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30.フィナーレ


Ardenteアルデンテ -燃えるように-」




「ギャァァァッ!」




Contorcersiコントロツェルシィー inイン agoniaアゴーニア! -悶えろ-」




「ピギャァァァッ!!」




 瀧とツァーカムが激突してから約半刻が過ぎたころ。




「” באלימותレアリムートゥ ” -狂暴に-」




「” להתעצבןレヒタツベル ” -怒り狂え-」




 レフィとメルクーリオ、そしてエルフ国兵達が劇場内から逃げ出した後も。


 両者による攻防は、止まることなく激しく繰り広げられていた。




「こいつ、いつになったらくたばるのっ!」


「はははははっ! いいぞっ! もっと鬩ぎあおう!!」




 二本の指揮棒を振り人形たちを操るツァーカムは、ここまで疲れた様子など見せず。


 依然として続々と瀧を攻撃し続けていたが。




 対して。




「(……まずいな)」




 迫り来る人形たちを倒す瀧は、演奏を続けるのもやっとの状態で。




 目元に映る白鍵は全て赤く染まり、長時間に及ぶ激戦によって、彼の身体は血に塗れ、満身創痍となっていたのだった。




「瀧さん、一度空間を解いて離脱しましょう」




 そんな瀧の様子を、背後から心配するネツァク。




「これ以上はあなたの身が持ちません。どこかで回復し、再び人形たちを倒すほうが」




 このままでは術者である瀧がやられてしまうと。


 取り返しがつかなくなる前に一時撤退を進言するも。




「ダメだ」




 そんなネツァクの言葉を瀧は振り切り。




 構わずに、目の前の鍵盤にしがみつき、人形を倒すためにと音を奏で続ける。




「ですがっ……」




 しかし、気力だけでは現状を維持するのはとうに難しく。徐々に敵への対処も遅れてきていたのだった。




 その時。




「「キシャァァァッ!!」」




「――っ! 瀧さん、危ないっ!」




 二体の人形が瀧の攻撃を潜り抜け、鋭利に伸びた爪を瀧の喉元目掛けて突き刺そうとする。




Pesanteペサンテ! -重々しく-」




「「グギッ!?」」




Smorzantoスモルツァント!! -消え失せろ-」




「「グバァッ!!」」




 それでも間一髪のところ。




 ギリギリで対応した瀧は、人形の動きを封じ、そのまま二体同時にその場から抹消させる。




「はぁ……はぁ……」




「どうやら、先に限界が来たのはそちらのほうですねっ!」




「……っ!」




 辛うじて人形を撃退する瀧を見て、勝ち誇った表情を見せるはプリマドンナが。




「ねぇパリアッチョ。こちらも同じ手ばかりではつまらないのでして?」




 突然、闘いへ夢中になる道化師に声をかけては、さらに瀧を追い詰めようと一つ提案を持ち込もうとする。




「あぁ、そうですね。プリマドンナ」




 そして、それを嬉々として受け入れる道化師は。




「では、今度は質量で試してみましょう」




 と。頬を上げ、手に持つ指揮棒へ力を籠め始める。




「(まだか…….まだなのかっ!)」




 道化師が指揮棒を掲げれば、辺りに散在するマナが急速に指揮棒へと集まり。


 併せ、ツァーカムの周りに待機していた人形たちが、ツァーカムの頭上へ向かって浮遊すれば。




「” לְשַׁלֵבレッシャレーヴ ” -合わされ-」




 道化師が唱えたと同時、集う人形たちの身体は液体のように混ざり合い、その姿、形を一気に変えてゆく。




 そして。




「さぁ。一気に叩き込みなさいっ!」




 プリマドンナが叫べば、頭上には巨大化した一体の人形が現われ。続けざま、舞台上にいる瀧へ向かって襲い掛かろうと動き出す。




「瀧さんっ!!」




 迫る巨大人形の手を前に、演奏を止めようとしない瀧へネツァクが叫ぶ。




「さぁっ! これをどう乗り切るかっ、右京瀧っ!!」




 まだまだお前は愉しませてくれるのだろうと。この術をどう防ぎ、凌いでくれるかと心躍らす道化師。




「” לִמְחוֹץリミホーツ ” -叩き潰せ-」




 巨大化した人形へ向け、勢いよく指揮棒を振りかざし命令する。




「(間に合わなかったのか……)」




 もう、この時点において。




 巨大化した人形を、一気に消し飛ばすほどの力は瀧には残されておらず。


 演奏は続けるも、人形の身体の一部のみしか削り切れず、迫る人形の手を止めることは出来なかった。




 碧ガラスのグランドピアノに、人形の手の影が覆い被さっていく。




「(……ごめん、姉さん)」




 そして、遂に。




 破壊しようと、人形の手がグランドピアノの蓋へと触れようとした瞬間。




 瀧は、静かに目を閉じた。






 その時だった。






「ギャァァァァァッ!!」




「「――っ!?」」




 突然人形が手を離し、大声を上げて叫び始める。




「「な、なにがっ!!」」




 悶え、頭を抱えてはその場で苦しみ出す人形に、何が起きたのか分からず困惑するツァーカム。




 次には。




「アァァァァァァァァァァァッ!!!」




 人形は金切声を上げると、その巨大な両手で拳を作っては自身の身体を殴り、暴走し始めたのだった。






 刹那。






 ―――――――――――――パキッ






 弾けるような乾いた音が。




「「………………え?」」




 ツァーカムの手元で小さくなる。




 そして。




 ―――――――――――――ミシッ






 気になり、その手元を見れば。






「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」




 これまで、ツァーカムによって使役されていた指揮棒が。




「そんなっ……! バカなっ!!」




 真っ二つに折れ、棒先から崩れていたのだった。




「うそよっ! こんなのっ!!」




 朽ちていく指揮棒を見て発狂するプリマドンナに。




「あぁ……まさか、そんなことが……!」




 ショックを受ける道化師。




 これまで数え切れぬほどの人形を召喚し続けてきた指揮棒。


 それは何の異変もなく、ツァーカムの道具として、何度も扱われてきた。




 だが、今この時。


 ネツァクが瀧に伝えていたように。




 ツァーカムの術によって度重なる負荷に耐えきれなくなった指揮棒は。




 とうとう、限界を迎えたのだった。






「あの方から頂いた至高の逸品がっ……! このような形でっ……そんなっ!」


「あぁ……そうか。我は追い込まれたというのかっ!!」




 折れた指揮棒に、慌てふためくツァーカムを見て。




「ようやく、か……」




 死を覚悟していた瀧が、待ち続けた機会の訪れに、強張った身体を弛緩させ、小さく息を吐く。




「根競べに勝ったのは、俺のほうだったな」




 続けて、鍵盤に手を添え直せば。




「ギャァァッ!!」




「グバァッ!!」




 統率を失った人形たちを、片っ端から消滅させていく。




「クソッ! クソォッ!!」


「あぁっ……これが!! 為す術を失い命を狙われるという感覚かっ!!」




 それでも諦めることなく、ボロボロになった指揮棒を振るツァーカムだったが、力強く振るう腕にに対し、振られる指揮棒は脆く弱々しく空を切り。




Energicoエネルジコ -力強く-」




「ギャァッ!」




Serrandoセランド -迫るように-」




「ピギャァァッ!!」




 その間にも、瀧の演奏によって召喚される人形たちは倒され、数を減らしていく。




 そして、遂に。




「…………さぁ、いよいよだ」




 瀧を攻めようとする人形もいなくなり、残されたはツァーカムを守る数体の人形のみとなる。




「覚悟はいいな」




 形勢を逆転され、狼狽するツァーカムを瀧が一瞥すれば。




「調子に乗るなぁっ!!」




 そんな瀧へ、怒れるプリマドンナは顔を歪ませ悪態をつき。




「いいぞっ! 右京瀧っ!! 命狙い、命狙われっ!! これぞまさに生きている証っ!!」




 道化師はこの状況すらも喜び、狂ったように笑い続ける。




「終わりだ」




 そんな二者に対して容赦はなく。




「真・癒技」




 瀧は、技を唱え。




「” צִמצוּםツィンツゥー ” -収縮せ -」




 トドメを刺そうとした。




「ぐっ!?」




 瞬間。




「「――っ!」」




 一瞬の出来事だった。




 ツァーカムを倒そうと、目の前の鍵盤に瀧は指を触れさせた時。




「あぁぁぁっ!!」




 ここまで唯一、ツァーカムの術の影響を受けてこなかった瀧の両指が、ここにきていきなり裂け、壮絶な痛みをもって瀧へと襲い掛かってきたのだ。




 あまりの痛みに瀧は叫び、思わず演奏を止め体勢を崩しその場にうずくまってしまえば。




「っふ…………あはははははははっ!!」




 その姿を見たプリマドンナが猟奇的に笑い。




「なにをしているんだぁぁぁっ!!」




 演奏を止めてしまったことに、再び道化師が怒り狂う。




「どうやら運はこちらに向いていたっ!」


「なぜ演奏を止めたぁぁっ!!」


「あなたの命運はここで尽きっ!!」


「弾けっ! 我を愉しませろぉっ!!」


「偉大なるオーキュノス様の地からを前に潰えるのですっ!」


「さぁ、今すぐっ!! 弾けっ! 弾き直せぇっ!!」




 反撃がこないこの隙を狙い、残りの人形たちを瀧へ仕向けていく。




「「キシャァァァッ!」」




 崩れた指揮棒の姿に影響し、召喚される人形たちの姿も四肢の一部が欠損するなどボロボロで、宙を舞うその動きも鈍化していたが、それでも今の瀧へ近づくには十分なほどに。




「(くそっ……!!)」




 両手を抑え、迫る人形を睨みつける瀧だったが、すぐに身体を起こそうにも蓄積されたダメージが大きく響き、そこから再び演奏を再開させるのは至難なこと。




「瀧さんっ!」




 後ろからはネツァクが叫ぶも、瀧は弾き直せず。




「やってしまいなさいっ!」




 無抵抗の状態の瀧に、人形が襲い掛かろうと。そのもたげた首筋に。




「ギャハハハハッ!」




 凶刃が触れようとした。






 ――――――――――その時だった






「ギャァッ!?」




「――っ!」




 突然、横から一本の槍が、人形めがけて飛んできては。




「ギャッ!? ギャッギャッ!」




 瀧を襲おうとした人形の胴体に、その長槍の石突の部分が当たれば、意表を突かれた人形が、勢いよく舞台袖へと吹っ飛ばされていく。




「(何だっ……!?)」




 思わぬ事態に瀧は驚くと、痛みで顔をしかめながら、長槍を投げつけた人物を探そうと急いで辺りを見渡せば。




「――っ!? お前っ!!」




 舞台下、瀧が見つけたその視線の先には。




「あっちに行ってなさいよっ! このクソ人形っ!!」




 先ほど劇場内から逃げたはずのレフィが、人形に向かって大声で叫びながら、エルフ国兵が落とした長槍を持って構えていたのだった。




「ネツァクッ! 加護の効果を俺からあいつにっ!」




 なぜ、そこにいるのだと。




 レフィの姿を見て一瞬、頭の中が真っ白になった瀧だったが、人形を攻撃したのがレフィだと勘付くやすぐ、後ろに控えるネツァクに命を出せば。




「は、はいっ!」




 ネツァクも予想外の出来事に戸惑っていたが、瀧の声を聴き、己の効果を瀧からレフィへと移す。




「……キャッ!」




 そして、間一髪のところ。




 ネツァクの効果が間に合い、人形を攻撃したレフィには、本来ツァーカムの術により同等のダメージが返ってくるはずだったが、彼女の脇腹に鈍い衝撃が微かに伝わるだけの分で収まり、事なきを得る。




「お前……っ! なんで戻ってきたっ!!」




 レフィが起き上がるや、瀧は形相を変え彼女に向かって叫ぶと。




「理由はに聞いてっ!!」




 と。レフィは一言だけを告げれば瀧の左側のほうを指差し、すぐに別の人形へ向かって空間の中を駆けていってしまう。




 そして。




 レフィが示した方向を瀧が向けば。




「――っ!」




 そこには。




「タキ……さん」




 瀧へ向かい、優しく微笑むメルクーリオが静かに立っていたのだった。




「お前…………なんで」




 そんなメルクーリオの姿を見るや、愕然とする瀧。




「なんで戻ってきたっ!!」




 彼女たちをここから逃げすためにと。




 ネツァクと二人でツァーカムを倒すと、心に決めていた瀧にとって。




「逃げろと言ったはずだぞっ!!」




 ここに再び彼女たちが現れたことが、全くもって理解出来なかった。




「貴方を……助けに、きました」




「――っ!」




 そんな瀧へ、メルクーリオはゆっくりと近づけば。




「ぐっ……!」




 跪き、裂けて血まみれとなった瀧の両手を取っては見つめ、そっと撫でる。




「私たちのために……こんなに……。こんなに傷付いて」




 そして。




 彼女は自身の手で包み込み、その手に己の額を当てる。








「私は……貴方が奏でる音を……。心から、好いて……います」




 目を閉じ祈る、メルクーリオの。




「初めて聴いた、あの教会で」




 握る両手が、輝き出す。




「あの時……私の心は。貴方によって、奪われました……」




 再び彼女は目を開けて。




「だから、どうか……」




 瀧の瞳を見つめれば。




「私が……心から愛する。貴方が奏でるその姿を……また、見せて」




 彼の、手の甲に。




「タキ、さん……」




 そっと。






「愛しています」






 口づけをした。








「――っ!」




 彼女が【青髪の聖女】と呼ばれるその所以。




 人々は、彼女が施す治癒術を、神の御業や奇跡と言い、崇めてきた。




 それは、メルクーリオが持つ強い想い、他者の幸せを心から願う力からこそ生まれてくるものだった。




 そして。


 彼女が真に愛する者へと捧げられた口づけは。




「傷がっ……!」




 傷ついた瀧の身体、その両手をあっという間に癒し、回復させ。




「お前……」




 再び、瀧を闘いの舞台へと、押し上げる。




「タキ、さん……」




 完治した瀧を。




 ――貴方は、孤独なんかじゃない




「どうか、今ここで……」




 見つめる彼女は、頬を赤らめ。




 ――お姉ちゃんがいなくなっても、ちゃんと




「聴かせていただけませんか?」




 少女が可愛く、あどけなく我がままを言うような。




 そんな笑顔を、彼に見せた。






 ――傍で聴いてくれる人が、必ず現れるから






 彼女の顔を見て、思わず視線を外してしまう瀧。




「……感謝する」




 小さく感謝を伝えれば、身体を起こし、鍵盤へと手を乗せる。




「邪魔を、するなぁぁっ!!」




 そんな二人のやり取りを見ていたプリマドンナ。


 折れた指揮棒を乱暴に振り回し、奥底から湧き上がる憎悪を叫び散らせば。




「そうだ右京瀧っ!! もう一度っ! 聴かせてもらおうかっ!」




 己の矜持に従えと、道化師が瀧の演奏を心待ちにする。




「ネツァク」




「はい」




「終わりにしよう」




「えぇ」




 瀧が、ネツァクに合図を送る。




「お前らっ! この空間から離れろっ!」




 八十八の鍵盤に両手を添え、レフィたちに向かって叫べば。




「――っ! はいっ!」




 彼女は瀧の指示に従うと、急いでメルクーリオの下へ走り、彼女を抱えて空間の外へ転移する。




 ――貴方が弾く音色が好きです




「なんだろうな」




 演奏を再開させようと。




「とても、暖かいな」




 目の前の鍵盤に向かい、今一度。瀧が全神経を集中させれば。




「えぇ、そうでしょう」




 そんな瀧の背中を見つめるネツァクが、笑みを零す。




「”我が元へ応えし第七のセフィラ、ネツァクよ”」




「「――っ!!」」




「”我が求む勝利の為、その力を以って我の意を顕現せよ”」




 瀧が詠唱を始めたと同時。




「な、なんですのっ!?」




 突如として空間全体が大きく揺れ始める。




 そして。




「ギャァァッ!?」


「ピギャァァァッ!」




 瀧が発動させた黒い半円状の空間が、揺れと共に、宙を舞う人形たちを次々と巻き込みながら、ツァーカムへ向かって徐々にその大きさを縮めていく。




「” לִפְרוֹץリフォーツ ”!! -こじ開けろ-」




 迫る空間の壁を破壊しようと、プリマドンナが慌てて人形たちへと命令を出すが。




「「グバァァァッ!?」」




「――っ!?」




 小さくなる空間の壁際へ向かっていった人形たちは、その黒の表面に触れた瞬間、断末魔の悲鳴を上げながら跡形もなくその身体を消滅させてしまう。




「なんで……なんでアトレたちが効かないのっ!?」




 目の前の惨状に、狼狽え、後退りするプリマドンナ。




 すると。




「――っ!」




 その背後。




 迫り来る空間に、身に纏うドレスの裾が触れてしまえば。




「そ、そんなっ……!」




 触れた部分は、先ほどの人形たちと同じように、空間によって塵と化し消え去ってしまっていた。




「いやぁぁぁっ! 早くっ! ここから出なければっ!!」




 ようやくにして、自身の窮地に気付くも。




「逃がすと思うか?」




 慌てふためくプリマドンナを見て、瀧は静かな声で威圧する。




「終わりだ、ツァーカム」




 圧縮し続ける空間に。


 瀧は、演奏によって更に力を込めていく。




「パリアッチョッ!! どうにかしなさいっ!」




 叫び、懇願するプリマドンナだったが。




「これがっ……! 死というものなのかっ!!」




 道化師は恐れる様子などなく。


 プリマドンナとは反対に、迫る空間に手を伸ばし、この状況を受け入れる。




Carezzandoカレッツァンド -優しく―」




「や、やめなさい……」




Conコン purezzaピュレッツァ -純真に―」




「嫌よっ! いやぁっ!!」




 泣き叫ぶプリマドンナの、脳に浮かぶは死の一文字。




 瀧が言葉を唱えるたび、黒の空間は確実にツァーカムを追い詰めていく。






「あぁぁぁっ! 足がっ! 足がぁっ!!」


「あぁっ! これが痛みというものっ!」




 激動に飲まれ。




「痛いっ!! 痛ぁぁぁぁぁいいぃぃぃっ!!」


「素晴らしいっ! 素晴らしかったぞっ! 右京瀧っ!!」




 ここまで長く、苦しかった舞台は。




「やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」


「あぁ……なんと…………」




 いよいよ、フィナーレへ。






 これは。






Conコン amoreアモーレ -愛情をもって-」




 これは、最愛の姉を失い、絶望の淵へと堕ちていった一人の青年が。




 再び愛に触れ、その暖かさを思い出した物語。




 薄暗い水底へと沈んでいった心は。


 暖かい光が差し込む地上へと登り。




 大いなる祝福に囲まれて、癒しの音を奏でていく。




 心満たされる青年は。


 天国へと旅立った姉へと祈りを捧げ。




「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!!!」




 最後の一音まで、目いっぱいに響かせて。






「固有技」






 ついに。






 敵の完全消滅をもって。






 この劇物語に。






Torusトーラス -全てを包括せよ―」








 幕を、下ろしたのだった。

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