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18.きっかけ


三人称視点






「あっ、いた! おーい! ペーラちゃーん!」


「げっ! またあの人……」




 初対面にも関わらず、ペーラに対し衝撃的な告白をした烈志。


 一度断られてしまったものの、諦める様子は微塵も無く、その後も毎日のように王城に通い詰めてはペーラのことを探し、見つけるたびに口説き続けていた。




 しつこく言い寄られることに嫌気がさしていたペーラは烈志の姿を見るや、建物の陰に身を潜めたり侍女たちに匿ってもらうなどして、その熱を帯びた視線から逃れていた。






 ある日のこと。 




「えっ? 合同訓練?」


「はい。今後魔族が襲ってくる等、有事の際に我々レグノ王国軍と皆様で協力し、迅速に対応できるよう、是非、天下殿に訓練の様子を見学して頂きたく」




 いつも通り、烈志がペーラを探しに王城の中を歩いていた時。


 偶々その姿を目撃したユスティが、剣士部隊の訓練へと誘ってきた。




「ふーん、訓練ねぇ」




 ユスティからの誘いに対し、ふと天井を斜めに見上げながら考え込む烈志。




「(確かペーラちゃんは剣士部隊の副隊長だったから……てことはそこには確実に……)」




 暫くして、再びユスティのほうを向くと。




「いいよ、行く」




 白い歯を見せ、快く受諾した。






 -レグノ王国 王城内 剣士部隊訓練場-




「なんで……いるのよ」


「ふんふんふーんっ」




 数百人の剣士達が目の前で静かに整列する中、訓練場に姿を見せた烈志に顔を引き攣らせるペーラ。それに対し、烈志は想い人を間近で見られることに、頬を緩ませてはにこやかな笑顔を見せる。




「ユスティ殿、これは……」


「急なことで申し訳ございません。天下殿につきましては私からお誘いを申し出まして。魔族が急襲した際、いついかなる時もすぐに同盟国同士が協力し合えるようにと思い、本日、天下殿には当訓練に参加して頂くことになりました」




 ローミッドから事情を尋ねられたユスティは事の経緯を説明する。




「なるほど、そういうことでしたか。天下殿、本日は宜しくお願いします」


「あ、ども」




 ユスティの話に納得したローミッドは天下の隣へと向かい、改めて挨拶を交わす。




「では、総員持ち場へかかれっ!」


「「「はっ!」」」




 そして、ローミッドの号令により、整列していた剣士達はその場から散らばると、各々訓練へと取り組んでいく。








「せぇっ! はぁっ!」


「っし! やぁっ!」




 レグノ王国軍剣士部隊の訓練は基本的に木刀を用いた一対一の模擬戦形式で行われ、勝者と敗者によってその後与えられる課が変わる。




「ぐぁっ!」


「よしっ! 俺の勝ち! 次、どなたかお願いします!」




 勝者は勝者同士で次の模擬戦を行い。




「くそっ、また走り込みと筋トレかよ……」




 敗者は決められた道を走り込み、いくつかの筋力トレーニングをこなすペナルティが課せられる。そして、それら全てを消化した後、負けた者同士で再び模擬戦を行っていく。




 また、この模擬戦に勝ち続け、その連勝数が五回に達した者は。




「隊長っ! お手合わせ願います!」


「承知した。かかってこい」




 剣士部隊部隊長のローミッドとの対戦申し込みが可能となる。




「ふぅー……。いきます!」


「よし、こい!」




 剣士部隊の中でもひときわ体格の良い剣士からの挑戦を快く引き受けるローミッドは、本日最初となる模擬戦を行っていく。








 一方。




「思ってたよりちゃんとしてんだなー」




 訓練が始まって以降、ずっと遠くから様子を見ていた烈志だが。




「ん、ん~。せっかくペーラちゃんとお喋りできると思ってたのに、なんかそんなタイミング無さそうだし……暇だなぁ」




 もう既に飽きが回り始め、木陰がある場所で座り込むと退屈そうにグーッと伸びをし、その場に寝っ転がる。




 その時。




「……ん?」




 広大な訓練場の一部に人だかりが出来ていることに気付く。




「なんだ?」




 微かではあるが、烈志の耳には剣士達のどよめき声が。


 気になった烈志はその場から起き上がると、人だかりのほうへと向かっていった。








「――っし! だいぶやるようになったな!」


「まだまだ! これからですよ!」




 模擬戦の中、言葉を交わすローミッドと挑戦者。


 気付けば二人の周りには幾人かの剣士達が集まり、その一挙手一投足に表情を変え、声を上げる。




 強さを求める者達が、少しでも技術を盗もうと、その目をぎらつかせる。




 必死に挑んでくる剣士に対し、冷静に。


 ブレず、一振り一振りを丁寧に繰り出していくローミッド。




 無駄のない足さばき、決して隙を見せようとしない間合い取り。


 その全てが、長い年月によって練り上げられてきたもの。




「ほぇ~、やっぱあのおっさん強いんだな」




 そんな様子を後ろから覗き込むようにして見ていた烈志。彼もローミッドの剣技、実力に、我にも無く感嘆の声を漏らしていた。




 すると。




「(お? あれは……ペーラちゃん!)」




 人混みの中、周りの剣士達と同様にローミッドの剣技を見るペーラの姿を捉えた烈志。この隙にと、声を掛けに近付こうとした。




 だが。




「(……あれ?)」




「……隊長」




 思わず足を止めてしまった烈志。


 気になったのは、ペーラが見せたその表情。




 ローミッドの剣技に釘付けになっていたペーラ。


 その顔は酔いしれ、きりっとした眼差しは緩み、頬は微かに赤らめながら、淡い吐息を漏らしていた。




「(おん? これって……)」




 ローミッドの勝利で模擬戦に決着がつく。周りから歓声が上がる中、誰よりも先に、嬉々としてローミッドに駆け寄っていくペーラ。




「(まじかよペーラちゃん。まさかおっさん剣士のこと)」




 それをじっと見る烈志は。




「(へぇ……なるほどね)」




 胸中で強い嫉妬心を燃え滾らせては。




「ちょっと、そこのあんた」




「……えっ? 自分?」




 自分の隣を通りかかった剣士に声を掛けると。




「相手してよ」




 地面に落ちていた木刀を拾い上げ、模擬戦を申し出た。








「隊長、お見事です」




 模擬戦を終え、額に流れる汗を手の甲で拭うローミッドに駆け寄るペーラ。




「なに、それほどのことでもない。感謝する」




 ペーラが持ってきた手ぬぐいを受け取ったローミッドは爽やかに応える。




 刹那。




「ん?」




 訓練場中央付近から、幾人かのざわつく声が。




「何事だ?」




 気になったローミッドとペーラが、すぐさま声のした方向を向くと、そこには。




「オラオラァ! どんどん懸かってこいやぁ!」




 同時に三人を相手に木刀を振り回す烈志がいた。




「なにをっ! ぐっ!?」


「この野郎! うわっ!」




 続々と挑んでくる剣士達をいとも簡単に薙ぎ払っていく烈志。


 まるでその姿は剣士というより曲芸師に近いもの。




「あれは、なんとも……」


「まぁ、部下達の相手をしてくれるのであれば有難い話ではあるが……」




 四方八方から挑んでくる剣士達を相手に踊り子が舞うように大立ち回りを繰り広げる様子に、二人は何とも言えない顔になる。




(はっ! どうだいペーラちゃん! 俺だってこんぐらいは……っておい!?)




 止めることなく太刀稽古を続けていた烈志だが、一瞬、気を惹けているかを確かめる為にペーラの方をチラっと見たがそれは虚しく。




 視線の先のペーラは相変わらずローミッドとの会話に夢中になり、烈志のことを見ようとせず。


 終いには、二人ともそのまま各々の訓練へと戻ろうとしていた。




「ちょっ! ペーラちゃん待って」


「隙あり!!」


「うおっ!? 危ねぇっ!?」




 剣を降ろし、訓練に戻ろうとするペーラを呼び止めようとした烈志だったが、周りの剣士達は決して逃がそうとせず。


 軽はずみな考えで参加した模擬戦。ここまで散々煽りながら相手をしてきたツケが回ったこともあり、剣士達の燃え滾る熱意の前に結局、烈志は最後まで相手をさせられるのだった。








 そして夕刻。




「ぜぇ……ぜぇ……」


「では、本日はここまで! 解散っ!」




 ローミッドの号令が、訓練の終わりを告げる。




「天下殿。今日は一日中、私の部下達の訓練に付き合ってくださってありがとうございます」


「い……いや……なんの、その……」




 次々と剣士達が帰っていく中、礼を言うローミッドに対し肩で息をしながら返事をする烈志。




「隊長」


「あぁ。では天下殿、また次の機会も是非、宜しくお願いします」




 そしてペーラに呼ばれ、その場から去ろうとしたローミッドだったが。




「ちょっと、待て」




 この男がこのまま何もせずに別れを告げるわけがなく。




「む? どうした、天下殿」




 思わず振り返るローミッド。




「俺と」




 その申し出が。




「勝負しろ」




 後にそれが、天下烈志という男を狂わせるきっかけとなってしまった。



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