「おとーちゃーんっ! きょーもケンドーおしえてーっ!」
「――っ! おい烈志っ! 前にも言っただろっ! 弟子らが道場に来ているときは中へ入ってきたらダメだと」
「いーやーだーっ! それよりおとーちゃんーっ! はやくオレもあの長いほうの剣使いたいよーっ!」
「剣じゃないっ! 竹刀だっ!! いやそんなことよりも、ほらっ! 早くここから出てった出てった!」
「ぐぇー……、お願いだからオレも入れてくれよー」
エレマ部隊本部基地配属。
エレマ部隊員五将が一人。
天下烈志。
「はっはっ! いやはや、ご子息様もまた、見ないうちに大きくなられて」
「はぁ……。日に日に生意気加減だけが大きくなっていくものだから…………」
道場を実家とし、その師範が父である家庭のもとに生まれた彼は。
「あんなに小さいうちから竹刀を持ちたいと……さぞ、将来が楽しみなことで」
「どうなのだろうか……。あの年頃は、どんなモノにも手を出してみては、すぐに違うモノへと興味が湧くと、飽きてそっちへといくからなぁ」
幼き頃からとてもワンパクな性格で。
よく周りの手を焼かせるような子であったが。
「こらー、つよしー」
「あっ! かあちゃんっ!」
皆に愛され、大事にされ。
「お父さんの邪魔しちゃダメでしょ? ほら、こっちにおいで。一緒にいただいた大福でも食べましょう」
「えっ!? だいふくっ!!」
とても環境に恵まれ、幸せに暮らしていた。
天下、烈志。
「おい、つよし」
「ん? どしたー? おとーちゃん」
普段の素行は悪くなく。
病気もケガも滅多にしない、健康優良児。
「実は今日、新しい門下生がうちに来ることになってな」
勉学も、特段苦労することはなく、そつなくこなし。
運動神経は、同年の子らと比べれば、平均よりは上と、そこそこなもので。
「ふーん、それでー?」
「この後少し、用事で父さん外出しないといけないから、もしその間に道場へと来られたら、その時は烈志、代わりに中へと案内してくれないか?」
顔立ちもハッキリと、綺麗な整いの見た目をして。
「えーっ、オレがー?」
「父さんが帰ってくるまでは、道場の中で練習していてもいいから」
「やるーっ!!」
「ただしっ! 防具だったり大人用の竹刀には絶対に触れないことっ!」
天下烈志--。
「イチッ! ニッ!」
幼きながら、才貌両全の言葉を似合わせた。
「サンッ! シッ!」
――――トン、トンッ
「…………ん?」
その男。
「だれ…………あっ、おとーちゃんが言ってた新しい人かな?」
父の話す小言の内容とは事違い、他のモノへと興味や目移りなどといったことはせず。
子ども用の竹刀とはいえ、父の背の、見よう見まねであっても直向きに、鍛錬を好む、辛抱強さと胆力を。年相応にしては珍しく、きちんと持ち合わせ。
――――トン、トトンッ
「はぁーいっ、いま行きまーす」
非常に、好感の持てる少年だったのだが。
いかんせん――。
「はぁーい、どちら様ですかー?」
その男は。
「………………アラッ」
幼き頃から。
「ふふっ、こんな可愛い男の子が出迎えてくださるなんてっ」
物心ついた、小さき頃から。
「……………………」
大の。
「…………顏のイイ女だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」
女好きだったのだ。
「………………はぁ。しまった、そうだった……」
「ねぇねぇっ! お姉さん、何歳っ?」
「紹介の者から、女性の方が来ると事前に聞いていたのに…………」
「お姉さん好きな人とかいるー?」
「いったい何を見知ったからこんな風になって……」
「ねぇお姉さんっ! このあとお茶でも」
「静かにせんかぁっ!! つよしぃっ!!!!!!」
畳間の応接室にて。
項垂れ、頭を抱える父親を前に、小学児童が大人の女性を一丁前に口説こうとして。
「ふふっ、可愛い子どもの戯れじゃないの」
叱責する父親に対し、訪れた新弟子の膝元で燥ぐ息子を見る母親は、揃って怒るどころか、その様子を面白可笑しく思い、静かに微笑んでいて。
「あら? そういえば、つよし。この前は学校の……たしか、リリコちゃん? だっけ? その女の子ともデートしたとか……言ってなかった?」
「うんっ! リリコちゃん可愛いけど、オレお姉さんともデートしたいっ!!」
誰の、なんの影響でこうなってしまったか。
はたまた、彼の元々の潜在的な内面が、羞恥や理性といった抑制もなく。ただ全面に人前へ露わとなってしまっているのか。
「あらあらっ。とても、おませさんな息子さんですね、天下先生」
「このような…………しかも初日という大事な日に、なんたるご無礼を……」
学校であっても、家であっても、どこであっても。
教室前の廊下を歩いている時でも。
近くのスーパーに買い物へと行っている時でも。
下校中、たまたま友達と公園で遊んでいる最中であっても。
己の好みに合った女性を見かけたらば。
すべてを放り投げ、辺り構わず片っ端から声をかける。
「でも、つよしー? あまりひと様にはご迷惑をお掛けしてはいけないのよー?」
普段は優しく温厚な母親でさえも、流石にこれ以上はよくないとして、父親に続いて息子を躾けようとするも。
「うーん……でも、みんな嫌がらないよー?」
そんな母親からの言葉を、真摯に受け止めようとはせず。
「えっと……なんだっけ?」
天下烈志。
「うーんと…………あっ!」
彼は、幼き頃からの。
「オレ…………イケメンだからっ!」
とんだ戯れ男だったのである。