烈志視点
「君の剣では、彼女の目を惹くことなんてできない」
何を言ってるんだ?
オレの剣には振り向かない?
おいおいおい。
ふざけるなって。
ずっと。
「よくも、そんなこと……っ!」
ずっと、ペーラちゃんの気持ちに気付かないふりをしてるお前が。
よくも。
そんなこと、言えたもんだな。
基地からこの世界に初めて転送された日から暫くした頃の事だった。
「ほぇーっ! ここがお城かぁー!」
オレ達スカウト組は、総隊長の指示でレグノの王城に向かっていた。
空宙が音信不通になったって聞いた時、初めは多少なり動揺したけど、まぁ、あいつとはそこまで関わることは無かったし、それ以外に大した感情なんて湧くことはなかった。
そんなことより……。
「うひょー! 左雲ちゃん左雲ちゃんっ! あれ見てよ! めっちゃでけぇ!!」
「やかましいぞ天下。少しは周りの目を気にしろ」
オレは異世界に来て初めて見る街の景色にテンションが爆上がりだった。
珍しいものを見ては子どものように
てか。
「この世界の女性……。みんなレベル高くね?」
右を向いても美人ちゃん。左を向いても弁天ちゃん。
異世界最高か? 天国ですか? いやぁスカウト受けててよかったわぁ~。
みーんなスタイル良いし、あ、ちょっとあの子好みだな声掛けに行「おい、天下」
「……左雲ちゃん、オレちょっとそこの店に用があああああああああ!」
ちょいちょいちょいそんないきなり俺の頭掴んで揺らすなって!
嫉妬!? 嫉妬ですか!?
自分を放っておいて他の女の子に声を掛けにいこうとした事に対するジェラシーですか!?
エレマ体じゃ殴っても痛み感じないから代わりに視界揺らすとかどんだけ性格悪いんだよ!
だからモテないん
「アバババババババッ! 分かった! 分かったって! これ以上はマジで酔うから! 酔うからっ!!」
「…………ったく。いいから黙って王城に入るぞ」
「ういっす……」
左雲ちゃんの堅物め……。
「……ふん。五月蠅い奴らだ」
「めんどくせぇ」
うるせぇよ、お前らもさっきから退屈してんだろぉ?
……面会ねぇ。
そういうの全部、左雲ちゃん一人に任せちゃえばいいのに。
なんてことを考えながら、渋々お城の中へと入っていったんだが。
-レグノ王国 王城内応接室 ―
「……して、この周辺が特に魔物の生息数が多い範囲となりまして……」
いや、マーーーーーージで、暇。
お城に入ってすぐに可愛いメイドちゃんに案内されたは良いけど、部屋に着いたら、なーんか国王様とその秘書? みたいな人が待ってるし、いきなり会議始まったと思ったらずっと難しい話ばっかりしてるし、まぁ左雲ちゃんが対応してくれてるから別に良いんだけど。
ただなぁ……。
「…………っち」
ほらぁぁぁぁぁ。
岩上なんてさっきからずっと貧乏ゆすりしながらイライラしてるし、瀧なんて話すら聞いて……あれ、あいつもしかして寝てる?
左雲ちゃんも横目で見てるのか段々と眉間に皺寄ってきてるし。
はぁ。
さっさと終わってくれないかなぁー。
「では」
「……ん?」
「一先ず大枠だけはお伝えさせて頂きましたので……。次に我々王国軍の各部隊長方との顔合わせに参りましょうか」
部隊長?
あーなんか総隊長が言ってたな。
向こうの世界にもオレ達みたいな役割に附いてるのが何人かいるって。
「まずは……ローミッド殿」
「はっ」
秘書さんが部屋のドアに向かって呼び掛けたとほぼ同時。
最初に入ってきたのは全身ムキムキのおっさんだった。
「皆様、初めまして。この度は我々レグノ王国軍に御協力くださり、誠にありがとうございます。私、レグノ王国軍剣士部隊部隊長を務めます、ローミッド・アハヴァン・ゲシュテインと申します。どうか、宜しくお願い致します」
おーおー、これはこれはご丁寧に。
見た目は総隊長より少し……若いくらいか?
すげー体格良いな。つか剣士ってことは俺と同じ役割じゃね? 強いんかな。
「彼は部隊だけではなく、この国の軍全体の精神的支柱にもなってまして。剣士ということは……天下殿と同じですね。どうか宜しくお願い致します」
「あ、いえ、こちらこそです」
オレはソファから立ち上がってすぐ、目の前の筋骨隆々おっさんと握手した。
「宜しくお願い致します」
「ども」
ほー……。
手めっちゃ分厚いじゃん。この人強いな、多分。
握手した時って、相手がどのくらいの強さかなんとなーく分かるよね、うん。
「そして」
「(さてさて……)」
おっさんと握手を終えたオレはソファに座り直して目の前のティーカップに手を伸ばす。
「本日は私以外に……副隊長ではあるのだがもう一人」
あとは他の人の紹介が終わるのを傍観して待つだけ。終わったらこっそりさっきのお店の子に声掛けに行こ。
「ペーラ、入ってこい」
あぁ~、紅茶がうめぇ~。
「失礼いたします」
ガシャンッ
「…………」
あぁ。なるほどね。
「おい、天下? 天下!」
雷に打たれたような衝撃が走るって、こういうことを言うのね。
おっさん剣士に呼ばれて部屋に入ってきたのはとんでもない超絶美女だった。
腰まで伸びた艶やかな深紅の髪。
キリっとした一重まぶたの目に高い鼻。
ぷっくらとした唇。
「あ、あの……」
水晶のような丸みを帯びた、張りのある胸。
キュッとした腰回り。
相当に鍛えられていると、一目見てすぐ気づくほどに引き締まった尻。
それら全てを包括する、堂々とした立ち姿。
どーしよ。
目が、離せない。
「どうか、しましたか……?」
モデル時代にもよく、撮影現場で一緒になった可愛い子とか、気になった子には声掛けては数えきれないほどご飯とか遊びにも行ったし、街中歩いた時に美女なんて見かけたら即行でナンパもしまくった。
でもね。
「……すげぇ」
どんな女性であっても、こんなにも胸が高まるようなことなんてなかった。
顔とか美貌とか、身体つきが良いとか。
そんな話だけじゃない。
生き様、ってやつなのか?
目の前の麗人から溢れるオーラ。
その人に、視界が吸い寄せられる摩訶不思議。
これは……柑橘系か?
僅かな汗と香水の香りが混じった臭いが鼻の奥にじんわりと溶け込んでいく。
あ、なんだろう。やばい。
「……えっと、その…………なにか?」
この女性のことが知りたい。
この女性と仲良くなりたい。
この女性に気持ちを伝えたい。
「オレと」
気付いた時には。
「結婚してください」
彼女に求婚していた。
振られたよ。