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2.妨害

「緊急事態っ! 緊急事態!!」




 制御室内にのみ、響き渡るサイレン音。


 ”魔物襲来”と、画面いっぱいに表示されたメインパネルが赤く点滅する中、基地内に滞在するエンジニア達が慌ただしく持ち場に掛かる。




「どうしたっ! 何があった!」




 そこへ、井後が体当たりで入口を開けては、酷く慌てた様子で入ってくる。




「総隊長! ただいまエルフ国フィヨーツにて大量の魔物による襲来が確認されました!」


「なんだとっ!?」




 制御室からの一報に自室から急いで走ってきた井後は、息を切らしながらエンジニアからの報告に驚愕すると、すぐに通信機器が備え付けられた操作盤の下へと向かい、現地に滞在する三将達に連絡を試みる。




「…………まだか!」




 すぐに繋がらない状況に焦りを隠せない井後、目の前で既に展開されたサブモニターへと目を向けつつ、引き続き応答があるまで暫く待っていると。




「-……そ……う、隊長……総隊長っ!-」




「っ! 彩楓か!?」




 ようやく応答をしてきたのは、左雲彩楓。




「魔物の襲来があったとはどういうことだっ! フィヨーツに展開されていた天の加護はどうした!!」




「-そ、それが私にもさっぱりで……! 指示通り生命の樹内の巡回を行っていたところ、急に魔物による襲来があったと、フィヨーツ国内中にサイレンが鳴り響き……!」




「どういう、ことだ……」




 詳細を聞くも、現地で任務に当たっていた彩楓からの返答に困惑する井後。




 すると。




「総隊長っ! たった今レグノ王国からの通信がっ!」


「っ! 今すぐ繋げろっ!!」




 今度は別回線から、井後宛の連絡が届く。




「-……井後殿! ユスティです!-」




 掛けてきた人物はユスティ。




「ユスティ殿! この状況は一体っ!」




「-それが、私にも全く分からずでっ! 今先ほどアリー殿からこちらに連絡があり、それで事態を!-」




 だが、井後が握り締める通信機の向こう側からは、激しい息切れとともに狼狽した様子で応答するユスティの声のみが届き、それ以上の内容が分かることはなく。


 思っていた以上の錯綜ぶりに、周りで作業を続けるエンジニア達も、やり取りが行われている通信の内容に聞き耳を立てながら、みるみるうちに表情を強張らせていく。




「くそっ、なにがどうなって……! エンジニア! 今すぐ三将達の位置を把握しろっ!」


「「「了解いたしました!」」」




 結局、ユスティからも情報を得ることが出来なかった井後は、すぐさまエンジニア達に彩楓達の居場所を把握するよう指示を出す。




 そして。




「……っ! 総隊長! 座標が特定いたしました!」


「どこにいる!!」


「ここは…………恐らく三名とも、生命の樹の内部にいるかとっ!」




 エンジニアの報告とともに、メインパネルに映し出されるフィヨーツ国内の地図。そこに緑点で標された位置は、生命の樹がある場所。




「階層までは!!」


「申し訳ありません! どの層にいるかまでは把握しきれず……っ!」


「ダメか……っ!」




 しかし、特定出来たのは平面上での情報のみ。広大な空間を何層も形成する生命の樹に対しては、彩楓達がどの階層にいるかまでは割り出すことが出来なかった。




 その時。




「-総隊長っ!-」


「っ! どうした彩楓!」


「-恐らく他の二人も生命の樹のどこかの階層にいるはずですっ! 私から二人に連ら……く……をっ…………-」


「彩楓っ……? おいっ、彩楓! 返事をしろっ! どうしたっ!!」




 突如として乱れる通信。彩楓の声が途切れては井後が何度も応答を呼び掛けても、砂嵐の音のみが返ってくる。




「エンジニアっ! 再接続をっ!」


「は、はいっ!」




 すぐさま井後が通信の復旧を命ずるも。




「…………ダメですっ! 全ての回線において現地への通信が途絶えました!!」




 原因不明の障害により、彩楓との通信が不可能となる。




「--っ! 総隊長、大変ですっ!!」


「どうしたっ!」




 更には。




「三将達のステータス情報が……こちらまで届かなくなりました!」


「なんだとっ!?」




 今し方までエンジニア達の手元に映し出されていた三将それぞれのエレマ体の状態を示す情報までもが、完全にシャットアウトとなる。




「リンクはっ!?」


「帰還リンクは繋がってますっ! ですが……ダメです! 強制帰還システムに繋ごうにもエレマ体からの反応が返ってきませんっ!」


「今すぐバックアップに切り替えろっ! 何としてでも呼び戻せっ!!」


「了解いたしましたっ!!」




 悪化する状況は留まることなく。


 なんとしても打破する為、井後からの指示に懸命に応えようとあらゆる手を試行するエンジニア達だが、時が経てど目の前の画面に映し出されるのは、赤い警告表示で書かれた【UNKNOWN】のみ。




「なにが……一体、どうなって……」




 予想だにしない異常事態が次々と襲い掛かり、とうとう井後の頭の中が真っ白になっていく。




「っ! 空宙は…………ユスティ殿っ! 空宙の安否はっ!?」




 その中で、堰を切ったように思い出すは空宙のこと。




 だが。




「-申し訳ございません。こちらも先ほどアリー殿にはソラ殿についても尋ねたのですが……依然、宮殿で囚われていること以外のことは分からず……-」




 ユスティから返ってきた言葉からは、一つまみの希望と成り得るものすらなく。




「そ、そんな…………」




 ユスティの声を聴いた井後が、小さく言葉を漏らすと通信機を持っているほうの腕をゆっくりと、力無く下ろす。




「そ、総隊長……」




 暫く俯く井後だったが。




「引き続き、復旧に全力で当たってくれ……」




 エンジニア達の声に再び顔を上げる。




「空宙……護……彩楓……瀧…………」




 現地にいる隊員達の名を口にする井後。


 そして、心の奥底から皆の無事を願うよう、変わらず【UNKNOWN】とだけ標された画面を、じっと見つめ続けていた。



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