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42.それぞれ


 フィヨーツ国内、中心街にて。




「くそっ、こうもベッタリ張り付かれては何も出来やしないっ!」




 生命の樹で拘束されて以降、ようやくにして解放されたローミッドとペーラ。昨晩と今朝と、二度に渡る取り調べを受けたものの魔族ではないと判断され、両者ともども任務には戻れたが。




「ここまで徹底的にするとは……」




 周りを見渡せば、すぐそこには複数人のエルフ国兵が一定の距離を保ちながら二人を囲う様に並び監視を行っていた。




「天の加護があるとはいえ、いつ魔族が襲ってくるか分からん状況でこんなことを……有事の時に二国間で争っている場合じゃないだろうがっ!」




 周りの兵達には聞かれないよう細心の注意を払いつつ小声で話すも、今回のフィヨーツ側の対応には流石に感情を荒立ててしまうローミッド。




「そう、ですね……」




 そんなローミッドの後ろから歩幅を合わせ静かについてくるペーラ。普段なら己の隊長の発言に対しハッキリとした態度で同意する彼女だが、この時ばかりは訝しげな表情を浮かべ、目の前を歩くローミッドの背をじっと見つめつつ、どこか物言いたげな様子を醸していた。




 その時。




「っ! おいっ! ……それ以上その先へは進むな」




 ローミッドが巡回の為と街の建物が入り組んだ区域へ向かって進もうとした矢先。




「次はこっちへ進め」




 監視を務めていたエルフ国兵の一人が駆け足でローミッドの下へと近づき、建物がある方角とは逆のほうへと強制的に誘導する。




「なに? どうかしたの……?」


「なにかあったのか?」




 傍から見ればその光景は、まるでお咎め者がお縄に捕まり、捕虜として市中を歩き回されているようなもの。


 一連の様子を目にしていたエルフ国民が、ローミッドとペーラを指差し、不穏な表情を浮かべながら、口々にある事ない事を話し始める。




「このままではマナの実以前に、転生の護衛どころじゃなくなるぞ!」




「…………」




 もはやそこには同盟国という関係性など微塵も見られず。一方的に虐げられる二人は為す術なく従わされ、そのまま任務へと足を運ばされる。




* * *




「おいっ、交代の時間だ……って、お前達そこでなにを」


「っ! い、いや……見張ってはいるんだが、さっきからあの二人の様子が……」




 生命の樹内、活動の間にて。




 瀧がいた形成の間と同様に、広大な空間がどこまでも広がる層。


 地面のあちこちからは大小に様々な形状の岩石が突起し、その表層には薄く膜を張る苔が。苔は陽の光を浴びると途端にエメラルド色に発光し、空間内を新緑の色へと優しく染めあげる。




 神秘的な空間。




 普段ならその場にいる誰しもが癒しの恩恵を受け、心穏やかに過ごすことを教授し、許されるはずの空間。




 だが。




「おい……なんだよあいつら」




 見張りのエルフ国兵が戦々恐々を見つめる先。そこには。




「……死にてぇ覚悟は出来てんだろうな」




「あぁ?」




 活動の間が創り出す穏やかさ、とは程遠く。


 空間の中心には、お互いがお互いに今すぐにでも殺さんとばかりの気配を纏いながら、強く睨み合うルーナと護がいた。




「監視されてるだ、これ以上の揉め事はするなだ言われてるけどなぁ、てめぇに遭ったからにはそんなゴチャゴチャ関係ねぇんだよ」




 こうして二人が遭うのは、レグノ王国内王都での乱闘騒ぎ以来のこと。




 ここまでフィヨーツ国へ入国して以降、一度たりとも鉢合わせることなどなかった二人。異なる場所、異なるタイミングで各々の任務に当たっていたがしかし。




「うるせぇ。これ以上お前にピーピーガーガー喧しく言われるのもうんざりなんだよ」




 なんの悪戯か、またしても。


 いくつもの広大な空間の層を有する、この生命の樹の中にて偶然にも顔を合わせてしまったのだ。




「お、おい……誰か止めてこいよ……」




 いつでも命を狙えるとばかり殺気を放ち続ける二人の様子を遠くからじっと見つめていたエルフ国兵達。疑惑が掛けられている者達が逃げ出さないよう、近くでの見張りをマルカから任されているはずだが、そのあまりの険悪な雰囲気に、二人の抗争に巻き沿いを喰らうかもしれないと恐れ、急いで岩陰に身を隠していたのだった。




「き、貴様らっ! 容疑人の身でありながら、この神聖な場所でそのような勝手な行動は」


「「てめぇは黙ってろっ!!」


「ひ、ひぃぃっ!」




 そんな中、岩陰から身を乗り出した一人のエルフ国兵が牽制する為に二人の下へと駆け寄ったが、覇気を帯びた二人からの恫喝の声に怯えてしまい、堪らず小さな悲鳴を上げ、その場に縮こまる。




「さぁ……ぶっ殺してやる」




 いまここに、二人を止められる者は誰もいない。




「はっ! こっちはフル装備だってんだ。あん時みたいに吹っ飛ばせると思うんじゃねぇぞ、クソちび」




 王都での騒動のように、ここは街中でもなく、周りに被害が及ぶこともない。




「「あああああっ!!」」




 薄蘗色の楯と鼠色の楯が、大きな衝撃波を放ちながら中央で激しくぶつかり合う。

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