

 わたしは聞かれるままに、関係ないかもしれないなと思っていた部分についても話す。

「あと、奥さんの話全然しないから……その辺で何か、理由があるのかなって」

「つまり?」

 好奇心全開です、みたいな顔で覗き込まれて、わたしは観念して皆まで言う。

「つまり、手紙入り木箱紛失の犯人は……美紅さん?」

 言いながら、探偵モノのなんかみたいだ、と連想する。

 指さし、ズバン、犯人はあなたです! みたいな。流石に探偵役の人みたいに指さすことはしなかったけど。

 美紅さんも探偵モノの犯人とは違って、軽快だ。

「ピンポン! 正解。私がやりました」

 あっさり爽やかな宣言に、わたしは『ずっこける』とかの大きなリアクションをした方がいいんだろうか、とすら思った。

「動機は当てる? それとも私が語ろうか?」

 謎に選択肢を寄越す美紅さんに、わたしは素直に両手を上げる。

「降参。全然わかんないから教えて」

 すると美紅さんは、わたしに向けて銃をつきつける真似をした。

「人質……物質ものじちは預かっているから、届け先になっている住所に行ってきて。その方がわかりやすいはずだから」

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