いかがだったでしょうか。
人々を癒す力を。安らぎをもたらす才を持って、この世に生まれた者が一人。
幼き時にて、親愛なる姉と大いなる約束をしたのちに。
叶えるため、果たすためと。その身と心を粉骨させ。
生まれ故郷を離れ、環境を変えてまでも。苦しい日々を耐え忍び、ただひたすらに前だけを向き、懸命に苦難を乗り越え精進を重ねてきた。
にも、拘わらずして。
夢叶うその目前にして。
あぁ。最愛なるかの姉、かの人を病で亡くして道半ばとなってしまい――。
交わした約束を果たせぬまま、絶望の沼底へと沈んだ、其の者が。
長い長い年月を経た先に。
異世界という見知らぬ場所にて、なんたる奇跡か。
奏でられた美しき音色、その響きに導かれた愛捧げる者の存在により、想像を絶する怪異なる存在を前にしても、再び手を取り困難へと立ち向かい。
そうして輝きを取り戻す、歓喜に満ちた博愛たる物語を――――。
いかがだったでしょうか。
肉親の顔も、想い出の記憶も持たずして。
赤子の身であれ異場所へと預けられた者が一人。
すくすくと。健やかに育っては、皆々の頼りとなる存在へとまで成っていき。
困った者、弱き立場の者へと手を差し伸べて――。
心から。そう、心から。
他者へと寄り添う逞しき其の者が。
恐ろしき悪魔の所業により、突然にして。
安寧を、友を、居場所を全て奪われてしまい、覚えなき罪をその身に着させられたらば。
多くの批難と理不尽を浴び続け、孤独にたった一人で苦しんでは。
誰よりも優しく、誰よりも他者へと手を差し伸べていたというのに。
いつの日か、他を信じる心を失ってしまわれて。
それでも、なお。
亡き友による懸命な願いによって、大いなる奇跡によって再会し、そして。
かつての悪魔、その強敵を討ち倒し、友を想う真心に触れ、再び他者へと手を差し伸べるようになる、信頼を以って憤怒を乗り越えし、友愛たる物語を――――。
いかが、だったでしょうか。
生きる世界、住む世界の違う者同士。
人を恋することへの価値観と、決して理解し合えぬ想いはぶつかり合い。
一人は、いつ死ぬか分からないこそ“今”、想いを伝えることを大事にするのだと言い。
もう片や、いつ死ぬか分からないこそ、“未来”を拓くために“今”を精一杯生き延びてほしいと告げて。
どちらも引かない想いを抱え込んでいた最中。
今生の別れは突然として訪れて――。
相反する二者は、人智を超えた怪物へと立ち向かい。
片や生き延び、片や最期を迎えてしまわれては。
託された者は、その生き様を胸へと刻み。
託した者は、未来への安寧を願いて眠りへと就く。
そんな、滾り恋が描かれ映された、享楽の物語を――――。
様々。
そう、様々に。
生けし生きとし全てのモノが抱いた、様々な情が織りなす物語は。
どれもこれも興深く、不思議な意図の絡み合い、紡ぎ合いが垣間見え。
やがて、それは一本の大きな筋へと成り得て参りました。
そんな、素敵で面白い様相をいつまでも。
あぁ、いつまでも。
眺め、語らいでいきたいものですが。
悲しきや、哀しきか。
そんなお戯れも、少しずつ。
少しずつ、少しずつ。
名残惜しき、終幕へと近づこうとしております。
しかし、嘆いていても仕方がありません。
これが、私の仕事でございますから。
ここまで。
ここまで、三つの物語を語らいで参りましたが。
お次はいよいよ四つ目の番。
謳いましょう、騙りましょう。
この身滅びても最後まで。
お役目果たして去りましょう。
どうか、どうか本公演をご覧のお客様方。
その物語の最後まで。
引き続き、お席を離れずにお楽しみくださいませ。
それでは――。
叶えし者と、叶えられなかった者。
その、悲哀に満ちた、家族愛の物語を。
どうぞ。