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32.相まみえ、事態は急転す



 ”活動の間”にて、共にいた護とルーナ。






「獣人族の生き残りに、地球からきた衛兵さん」




 瀧がツァーカムと激闘を繰り広げていた中。




「いまは一体、何を思うのかしら」




 両者もまた、敵側と遭遇していたのだが。






 まさかのその相手は、此度、エルフ国フィヨーツへと軍を差し向けた女魔族、オーキュノス。




 変化した”活動の間”の環境に対応する間もなく、オーキュノスと接敵してしまった二人は、一瞬の隙を突かれ、その強大な力を前に為す術なくやられては、オーキュノスの術により捕縛されてしまっていた。




「はじめ見た時は驚いたわ。まさかこんな所に……獣人族の娘がいただなんて」




 手も足も出せない二人の姿を前にして。


 オーキュノスが向ける眼差しは、まさに弱者を蔑むそれ。




 そして、離れた位置から眺めていたオーキュノスが、ほんの少し。二人の下へと近づこうとすれば。




「お前……は。絶対に、ゆる、さ……ない」




 息も絶え絶えの中、憎悪に満ちた表情で。


 ルーナが、迫るオーキュノスのことを睨みつける。




「お前が……お前がアタシの故郷をっ!!」




「黙りなさい」




「ガハッ!?」




 叫び、喚くルーナ。




 だが、そんなルーナにオーキュノスは、鳩尾目掛けて深く重たいケリを入れ、彼女を大人しくさせる。




 その隣では。




「(なんだよこいつ……マジでどういうことだよっ!?)」




 痛めつけられては吐血し、項垂れるルーナの様子を見ていた護。


 彼もまた、オーキュノスの術により縛られた両手足を必死にばたつかせ、抗い、解こうとするも、その捕える紫の錠はびくともせず。何も出来ることはなく、焦燥が、ただただ彼の思考と精神を蝕んでいた。




「ギャンギャンギャンギャンと。騒ぐことしか出来ない劣等な生き物。こんなザマなら別に、ヘイブも獣人族なんて滅ぼそうと考えなくてもよかったと思うのに」




 力無く、下を向くルーナの両頬を片手で鷲掴み、無理矢理に持ち上げるオーキュノス。




「まぁでも、あの時にかけた呪いはちゃんと、効いているようだし。そう、あの時……あの忌々しい魔法士の邪魔が入ったことは想定外だったけど、やれるだけの保険はかけていて正解だったわ」




 耳を劈くようなルーナの叫び声に嫌々とした表情を浮かべていたものの、籠手を着ける彼女の右腕を一瞥すれば、僅かに口角を上げ、不敵な笑みを浮かべる。




「こんな……呪いがなかったら……今頃、お前なん、て……!」




「まあいいわ。あなたがここにいるということは……きっとあの時の魔法士もこの生命の樹のどこかにいるのでしょう? そいつと”白金の英雄”だけは、なるべく直接手を下したいところだけど……ツァーカムがやられた以上、彼らだけにマナの実の回収を任せるわけにはいかなくなったわけで……」




 顔を乱暴に掴まれ、思うように言葉が出せないルーナ。先ほどの蹴りで腹部に焼けるような痛みが走り続けるも、それでも我慢し、なんとか声を絞り出そうとするが。




 そんなか細い声などオーキュノスの耳には入らず。目の前にいる魔族はルーナに目を向けず、反対に、どこまでも広がりゆく空間を眺め、ブツブツと。誰に話し掛けるわけでもなく、独り言をつぶやいていた。




「それよりも……あのおバカさんはいつになったら自分の持ち場につくというのかしら。いくらとはいえ、こうも命令に従わないというのなら、いっそ……」




 そして、ようやくルーナの頬から手を離したかと思えば。




「……いいえ。一時の感情で自ら手駒を減らしてしまうのは悪手。気配は近いことだし、そろそろ姿も見える頃でしょう」




 どこか呆れた様子を見せると、一つため息を吐き、淡々と。謎めいた発言を続けていくのだった。




 そんな中。




「(くそっ……! こいつ、さっきからずっと何言ってっ!)」




 この状況から脱しようと、オーキュノスの様子をじっと見つめ、隙を窺っていた護。




「(そもそも、あのチビと争ってたらいきなり地面が揺れ出して……収まったと思ったら、周りが全然違う景色に変わっちまって……。真下の針山に落ちないようにしがみ付いてたら、急にあの女がっ……!)」




 オーキュノスが話す言葉に耳を澄ませながら、ここまでの出来事を振り返れば。




「(一瞬だった……あの女と目があった瞬間、オレも含めてその場にいた連中、全員が吹っ飛ばされて……気付いた時には倒されて、こんな磔にされてっ!)」




「あの時幼かったアタシでもちゃんと覚えてる……! てめぇの姿と顔だけはっ……!! てめぇが……アタシの家族も家も、故郷もみんな全て奪っていきやがったっ!!」




「(チビの野郎もさっきから……あの女のこと知ってるみたいだが……いや、今はそんなことよりっ!)」




 オーキュノスの目を盗んではこっそりと、辛うじて動く指先だけを使い、基地へ連絡を取ろうと目の前に浮かび上がる青パネルを操作していたわけだが。




「(なんでさっきから連絡がつかないっ!? なんでおっさんから返事が返ってこないんだよっ!)」




 瀧の時と同様に、護も本部基地との連絡がつかず。




 更には。




「(このままじゃ……このままじゃっ! 帰れなくなっちまうだろうがっ!!)」




 次に浮かび上がってきたのは、警告を表示する赤色のパネル。出会い頭、オーキュノスから受けた一撃により、未だに修復中だった護のエレマ体は大きく損傷を起こしては、その外部を守る電子の残量数と、その耐久値は、あっという間に危険水域にまで到達していたのだった。




「お前だけは……! 絶対にアタシがっ!」




「(急げっ……急げってっ!!)」




 焦る護に、憤るルーナ。




 そんな二人に対してもう、オーキュノスの中での興味はなく。


 浮遊したまま、ゆったりと。二人が磔にされている壁際から離れていく。




「待てよっ! くそっ……! 剥がれろってば……!」




 そして、オーキュノスが空間の中央付近へと差し掛かった。






 その時だった。






「ヒャッハァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!」






「「――っ!?」」




 突然、大きな爆発音が鳴ると同時。




「ぃ~やっと着いたぜぇ……!」




 フードを被った、一人の人物が。


 壁を破壊し、空間内へと侵入する。




「……遅いわよ」




 フードを被った人物に対し、オーキュノスが苦言を呈すれば。




「あぁっ!? っせーよ、どこも似たようなもんだから分かるわけねぇだろぉ?」




 フードを被った人物は、オーキュノスに向かって口悪く言い返す。




「(なんだこいつ……いま、どこからっ)」




 突然現れた謎の侵入者に、驚く護。


 咄嗟に侵入者の顔を見ようと目を凝らすも、覆い被さるフードによって、その正体を知るまでには至らず。




「聞きなさい。ツァーカムがやられたわ」




「ツァーカムだぁ?」




 護とルーナを他所に。




「命令よ。あなたは今からここでマナの実を探し、回収しなさい」




「ぁあっ!? 来て早々なんでそんなめんどくせぇこと、俺様がやらなきゃいけねぇんだよぉっ!?」




 オーキュノスと侵入者が、話を続けていく。




 さらに。




「見なさい」




 オーキュノスが自身の真下に目を向ければ。




「ここにいる者たちは皆、あなたの好きに殺して良い」




「…………へぇ、いいなぁ。それ」




 横たわるエルフ国兵達を指差し、目の前の侵入者に彼らの抹殺命令を下す。




 そして、言葉は短くして。




「話はそれだけ」




 オーキュノスは軽く指を鳴らした途端。




「じゃあ、あとは任せたわ」




「「ーーっ!」」




 忽然と、その場から姿を消すのだった。






 暫くして。




「……さぁて」




 一人残された侵入者。




 オーキュノスがいなくなり、静寂漂う空間の中。




「どいつからやっちまおうかぁ!?」




 両腕を広げ、嬉々とし騒ぎ出せば。




「……これももういらねぇや」




 被っていたフードを外し。


 地面へと、かなぐり捨てる。




 そして、護達のほうへと振り返った。




 その瞬間。




「………………は?」




 護は、信じられないものを目にするのだった。

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