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34.背理


「…………あ」




 ラレーシェの為、何かの手助けになればと思い自身もマナの混成を試そうとしたオーロ。だが、リヴァイアの言葉に彼女は口を開け、間の抜けた顔を見せてはその場に固まってしまっていた。




「お嬢、久々にやってしまったな」


「あーはは……うっかり」


「もう、ハロフ先生が傍にいたらまた怒られてたところよ?」


「うっ、それだけはちょっと……」




 目を逸らし笑って誤魔化すオーロに、フェニクスとリヴァイアが小言をつきながら彼女に絡みにいく。




「どういうこと?」




 そんな様子を祠の横で見ていたラレーシェ。オーロの近くまでやってきては何を話しているのかと不思議な顔をして尋ねる。




「えっと、マナにはそれぞれ相性があるって話なんだけどね。組み合わせによって、マナの特性を助長させたり、逆に打ち消し合ったりすることがあるの」




「例えばだが、我の日のマナをリヴァイア嬢の水のマナは相性的に打ち消し合う関係となる。簡単な話、ある所に火がついた樹があるとするなら、そこに水をかけると燃え滾る火は消え、水もまた蒸気となり空中へと霧散する。それと同じことだ」




「逆に、ワタシのマナとアスピドおじいちゃんの土のマナは相性的にお互いの良さを引き上げる関係にあるわ。広い土壌に恵みの雨が降る。すると、そこには今ワタシたちの目の前に広がるような木々や植物が芽生えるようになる。フェニちゃんの火のマナは、ティガちゃんの風のマナと相性がいいわね。風は火の力を大きくしてくれるから」




「そ、そうなんだ……」




 オーロ達の話をしっかりと聞くラレーシェだが、難しい顔をしながら返事をする。




「これは召喚士だけじゃなく、魔法士を目指す人たちにとっても凄く基本になる知識なんだけどね……いや~、夢中で考え込んでいてそのことすっかり……あれ?」




 その時。




「ラレーシェちゃん。リフィータ様は四つのマナ全てを混ぜることができるんだよね?」


「う、うん。ラレーシェがこの修行を始める前に、お婆さまから何度か見せてもらったから」


「……フェニクス、リヴァイア。相性がバラバラのマナを全部混ぜるって、そもそもそれって出来ることなの?」




 オーロの中で矛盾が生じる。




「うーん、どうだろうか」


「普通に考えたら無理な話よね。助長されたマナについては存在自体が保たれるからいいけど、打ち消されたマナは更に小さな存在になって散らばっていくから、祠の中に集まったマナも比重が変わるはず。それをコントロールしながら全部を混ぜ合わせるだなんて、果てしなく難しいことよ?」




 オーロの疑問に対し、フェニクスとリヴァイアも首を傾げながら答えていく。




「……ラレーシェちゃん。ラレーシェちゃんは普段どのくらいマナの流れが視える?」




「え? えっと、ぼんやりって感じかな……。その、色とかは分かるんだけど、祠で混ぜている時、マナの動きが早くなるとそれがだんだん分からなくなって……」




「なるほどね……」




 オーロはラレーシェの話を聞くや、顎に手を当て思案顔で何かを考え始める。




 暫くして。




「ラレーシェちゃん。もう一度、祠の中にマナを混ぜ合わせて貰ってもいい?」


「わ、わかったっ!」




 顔を上げたオーロは開口一番にラレーシェへ指示を出すと、それを聞いてすぐに祠へと向かっていくラレーシェの後を追う。




「オーロちゃん、どうするの?」


「まぁ見てて」




 後ろからリヴァイアに尋ねられるも、オーロは振り返ることなく真っ直ぐに祠へと向かう。




「ラレーシェちゃん。一度私がラレーシェちゃんの代わりにマナの流れを視てみるから、ラレーシェちゃんはいつも通りにマナを混ぜるのに集中して」


「う、うん」




 そして、祠に手をかざすラレーシェの傍についたオーロは、安心させるため集中する彼女の背を擦る。




「いくよ」




「いつでも」




「……すぅー、はぁー」




 ラレーシェが呼吸を始めるとすぐ、辺り一帯から幾つものマナが現れては祠へと向かい始める。




「そのまま続けて」




 そして、現れたマナが祠の中へと入って暫くした時だった。




「(……これが)」




 オーロが祠の中で視たもの。


 そこには、赤、青、緑、茶と四つの色に分かれたマナがいくつも混在し、規則的に動くものや、ラレーシェの力が働き不規則に動かされるものなど、まるで万華鏡の中の世界を覗いているような、それぞれが煌びやかに、様々に入り乱れていた。




「……すぅー」




 ラレーシェの呼吸が更に深くなる。




「(マナの動きが……)」




 虹色の輝くを生み出そうと懸命に頑張るラレーシェの呼吸に合わせ、マナの動きが急速に変化していく。




「(もっと、深く……細かいところまで)」




 激しく動くマナの流れ一つ一つを逃さんと、オーロも神経を尖らせ目を凝らす。




 すると。




「すぅー、はぁー」




 ラレーシェが祠へ向け更に力を注いだ瞬間。




「っ!」




 加速し続けるマナがある一定の速度を超えた途端、突如として白熱の輝きを放ち始める。




「(眩しいっ……! でも!)」




 視界を覆わんとする輝きに潰されそうになりながらも、負けじとオーロはその輝く部分を見た、その時だった。




「(……え?)」










「……うわっ!」


「きゃっ!?」




 祠の中のマナが爆発する。




「い、いてて……」




 またしても失敗に終わったラレーシェが、衝撃で後ろへと倒れ、尾骨から背中に駆ける衝撃と痛みに顔を歪ませる。




「っ! オーロねーちゃん、どうだった!?」




 だがすぐに起き上がり、祠の中がどうなっていたかをオーロに聞くも。




「……オーロねーちゃん?」




 すぐに返事がくることはなく。オーロも爆発の衝撃で後ろに転げてはいたが、彼女が見ていた先はラレーシェではなく祠のほう。


 何かあったのかと、ラレーシェがオーロの傍まで近づくと、ようやく気が付いたオーロはゆっくりとラレーシェのほうを向く。




 そして。




「……ラレーシェちゃん」




「だ、大丈夫?」




「……分かったよ」

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